第9話 見えてきた答え
そうこうしているうちにミーティング室に着いた。
「やあ、邪魔してるよ」
右手を上げ、ニコニコと笑う杓吾。その奥の机に藍蘭がいた。何やら資料をめくっては険しい顔をしている。
「邪魔してるぞ」
「「!?!?」」
寝耳に水だったため、驚きのあまり硬直してしまった。
「遅いぞ、お前たち!!!ラン様を待たせるでない!!!」
聞き覚えのある声。声聞くだけでげんなりしてしまう。あまり関わりたくないやつのやつがここにいる。声のする方を見ると、十弁天雨月がいた。
杓吾の息子で、藍蘭の甥っ子でもあり、熱心的な信仰者。顔すらも合わせたくないので顔をそむけると向こうから近づいてきた。
「なぜ!!そっぽを向くんだ!!!!?ラン様の神々しいお姿をきちんと見ろ!!!目に焼き付けないか!!!!」
「はいはい、落ち着け。バカヅキ」
「ぐえっ!??」
近づく雨月を後ろから止めたせいで、雨月は洋服に首を絞められ無様な声を上げた。ゲホゲホ言う雨月の後ろで、兄の界吾がいた。
「おい!クソニキ!!この無礼ものを今すぐとっちめるべきだ!!!」
「良いから落ち着けって、主の前で無様な姿を晒したくないだろ」
界吾の一言で雨月は態度を改め、藍蘭に向けて深々とお辞儀をする。
「申し訳ございません!!!!」
「愉快な甥っ子で楽しいよ」
資料を眺めながら、言ってるが、雨月にとってはご褒美らしく素直に喜んでいる。藍蘭の隣で杓吾がため息ついているのが見える…。
「…どこで育てかた間違えたんだか…」
「黙れ、お前に育てられた覚えはない」
「はっはっはっ、父に向っていい態度だな…?」
今にも始まりそうな親子喧嘩の中、閻斗が尋ねた。
「なぜ、ここに十弁天家の隠密部隊がここにいるんですか?」
「ああそれは、これを届けに来たんだ」
界吾の左手にある分厚い資料。タイトルは死んだ人たちが務めていたゲーミング会社。
「この二人に頼んでおいたんだ」
雨月、界吾は十弁天家における隠密を担っている。態度はひねくれている部分もあるが、実力は確かである。雨月はまだ杓吾と言い争いしているのをめんどくさいのか、界吾は二人を無視して話を進める。
「現時点で判明していることは、あるプロジェクトの元メンバーだったことだ。」
「プロジェクトのメンバー?」
神妙な顔で聞いている藍蘭。そのあとに続く言葉を待つ俺たち。
「まあ端折ると、ごたごたがあったからプロジェクト解散。んでまあ責任はそのメンバーの一人に擦り付けられたってわけだ」
「端折りすぎだ」
ため息交じりに頭を抱える藍蘭。
「端的過ぎてわからないです…」
言葉を選びながら場をなだめる閻斗。
「もーちょい詳しく話してください」
「………めんどくせー…」
聞こえないようにぼそっとつぶやく界吾を藍蘭が睨んだ。界吾は慌てて、姿勢を正し、続けた。
「プロジェクトのタイトルは、霧消東京。タイトルはともかく、内容は面白い…。内容は、大震災が起こったのちの東京が舞台になっていて、霧ばかりが立ち込める。東京ももちろん壊滅状態の東京で、大震災によって地下深くに眠っていた新ウイルスが蔓延し、狂暴化した動物を倒しながら、ウイルスの抗体を作り出して、事件解決を狙う感じですかね。今年の6月に販売される予定だった…が」
急に声のトーンが落ちた。神妙な顔立ちで話す雨月。
「最初に計画されていたゲームとは全く違う内容にすり替わっており、パクリ疑惑で大騒ぎになり、当然販売中止。プロジェクトの一員であった日山優太に全責任を負わされ、会社をやめさせられた。それを苦に思った日山という人間は自殺した…。これが事の顛末だ、が」
続きを雨月が言う。
「調査した結果、チームの一員の中の何人かによって作られたデマをみんな信じ…そして会社から追い出した。」
「よくある事だな。デマは真実に勝るってやつ」
「今じゃ良くあることだな。あることないこと書かれ、それだけが先に走り回ってしまうよな」
「それで、真実に気づいた時にはもうその人はいなくて、原因を生み出した奴らだけが会社にいる…というのが現状。んでまあこの4人はその原因を作ったと言っても過言ではない」
書類をめくりあるページを見せる。
「まずはこの女。ハニトラ担当。他の社員に色仕掛けを仕掛けては情報を盗む担当を担っていた。そしてこの二人の男は、情報漏洩。しかもかなりの機密情報を、だ。更にこのゲームの内容を他の会社に売っている。挙句に、最後の一人は、自分の権力を笠に着てやりたい放題の暴君。」
「はあー…」
書類を見るだけでもうんざりなのに、言葉を聞いてさらに気が滅入った。
「こいつまじで最悪だな」
「…勤務態度最悪、技術は素人、だが親が金持ち…典型的なタイプだな」
「本当にこういうのがいるせいで社会は腐るんですよ!!!実力が基準の社会であるべきなんですよ!」
雨月が急に叫んだ。鼓膜破けるかと思ったから少し黙ってて欲しい。
「うるさい」
「すっすみません!!」
「ふーむそうなるとワシらはこのエースと呼ばれてた“日山優太”が化ケ物落ちしたとみて調査を進めるでいいな?」
化ケ物落ちとは、強い未練、殺意を抱く人間が死後、奈落に逃げ込むことで輪廻を回ることなく化ケ物へと変貌を遂げることである。
「…そうだな」
なにか考え込んでる藍蘭。周りも藍蘭が次の言葉を発するのを待っている。藍蘭は何も表情を変えずに、ターゲットであろう1人の写真を指で叩く。
「とりあえず…今までの作戦は中断。この無能を監視する。襲撃があった場合、直ちに迎撃。いいな。」
「「はい!!」」