第7話 平凡な日
翌日
ぜん兄の泣きそうな顔に引きずられあまり寝られた気がしなかった。
欠伸を噛み殺しながらいつも通りの学校を終え、少し時間もあるし、訓練室で寝ようかと思い、本部に向かうと見覚えのある長髪の人がいた。
「えっ!?何…してんの?」
「あっ!ニジ君だあ!ねえこれ忘れ物じゃない?」
ドウレンが差し出してきたのは、あの時なくしたと思った入館証だった。
「あ!!よかった~…探してたんだ」
というのも、八咫烏の身分証は個人情報も保存されてるため、なくすと直属の上司にこっぴどく叱られる。
俺の場合は藍蘭にものすごくしごかれた。
もう二度となくさないと心に誓った。
仮の身分証を携えつつ、本物の身分証を探すことが課せられている。
GPSがついているからすぐ見つかるはずだったんだけど全然見つからなくて途方に暮れていたところだった。
「あ~~やっぱり!ねえほら、ニジ君のだったでしょう?勝手に家の物じゃないからって捨てないで!」
「…すみませんでした」
ドウレンの後ろにいた執事のような人がお辞儀をする。
気配がなさ過ぎてビビった。
「分かればよろしい!ごめんね、本当はもっと早く渡しに行くべきだったんだけど」
「ううん全然。は~これで叱られずに済む…」
「あのさ、ニジ君のさ、バイト先って、会社なの?」
「えっ、あっ、うん。」
いっけね、久しぶりにこの質問された。
本部は上場企業が建ち並ぶ大手町にビルを構えているので、一般人にはこう答えるようにとあらかじめ指導を受けている。
「そう、会社の事務作業のお手伝いをしてるんだ。つっても、ここんとこ、お茶くみが多いけど」
「ふーん。お茶くみなんて自分でやればいいのに。変わった会社だねえ」
「あ~、忙しいから仕方ないんじゃない。」
「ふーん…、あっそうだ、ねえさ、すまほ、って持ってる?」
「持ってるけどどうしたの?」
「こないださ、ニジ君にまた来てほしいみたいなこと言ったと思うんだけど、連絡手段なかったらどうしようもないから、連絡先を聞いておこうと思って」
「確かにそれもそうだ。待ってて」
ポケットからスマホを出し、連絡先を開く。
「ちょっとそれ貸して。」
ドウレンからスマホを借りて自分の連絡先を入力し、送信チェックをする。
「うん、これで大丈夫、ほら…ってどうしたの?」
物珍しそうな顔で眺めているドウレンにびっくりさせられた。
「スイスイうごいててすごーい。」
「えっ。使ったことないの?」
「うん、ない」
「今までどうしてたの?」
「執事が」
…いやいやいやいや。うすうす感じていたけど、箱入り坊ちゃんなのか…?執事が連絡を取るなら確かに使わないけどさ…。
「ちょっと!!ねえ!!急に黙るのやめて!!」
「ねえさ、それ使ってできることって何?」
「えーっと………ろっ…く、かいじょ?」
「マジで言ってんの…?」
「ドウレン様は機械音痴ゆえ、何度教えても覚えてくださりません」
「うわっ!?あっそうなの…?」
急に話しかけられてびっくりした。
ちょっと心臓に悪いな、執事って。
スマホの画面を確認するとまだ16時前。
まだ時間に余裕あるし、眠気を我慢してレクチャーするか。
「ちょっとそこのカフェで、使い方教えるから。といっても、メッセージ出来るようになる程度だけどそれでいいですか?」
「かしこまりました。お席を確保致しますね。」
「えーー!執事は他の席に座ってよーー!」
「と言われましても、この間のようなことがあると、わたくし目の心臓に悪いですので…。」
深々とお辞儀する執事。
「まーまーいいじゃん。ほら行こうよ、ドウレン」
「やだーーーーーーー!!」
ふてくされながらもついてきてくれるドウレン。
そして30分ほど、レクチャーし、メールを送信や文をかけるほどまでになった。