依頼水郷へ
依頼受理。
伊武受雷は40歳となった。
黒髪には、所々白いものが目立つようになっている。
妻の真美はそっとテーブルにコーヒーを置く。
「ありがと」
「うん」
彼女はにっこりと微笑むと、静かに書斎を出ていった。
香りを楽しみ一口啜る。
「うーん」
(おい)
突然、聞こえる声。
「ばっちゃん!」
思わずコーヒーを噴き出す。
初音は受雷に告げる。
(今から電話が鳴る。すまんがその人の所に行ってくれんか。死人の力ではどうにもならん)
「・・・大事なこと?」
(ああ)
「わかった・・・ふむ」
彼は腕を組み、じっと書斎にある置き電話を見つめた。
ほどなく、
リーン、リーンと電話が鳴った。
「はい。こちら伊武探偵事務所」
「・・・あの」
電話先から聞こえる遠慮がちな声。
(はいはい、分っているよ。ばっちゃん)
「初音の孫、伊武受雷です。話は祖母からお伺いしております」
「へ!はあ」
受話器から聴こえる驚きと安堵の声。
「・・・よろしくお願いします」
二日後、受雷と真美は機上の人となった。
福岡空港より西鉄電車で南下、柳川駅へ到着した。
真新しい駅舎の階段を降りると、品のいい老婦人が見えた。
受雷は、その人が祖母からの依頼人だとすぐ分かった。
「川田さんですか?」
「伊武さん?」
「はい。探偵の伊武受雷です・・・こっちは」
「助手兼妻の真美です」
「そう仲のいい2人なのね」
桜はころころと笑った。
柳川へ。