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君にドレスを贈らせてくれ

「お母様、そろそろオルヒとリーリエを、クラウス様に紹介しようと思うのですけれど…」

アメリアはディアナにそう切り出した。


「やはり正式な婚約の前に、オルヒとリーリエを連れて嫁ぐお許しを頂きたいです」

「そうねえ」

ディアナの見る限り、クラウスとアメリアは仲良く過ごしている。ペットの二匹くらい許してくれるだろう。…それが例えトカゲとイグアナであったとしても。

日常的に自分の鱗に触れているわけだから、忌避感もないと思われる。心配だとすれば、アメリアがクラウスのことを好む理由が察せられてしまうことだけれど…


まあアメリアのことを好いてくれているようだし、大丈夫かしらね。

どうせいつかは、伝えなくてはならないことなのだし…


「…そうね。ではクラウス様のご都合が良い時に、家にご招待しましょうか」

「え?私はこの後クラウス様が迎えにいらした時に、オルヒとリーリエを紹介しようかと思ったのですけれど」

アメリアは目を瞬いた。

ディアナは目を眇めた。

「…いくらなんでも、それは性急でしょう?」

「そうかしら…?」アメリアは首を傾げる。


「今日は観劇に行くのでしょう?オルヒとリーリエを紹介する時間を取っていては、遅れてしまうのではなくって?」ゆっくり時間を取って紹介なさい。とディアナが言うと、アメリアは「確かにその通りだわ」と頷いた。


それにクラウス様も突然紹介されれば困惑されるでしょうから、落ち着く時間も取って差し上げなくてはね。

ディアナは心の中でクラウスを案じ、そしてアメリアのことを見捨てないで欲しいと願った。




***




アメリアのオルデンベルクの席での観劇も既に三度目。


クラウスのエスコートにもすっかり慣れて、二人は劇場併設のティールームで今日の芝居の感想を語り合っていた。


「最後の独唱には心打たれました」とアメリアが言えば、「ああ、それにその後の海に街が沈んでいく場面は幻想的だった」とクラウスが続ける。

物語の楽しさを、役者の巧みさを、舞台の華麗さを語り合い。

アメリアが今読んでいる小説のことを話し始め、もうじき咲きそうな庭の花の話しをし、家庭教師に最近褒められるようになったという話しをした。


クラウス様が楽しそうに聞いて下さるから、ついつい話し過ぎてしまうわ。


アメリアはお茶を飲みながら一息つく。



「あー…アメリア嬢」

話が途切れたところで、クラウスがアメリアの名を呼んだ。



「もうすぐ王太子殿下御生誕祝いの夜会が開かれるのは、知っているかい?」

「ええ勿論。我が家は招待されていませんけれど」

「ああ基本的に招待されるのは伯爵家以上だからね。

うちも侯爵家としては両親が招待されているのだけれど、実は私にも招待状が来ているんだよ」

「そうなのですか?」

「うん。なんというか、近隣諸国からも来賓があるからね。まあ箔付に呼ばれるわけだよ」

クラウスがちらっと髪の毛を掻き上げた。

「殿下にお祝いを申し上げたら、隅で大人しくしているだけなのだけれど…」

何かに当てられたようにやや上気した顔のアメリア。

「一緒に行ってくれるかい?」

クラウスが緊張した面持ちで、アメリアを誘った。

「!」


クラウスはドラゴンスレイヤーとして男爵位を賜って以来、外交的な意味合いがある夜会には招待されるようになっていた。

クラウスにさほどの実力がないのは国内では周知の事実ではあるが、それでもドラゴンを倒した印を持つ存在は、外交のカードとして大きな意味があったからだ。


男爵になる前のクラウスは、侯爵家の一員として夜会に参加する際は婚約者を伴っていた。

けれど男爵になってからのクラウスはいつも一人だった。


本来、夜会に一人で参加するのは些か無作法である。


けれど今のクラウスが参加する夜会は、男爵として断ることが出来ないものだけで、クラウスには姉も妹も婚約者もおらず、母は父と参加しなくてはならず、とはいえ怯える女性を誘うことも出来なかったクラウスは、一人で参加するほかなかったのだ。



久しぶりに王家から届いた夜会の招待状を見た時に、クラウスはアメリアを思い浮かべた。


アメリアは、まだ正式にはクラウスの婚約者ではない。

けれどクラウスが誘うことが出来る唯一の女性である。


正式に婚約していないとはいえ、常に一人で参加していたクラウスがアメリアを伴えば、それはほとんどお披露目のようなものである。


クラウスはアメリアに隣にいて欲しかった。

未だ婚約に踏み切れずにいるというのに、自分のものだと知らしめたかった。



「良ければ君にドレスを贈らせてくれ」

クラウスはアメリアに甘く微笑んだ。

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