ドラゴンの呪いと騎士の日常
クラウス=オルデンベルクは侯爵家の三男として生まれ、偶々運良くドラゴンを討伐した功績で五年前に男爵位を賜った。
そして討伐したドラゴンの呪いを受けて右上半身に鱗が現れたことで、婚約者には逃げられた。
女性を怯えさせぬよう顔の右側は出来るだけ髪で隠し、女性の居る場では右腕もマントから出ぬように気を使うようになった。
仮面を着けてみたこともあるのだが、戦闘に不向きであるし、むしろ怯える者が増えたので早々に止めた。
騎士寮で暮らすクラウスの朝は鍛錬で始まり、朝食の後の主な任務は王城警護。
以前は街の巡回任務もしていたが、鱗が現れてからは巡回の任は回ってこなくなった。
とはいえ、急な通報や人数を必要とする任などで街へ出ることも時にはある。
先日も火災の避難誘導のために駆り出された。
常は鱗が見えぬよう手袋を着けるようにしているが、消火のための水が飛び交う中、水に濡れ、煤までかぶってしまっては、とてもそのまま手袋を着けていることも出来ず、右手の甲の鱗を女子供には隠すように気を使うことになった。
夜番をすることはあまりない。金の右目が夜闇に浮かび上がり苦情が出たそうだ。
ドラゴンを倒した直後は、王都中の爵位持ちや上役達から行く先先で話しかけられたり呼び出されたりしたものだったが、俺が特別強いわけでもなく、ただ鱗がついた平凡な騎士であるということが分かったからだろう、それも徐々に収まり、今は平穏な騎士生活を送っている。
折角賜った男爵位ではあるが、鱗のある男に嫁ぎたい女などいるわけもない。
無理に守るような爵位でもないのだから、独りで騎士を全うする人生を送れば良いだろう。