踏み出せない一歩
「オルヒ」
アメリアは飼育部屋の長椅子に座り、膝の上でハナトカゲのオルヒを撫でた。
アメリアに撫でられて気持ちよさそうにするオルヒを見詰めて「可愛い」と顔を綻ばせる。
オルヒもリーリエもアメリアには愛らしく、つぶらな瞳を見ているといつも頬が緩んでしまう。
「リーリエ」
傍にいたツノイグアナのリーリエを両手で抱き上げる。
じっとリーリエを見詰める。
オルヒの目もリーリエの目もとっても愛らしい。クラウス様の右目も似ていると言えなくはないけれど…
アメリアはクラウスの右目を思い浮かべる。
クラウス様の右目は美しい。可愛らしいオルヒとリーリエとはやはり違うわ。
陽の元で遮るものなく見ることの出来たクラウスの鱗はとても美しく、瞬間的にしか見ることが出来なかった騎士寮での印象よりも力強さを感じさせた。
けれどアメリアが火災で見かけた時から焦がれていた鱗も、クラウスの金の目を前にすればその装飾であるかのようにしか感じられない。
クラウス様の右目を前にすると、何も考えられなくなってしまうわ。
アメリアはオルヒとリーリエを抱きしめて、クラウス様の鱗の手触りはどんな心地かしら、と考えながら心の中で金色を思った。
***
クラウスは休みの度にアメリアをデートに誘い、アメリアとクラウスは連れ立ってあちこちに出掛けた。
街中では右目を隠しているクラウスだったが、アメリアと二人だけの時には髪を上げるようになった。
そんなクラウスのことをギルベルトは揶揄っていたが、揶揄うことにも飽きたようだ。
ソフィアはそろそろ正式に婚約したらどうかしら?とクラウスを促してくる。
クラウスも婚約したいと思っている。
アメリアはクラウスの右目を怖がらないし、美しいと言ってくれる。
顔の鱗を見ても不快な様子もなく、むしろ嬉しげに見詰めてくれる。
見合いから始まった付き合いであるので、婚約するのはむしろ当然のことだ。
けれど…。
アメリアを愛しいと思えば思うほどに、クラウスは不安も感じた。
クラウスの右腕を全て見せても、アメリアは同じように笑ってくれるだろうか。
鱗に覆われた腕で触れても、怯えずにいてくれるだろうか。
婚約を結んだとして、アメリアにもまた破棄されることになってしまったら…
クラウスはその一歩をどうしても踏み出せずにいた。




