第8話「思い込み」
「っはーーーーーー、つっかれた…」
「虹大様ありがとうございました」
「おおおおお、すごいすごい文字が浮かんでくる!」
「はは…なんだ、その感想…。初めて聞いたぞ」
氷がほとんど解けて、味の薄くなったココアを飲む。
「えー反応薄いんだけど?」
「なんでさ、文明の利器を知らないんだよ…逆にどうやってその生活を送ってきたのかききてーわ…」
俺の悩みをよそに目を輝かせながらスマホを操作しようとしているドウレンを見ているとなんだかかわいく思えてきた。口元が綻ぶ。
「ふっ…」
こんな平和的な時間は久しぶりな気がする。ほんの少しの間、スマホを眺めているドウレンを見つめていたら急に俺の方を見てきた。
「ねえ!お礼にさ!面白いことを教えてあげる!」
「?」
「お化け灯篭って知っている?」
「いや。なんだそれ」
「日光の東照宮にある灯篭なんだけど、他にある灯篭と何も変哲ないんだよ。でもその灯篭は傷でいっぱいよ。だけれども日光にあるのだけはお化けと言われる理由を知ってるかい?」
「うーん…お化けに見えたからじゃないのか?」
「暗いからだ」
「く…らい?」
「そう」
「暗いから?」
「人間って、情報の9割は視覚から得ているんでしょう?ならもし、あの真っ暗な空間でぼんやりと明かりが浮かんでいたら何だと思う?そう、得体のしれないもの、お化けだと思い込むのさ。たとえ昼間、そこに灯篭があると知っていたとしても、今、見てるものに勝るものはないんだ」
「思い込みって怖いな」
「でしょう、暗さって情報を誤認させるし、自分の感情を揺さぶる…」
カランとコップの中にある氷をかき混ぜながらほほ笑むドウレンの笑顔が歪な気がした。
背中に悪寒が走った気がした。
「どうかな!面白いと思ったんだけど!」
急に顔を近づけていつもの笑顔を見せた。
出来事が急すぎて、頭が追い付かない。
「ドウレン様の見方が独特過ぎるからじゃないですか?」
「お前は黙ってて」
「あ…まあ…あの面白いと思いますよ…?」
「ほら!!!!」
机叩いて執事に指差し勝ち誇った顔してるドウレン。
それでいいのか!?
あれからいくつか雑談を交わしていたら時間は18時を回っていた。
「あれ虹大?」
声をかけたほうを振り向くと閻斗がいた。
「あれぜん兄…、っ今何時!?」
「あっ…ああ、今18時15分ごろだね。もうすぐミーティング始まるころだね」
「あー…ごめんドウレン、そろそろ行かなきゃ」
「あっごめん長話しちゃった?」
「ううん、大丈夫。行ける日あったらメールするわ」
「分かった。待ってるよ。」
カフェでドウレンと別れた後、閻斗と一緒にミーティングルームに向かった。
「さっきの子は友達かい」
「そ…うなのか。そうだと思います」
「随分と綺麗な子だね」
「……大丈夫ですよ。アイツは男の子ですよ」
「え!?そうなの!?人は見かけによらないもんなんだな…」
「ぜん兄が間違えるなんて相当なんだな」
「……その…しぐさが女性だったからてっきり女性かと…」
顔を赤めながら気まずそうに話す閻斗。それもそう、閻斗は女性が苦手である。