川下り散策
手がかりを求めて。
翌日の朝いちばんの川下りの舟に乗り込む伊武夫妻だった。
海外の観光客に混じり、先頭に陣取る。
舟はゆっくりと両岸から桜舞う三柱神社の欄干橋を抜ける。
船頭の小気味よいガイドや唄に思わず、受雷は観光気分に陥りそうになるが、集中して手がかりを探る。
真美は目を輝かせ、写メを撮りまくっている。
「・・・・・・」
受雷は呆れつつ、こっそりと微笑んだ。
舟は城堀水門橋を抜けて、掘割へと入りゆっくり進んでいく。
「えー手前の橋が石橋です。頭上と橋の壁にお気をつけください」
船頭のガイドの中、
「あなた」
「ああ、ここで一郎さんが、だけど水位は浅いし、こんなところで」
「河童の川流れってヤツかしら」
2人はその現場を訝しがった。
かつて、川田一郎が、熱中症と過労で落水した場所。
受雷は心を研ぎ澄ませる。
「はーい。くぐります。気をつけて」
船頭の声かけの後、舟はあっという間に橋をくぐり抜けた。
「なにか分かった」
「う・・・うん、ああ」
受雷は強烈な違和感を覚えたものの、その正体が何であるかまでは分らなかった。
下船後、真美に気分転換と御花やさげもん(吊るし雛の一種)で賑わう沖端の町をぶらり散策する。
観光気分ではしゃぐ真美に、受雷は苦笑いを浮かべる。
帰りは町まで徒歩で行く。
途中、野木屋珈琲店で2人は、おそい昼食をとった。
名物高菜ライスにコーヒー。
「おいしい」
真美は運ばれた高菜ライスを、ぱちりと一枚写メを撮ると、一口スプーンで頬張った。
「・・・・・・」
思案する受雷は、無言のまま次々と高菜ライスを口に運ぶ。
「ちょっと、味わいなさいよ」
「・・・・・・」
受雷は集中するあまり、妻の声も聞こえず平らげた。
それから、フリスクを取り出し、大量に頬張ると、コーヒーで流し込む。
「うっわ・・・やっぱ、そのスタイル受け付けないわ」
真美は言った。
「ほっとけ」
受雷は返した。
「ああ帰ってきたね」
彼女は彼の顔の前で、右手を何度か振った。
ぱちぱちと瞬きする受雷。
「まあな。一旦、ホテルに帰ろう。ちと、ばっちゃんと話してみる」
「そう」
真美は、味わいながら高菜ライスを堪能する。
受雷は腕組みをし、彼女の食事が終わるまで目を閉じた。
でえと。