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暁にあかれば  作者: 燎サイチ
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第6話 無日常

さぼってた

 5日後 25時


  特に何も変化はなく、ただ5日が過ぎた。いつも通りの化ケ物を掃討したぐらいで、特に大きなことは起きなかった。学校が終わればミーティング室に向かい、今日襲撃可能性のある場所に隊員を配置し、その場で待機。

  ほとんどの隊員は作戦を受諾してるにもかかわらず、快二はというと、ミーティング室にすら来ない。藍蘭は来ない人に対しては特に対応をとることはない。組織に属している以上、自分の責任は自分で持てというスタンスなため、心優しい隊員でもいない限り瀬央には全く作戦が伝わらないということになる。


(そもそも本人が来ないとな…。)

 作戦会議を傍目に、豆乳ココアのパックを飲みながら窓の外を眺める。

 今にも頭がパンクしそうな顔をしているカノン、隙あらば、寝ようとしているアオ、何度も紙をめくって作戦場所を覚えようとしている隊員たち。藍蘭と何かを話している閻斗。

「やあ、紫之宮くん。」

「!?ごほっ!?」

 急に後ろから声をかけられて、むせた。ゲホゲホむせながら声のする方を向くと杓吾がそこにいた。

「いやなに、退屈そうだったからね。声かけさせてもらったよ」

「もう少しで、ココアに溺れるところでしたよ。どうしたんですか。」

「いやなに、面白い冗談だね、それ。ココアで溺れることなんてあるのかい」

 真剣に取り合うだけ無駄だなと無視を決め込もうと思ったその時、気になることを言われた。

「閻斗はかわいそうなやつでね」

「かわいそう?ぜん兄が?」

「素直に心に従えない。だからいつも本心を隠して、他人とは線を引いて隔てて、生活している。それは仕方ないか…あの家は本当にクソだから」

 一瞬殺意を感じた。鋭利なナイフを目の前に突きつけられたようなピリッとした空気になったがすぐさま、ナイフは消えた。杓吾の方を見ると、手のかかるガキはめんどうくさいなという顔しながら続けた。


「とまあ、心の赴くままに動くことを閻斗自身が知らないから…、うん、本当に…面白い」

(面白いって言ってるじゃないか…?)

「おっといけない本音が出てしまった。」

(しまったとすら思ってないな?この人…。)

「そんなわけだ、きっとこの先、閻斗が踏み入られたくない領域が踏み荒らされることがあると思うから、その時は閻斗のフォローをしっかり頼むよ。これはワシからのお願いだ。」

 いつになく真剣な顔をしている杓吾。それもそうだ。

 杓吾は十弁天の家に生まれたにもかかわらず、杓吾は天の力を継承できなかった。


 そもそも“天”というのは、かつてこの国に舞い降りた天女の継承者という意味合いも込められている。それゆえ子孫たちが生まれるたびに祝福を受けるのが習わしだが、杓吾は祝福を受け取れなかった。

 それゆえに、“火”を継げなかった閻斗の苦境はよくわかるらしい。

 唯一違うのは、十弁天は実力主義のため、力をつけた杓吾は周りを黙らせたし、藍蘭も認識している。

 つまりは、閻斗ほどの扱いはされていないが、その経験ゆえに、火迦命家から引き取り、閻斗を超級に至るまでに鍛え上げさせた。

 そして今はなぜか快二を育成することになっている。ここだけがよくわからないけど、杓吾の腕前は確かだ。


「はあ~分かりました。俺にできることはないと思うんだけど、とりあえず精一杯のフォローをします。」

 俺はこの言葉をこの先一生後悔することになる。

「ありがとう。」

 いつもは凍り付くような作り笑いしか見せない杓吾が、今この瞬間だけは、心の底からの笑顔を出している。すぐにいつもの作り笑いに戻ったが、心の底から出る笑顔とはこんなにも柔らかいものなのだと初めて知った。



 明日の作戦もいつも通りという方向で話がまとまった20時。閻斗に誘われ、晩御飯を食べに行く話になり、ロビーに向かうと討伐から帰ってきた快二がいた。手も足も顔も傷だらけだった。

 俺らをみた途端、バツが悪そうな顔をし、目を逸らしている。早足でエレベーターに向かおうとしている瀬央を閻斗が捕まえた。

「瀬央。明日の作戦なんだけど」

 何も言わない。顔も向けない。ずっとエレベーターの方に顔を向けたままだ。

「ここに書いてあるから、確認してほしいんだ」

 閻斗の右手には作戦概要が書かれている紙があった。先ほど藍蘭と話していたのはきっとこれのことだろう。それでも瀬央は反応しない。

「なあ、瀬央。」

「…よ」

「?どうした?」

「放せよ!落ちこぼれのくせに俺に触るんじゃねえ!!」

 急にキレたかと思えば最低な捨て文句を言っては、掴まれていた左手を思いっきりぶんなげる。そのはずみで作戦の紙も空中に散らばった。瀬央は、そのまま閻斗の方を見ずに、閉まりかけていたエレベーターに駆けこんだ。


「ぜん兄、大丈夫?」

 心配そうに聞くカノンにも反応しない閻斗。ロビーに散らばった紙を集めようと3人で集めていた時、とても寂しそうな声が聞こえた気がした。

「瀬央は…昔はあんなじゃなかったんだ…」

 エレベーターの方を見ながら、今にも泣きそうな顔をした閻斗がそこにいた。あのあと、落ち込む閻斗を励ましながら晩御飯食べたから正直、ご飯食べた気がしない…。


快二→瀬央へ名前変更してます

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