WOMAN
たとえ寿里を慮っての好意だったとしても彼のしたことは大きな過ちだった。男女間の溝にお金など持ち出す行為は気持ちを踏みにじる以外の何物でもない。断じてしてはならない事を犯した彼は自業自得なのだと寿里は強気だった。しかしそんな寿里にも一つだけ後味悪いことがあった。それは当事者ではない奥さんを巻き込んでしまったことだった。
「寿里ちゃんが言うように確かに奥さんには何の罪もないから気の毒だけどこの件で夫婦間に波風立ったとしても二人がこれからも一緒に生活する道を選んだとしたら今まで以上にいい夫婦になれると思うわ」
「もう一度管理人のおじさんに会ってこようかな。うまくいってるなら二人は今まで以上に幸せだって事でしょ 奥さんを不幸にする理由なんて私にはないんだもの」
「そんな確認しなくたった大丈夫よ。二人はうまくやっているわ」
「どうしてわかるの」
「夫婦の絆ってね、そう簡単には断ち切れないように出来てるからよ」
「そうなんだ・・だからママとパパも」
「両親もどうかしたの」
「ううんなにも。わたしね彼との事があってからなの、素直に御馳走になったりプレゼントを貰ったりすることが出来なくなったのは・・ それと家族持ち男性とのお付き合いは絶対NGだけど出会う人に奥さんいますかなんて聞けないから恋愛も面倒で億劫になってしまって・・何だか疲れちゃった」
「それしきぐらいの事でめげていたらこの先の人生しんどいの連続よ 寿里ちゃんらしくないわ」
「志桜里ママが言う私らしいってなぁに?他の人に私はどんなふうに見えているのかな。きっと私は志桜里ママが思ってるような子じゃないわ」
「小賢しく繕ったところで鍍金は剥がれるものよ。寿里ちゃんは私の見立て通りの子、間違いないわ 卑下したりしないでもっと自分を誉めて自信を持っていいのよ」
「・・・・」
「寿里ちゃん今度お店が休みのとき遊びにいらっしゃいよ。ゆっくり話せるように寿里ちゃん貸切にしてまっているから」
「はいって即答できなくてごめんなさい。でも志桜里ママの気持ちすごくうれしいわ ありがとう」
彼との事とは別な何かに一人思い悩んでいるに違いない寿里の様子に志桜里はうすうす気づいていた。