ドラゴンの呪いと婚約破棄
全29話で第1部完の予定です。
まさかドラゴンに遭遇する日が来るなどと想像したこともなかった。
ましてそのドラゴンを倒すなどとは想像しようにも出来まい。
オルデンベルク侯爵家の三男として生まれ、身を立てる為に騎士になった。
とはいえ殊更に武勇に優れていた、というわけではない。
官吏になるよりは、と騎士を選んだにすぎない。
騎士として贔屓目に見たとしても平凡な域を出ないだろう。
そんな俺がドラゴンを倒せたのは、偶々のことで、ただの幸運で、
とても実力とは言えない。
けれどそれでもドラゴンを倒してしまった俺は
ドラゴンスレイヤーとして男爵位を賜り
そして結婚に向けて準備を進めていた婚約を破棄された。
右腕、そして右肩、首から右頬、こめかみまで
上半身の右側には俺が倒したドラゴンの呪いを受けて
ドラゴンと同じ赤い鱗が現れた。
右目の色は金色に、そして瞳孔は縦長へと変化している。
婚約者はそんな俺に会い怯え
そして二度と会おうとはしなかった。
ドラゴンの呪いを解くことは出来ないのか。
治癒師では呪いを解くことは出来ず
オルデンベルク侯爵である父がドラゴンの研究者を探し出して招いたところ
ドラゴンの呪いを受けた身体を仔細に観察され
水に漬けられ 土に埋められ 火を付けられかけたところで
流石に俺は逃げた。
ドラゴンの呪いを解く前に焼き殺される。
もっと穏便に呪いを解くことは出来ないのかと必死で尋ねると
ドラゴンの呪いとは
寿命を全う出来なかったドラゴンが
命を奪った相手に対し
残りの寿命の長さだけ印を付ける行為なのだそうだ。
自分を殺したことへの恨みなのか
自分を殺せる強き者を称えているのか
どんな意味があるのかは解明されていないが
ただの印。
ドラゴンの残りの寿命分と言われてはいるが
実際のところ印のある者の寿命が伸びるわけでもなく
寿命の長さ分というのは根拠のない迷信のようなものだそう。
そういうわけだから
真相を究明するために是非実験を続けたい
と意気込んだ研究者を家から叩き出した。
実験。
解呪ではなかったのだ
実験だったのだ。
そんなわけで
俺は地位と名誉を得て、将来の伴侶を失った。