アメリアの微笑み
「クラウス様、ご紹介します。こちらが私のオルヒとリーリエです!」
アメリアに案内されたペットの飼育部屋は大きな窓から陽の光が降り注ぎ、室内は暖かな空気で満ちていた。
大きな長椅子が置かれ、部屋には植物が多く入れられている。むしろちょっとした中庭くらいの規模の茂みが設けられている。
予想もしていなかった光景にクラウスが目を瞬いていると、アメリアが茂みの中から一匹のトカゲを抱え上げ、そしてもう一匹の横に立ってクラウスを振り返りそう言った。
「オルヒはハナトカゲでリーリエはツノイグアナです。どちらも草食で寒くなると眠ってしまいます。オルヒはお花の蜜が大好きで、リーリエはライやルルトの葉を好みます。それから…」
クラウスに長椅子を勧め、オルヒを抱えたままアメリアは隣に座ると、二匹の紹介を始める。
クラウスは最初は呆気に取られ、しかしアメリアの楽しそうな様子に徐々に気持ちを落ち着け、そしてアメリアがクラウスの様子を伺いながら、
「私、オルヒとリーリエと離れたくないのです。本当に連れて嫁いでも大丈夫でしょうか?」と恐る恐る尋ねるのに、
「勿論構わない。飼育するのに必要な使用人も連れてくるといい」と和かに答えた。
まさかアメリアのペットがトカゲとは思わなかった。なるほど、どうりでアメリアが鱗に怯えないわけだ。
クラウスは納得した気持ちでオルヒとリーリエを見遣った。
アメリアはクラウスの言葉に喜んでオルヒに笑いかける。そしてアメリアの足元まで近付いてきたリーリエの頭を撫でる。
そんなアメリアを見ているうちにクラウスは胸の中に風が吹くのを感じた。アメリアがオルヒとリーリエを慈しむ表情に見覚えがあった。
クラウスは思考を止めた。止めなくては崩れ落ちそうな予感がした。アメリアが微笑むのが愛しくて、そしてアメリアの微笑みが辛かった。心臓が鼓動を早めるのが忌々しい。この胸の中の気持ち悪さを追い出したい。
クラウスはアメリアの手にそっと左手を重ねた。
「クラウス様?」
アメリアの膝にいるオルヒを床に下ろす。少しだけアメリアに身体に寄せる。アメリアの手を両手で握り込む。自身の熱を移そうとするかのように優しく。
クラウスの急な態度にアメリアは戸惑った様子ながら、されるままにクラウスを見る。クラウスはアメリアを見詰め、そしてそっとその手を左手で持ち上げると指先に口付けた。
アメリアは顔を赤くして自分の指先を見詰めた。
クラウスはアメリアの指先に繰り返し唇を寄せ、
そして自身の髪を掻き上げると耳にかける。
アメリアをじっと見詰める。
アメリアの右手を左手でそのまま絡めとると右手でアメリアの頬に触れる。
頬をゆるゆると撫でる。
アメリアは恥ずかしそうにクラウスを見上げている。
頬を撫でていた手で髪を撫で、髪を指で掬うと唇を寄せる。
髪に口付けを贈るために閉じていた目を開けるとクラウスはアメリアを見詰める。
自分を見詰めるアメリアに右手を伸ばし、アメリアの瞼にそっと触れる。
アメリアの瞳が瞼に隠されて、クラウスの焦燥感が強くなる。
アメリアに自分だけを見詰めて欲しいと思った。
けれどアメリアに見詰められることに苛立ちも感じた。
クラウスはアメリアの瞼にキスをする。
上気したアメリアが身を震わせる。
クラウスはアメリアの頭を右手でひと撫ですると、アメリアを自身の左側に抱き込む。
アメリアの頭を自身の髪で擦る。
クラウスはそのままアメリアの暖かさを確認して
それからゆっくりと身を離した。
クラウスの熱が遠ざかっていく。
アメリアはそっと瞼を上げた。
アメリアが目を開いた時、クラウスの右目は彼の髪に隠されていた。
彼の顔を覗き込もうとするもクラウスは顔を背けてしまう。
アメリアはそんなクラウスを少しだけ寂しく思ったけれど、顔を見るため追いかけるのは気恥ずかしくて、赤くなった自分の頬を両手で抑えた。
だからアメリアには見ることが出来なかった。
堪えるようにクラウスが唇を噛み締めているのを。




