美しさのかけら
扉が開いてクラウスの顔が見えた瞬間にギルベルトは目を瞬いた。
クラウスは一言も話さずに踵を返す。
これは…何があった?
ギルベルトは少しの面倒臭さと大きな好奇心と、そして心配を少々混ぜ合わせた気持ちでクラウスの後ろから部屋に入った。
クラウスは言いようのない気持ちを抱えて座り込んでいた。
ただアメリアを泣かせたことが辛かった。
扉が叩かれたので開けた。開けたらギルベルトが入ってきた。
相手をしようとは思えなかった。しかし追い返すような気力も湧いてこなかった。
ギルベルトはクラウスの前で静かに酒を飲んだ。
クラウスを眺めながら、
窓から外を眺めながら、
静かに酒を重ねる。
「それで?」ギルベルトがひっそりと問いかける。
クラウスがギルベルトを見た。
クラウスは口を開き、また俯いて口を閉じる。
「アメリアが…」
「うん」
クラウスが苦しそうな顔で言葉を絞り出した。
「アメリアが俺の右目を見て泣いたんだ」
「…うん」
もう会えない…クラウスはそう呟くと項垂れて椅子に沈み込んだ。
ギルベルトは動かないクラウスに目を眇め、視線を窓へと向けた。
クラウスの部屋からは月がよく見える。
まったく、月見酒なら可愛い女の子としたいもんだよ。
しばらくそのまま月を眺めて杯を空け、クラウスの肩をぽんぽんと叩くと「そろそろ寝ろよ」と声をかけて、部屋を後にした。
まだ終わったと思うのは早いんじゃないかな。と思いながら。
***
アメリアは月を見上げていた。
夜空に浮かぶ月はまるでクラウスの瞳のようだ。
クラウスの髪の影に淡い光が見えた時、アメリアはどうしてもそれを見たいという誘惑に抗うことが出来なかった。
物語から覚めようとしていた時だったから夢の中にいるように感じてしまったのかもしれない。
だから手を伸ばした。
とても美しかった。
あんなにも美しいものをアメリアは見たことがなかった。
その美しさはアメリアの中を満たした。
感動で胸がいっぱいになり、それはアメリアからあふれ出した。
アメリアの中に生まれたその美しさのかけらを留めておきたくて。
目を閉じて美しい金色を心の中で抱きしめた。




