観劇
「騎士の皆様はそのように朝早くから鍛錬をされているのですか!?」
「騎士にも日番、夜番がありますし、皆揃ってというわけではありませんが私の勤務は主に日番ですし、早朝の鍛錬を好んでおります」
「なるほど、クラウス様は夜寝る特性なのですね…」
「特性?」
「い…いえ、その、わ、私も夜よりも朝の方を好んでいるのです!」
「そうですか…アメリア嬢は朝は何をして過ごされるのですか?」
「そうですね決まってはおりませんが朝は紅茶を頂いてから本を読んだりお庭を散策したり…」
あぶないところだったわ!朝から活動されると聞いてついついクラウス様は昼行性か…と考えてしまったわ!
アメリアは母ディアナから今日こそはクラウス自身のことを知るように、爬虫類が好きなことはまだ秘密にして、それよりもクラウスにアメリアのことを好ましく思ってもらえるように努力することが先だと厳命されていた。
クラウスはトカゲではなく人間だと朝から顔を合わせる度に言い聞かせられた。
当たり前じゃないクラウス様が人間だなんて。それなのに何度も。
…当たり前なのに、…それなのに私クラウス様のことを昼行性だわ。などと思ってしまって…
確かにお母様が何度も人間だと言いたくなるのも仕方がなかったかもしれないわ…。
クラウス様ごめんなさい。
アメリアは心の中でこっそりとクラウスに謝った。
アメリアは本日子爵邸にクラウスが迎えに来て、まず最初にきちんとクラウスの顔を見た。
クラウス様の目の色は赤!
クラウスをきちんと見ること、クラウスのことをきちんと知ること、これがアメリアの本日の課題だ。
クラウスのエスコートで馬車に乗り込み、まるでお見合いのやり直しのようにお互いについて和やかに話した。
一方クラウスはギルベルトの教えをこそ受けなかったものの、アメリアに出来るだけ心地よく過ごしてもらうためのエスコートをするのが自分の責任であると考えていた。
アメリアが怖がるようなら近付かず、けれど許されるなら楽しく過ごしてもらえるようにと。
母ソフィアからは必ず次の約束をしてくるようにと言われてはいるが…。
アメリア嬢はまた会いたいなどと思ってくれるだろうか。
騎士の仕事のこと、好きな本のこと、好きな食べ物のこと、マイツェン子爵邸の庭園のこと、オルデンベルク領のこと、アメリアとの和やかな時間をクラウスは心地よく感じていた。
***
王立劇場の侯爵家の席に案内され、アメリアはその見晴らしに瞳を輝かせた。
舞台上手側に位置しているオルデンベルク侯爵家のボックス席には長椅子がひとつ。
いつもは用意されているはずの一人掛けの椅子は何故だか何処にも見当たらない。
…!…母上の仕業だな…。
クラウスは狼狽えたが、いつもを知らないアメリアは初めての侯爵家の席にはしゃいでいる。
「私はいつもはあの辺りで観るのですよ」と一階の中頃の席を指す。
…仕方がない、ここで椅子を新しく用意させるような時間もないだろう。というか椅子は今日は用意できないと言われかねない。
クラウスは躊躇の色を見せないように気を付けながらアメリアを長椅子へと導いた。
アメリアを長椅子に掛けさせるとクラウスはアメリアの右側に座る。
距離は近過ぎると思うが…しかし横であれば鱗も見えぬし、左側ならば安心出来るだろう。
本日もクラウスは手袋まできちんとしており、手も首筋も、右側の鱗が見えぬように隙のない服装をしている。顔も右側は髪で覆い、鱗もそして金の右目も晒さないようにいつも以上に気を使っていた。それでももしアメリアが不快そうにするのであれば自分は立っていようかと思っていたが…、アメリアは楽しそうに今日の演目について話している。
義務感に占められていた気持ちが楽しさに変わっていることにクラウスは気付いているだろうか。
アメリアを見詰めるクラウスの口の端は、緩やかに弧を描いていた。




