第5話 発端
ずっとさぼってた…
「今日は、目下組織を騒がせている件について打ち合わせを行う。」
藍蘭は、手元にあるタブレットを操作し、中央のホログラムに必要な情報を出している。
「まずはこの映像確認した者はいるか?」
「あっ、これ見えない敵のやつですか?」
「ああ知っている人が多いなら、簡単に説明しよう。見えない化ケ物による襲撃がここ最近相次いで発生している。」
「どういうことでしょうか?」
「情報部が集めたデータによると、霧が発生した後、何名かの隊員並びに通りすがりの一般人が襲われている。」
ミーティング場がざわつく。しかし、藍蘭は特に気にするふうでもなく話を続ける。
「詳しくは情報部の頼む」
「承知しました。ここから、私情報部局員の英がご説明させていただきます。」
タブレットを操作し、先ほどよりも詳しい情報が映し出される。
「こちらをご覧ください、まず情報局が得たデータですがここ2週間東京各所で発生。時刻は大体25~26時頃。」
中央のホログラムに、襲撃地点と襲撃された時間が載っている東京の地図が出されている。
「映像には一切何も映っていませんでした。ただ霧とその中より一層白い霞みたいなのが動いている程度の確認しかできませんでした。そこで、襲われる直前、彼らが何を発していたのかを調べました」
ここまで饒舌に話していた英の口がよどんだ。わつく隊員をひと睨みした杓吾。
「言いづらいことだろうと思うでしょうが、続きをお願いしてもいいでしょうか」
「すみません。あまりにもありえないことでしたので。皆さん口をそろえてこう言うんです。“なぜ超級が”と」
ミーティング室がより一層騒がしくなった。
なぜという顔をしている隊員たち。へえと楽しそうに顎を撫でている杓吾。表情を変えない藍蘭。
彼らが驚くのも無理はない。 なぜなら東京は日本で最も多く防犯カメラが設置されており、情報部の局長並びにその局員の目を避けて、化ケ物肥大化することは叶わないはずだ。
「情報部の目を逃れていたということですか?」
「じょ、情報部がそんな重要な情報を見落とすわけないでしょう!!現に、今までのデータを見返しましたが、そのような化ケ物いませんでしたよ…」
「ということは、新種なのかい?」
杓吾が疑問に思ったことを素直に聞いている。
「情報部はそうだと考えています…が、確かな情報はないんです。今ある情報としては、夜中に霧を纏って襲ってくる、これだけです」
「思った以上に、漠然としてるね。」
渋い顔をした杓吾が言う。
「すみません。局長も他に情報がないか必死に探してるんですが、これ以上は何もなくて…。」
「今まで何人が襲われた?」
藍蘭が尋ねる。
「推定…50名です。ほぼ全員隊員です。」
「そうか、最悪だな」
「ふーむ、厄介だねえ。出現場所やパターンとか何かないかい?」
「そんなものがあれば、とっくに情報上げてるだろう。紫之宮、お前はここまで聞いてどう思った。」
急に話を振られると思わなくて、飲んでいたお茶が気道に入りそうになり、むせた。
「げほっ…、すみません。俺の見解を聞くんですか?」
「そうだが」
「はあ…あてにしないでもらっていいですか?」
「うん、何か気づいたこととかあるのかい?」
藍蘭は気づいていないみたいだが、期待をすると前かがみになる癖がある。今まで何回も見てきたから知っている。 この人は俺に期待している。すでに自分の中で結論が出ているのに意地が悪い人だ。
「いくつか疑問があって。」
「うん」
「まずは、死亡した人って隊員以外に誰がいるんですか?」
「なんで?」
まっとうな疑問を投げかけるカノン。ざわつく会議場。
「あっ、そちらはあまり重要じゃないと思ってたので省いていましたが、死亡内訳はこちらになります。」
真ん中のホログラムに映し出された4人の一般人。年齢も性別も全てバラバラ。
だが。
「この4人みんな同じ会社に勤めてますね」
「あっ本当ですね。でもそれがどうしたのでしょうか?」
「おそらく、隊員の襲撃はカムフラージュじゃないかと思うんです」
「へえ、どうしてだ」
意地悪く質問する藍蘭。いつものことなので気にせず、説明を続ける。
「だって、わざわざ同じ会社の人を襲撃しますか?どうせやるなら無差別の方が向こうの目的も分からないまま、俺らを混乱に陥れることができるはずじゃないですか」
「確かに、一理ある。」
「さらにこれ化ケ物がらみの案件としてみてるんですよね。」
「うーんそうだねえ。」
うなずく杓吾。
「だとしたら、こんな正確に、狙いたい奴だけを狙って襲撃できるっておかしいと思うんです。これまでのデータを確認しても、化ケ物に意思がある例はないので…多分よほど恨んでいるんでしょう、この4人を」
「紫之宮がそう言うんならそうなんだろうな。」
「うん、さすが紫之宮だ。ほぼ正解だ」
拍手をする杓吾。ん?ほぼって今言った?
「ほぼ?どこか間違いがあっ…りましたか?」
「間違いはないさ。だけれども、紫之宮の説明だけでは、まだわからない部分があるんだ。」
「?」
「叔父貴それぐらいにしよう。これから、見回りを強化し、この敵に遭遇した場合、できる限りたくさんの情報を集めつつ、これの撃破を目的とする」
「こちらは、あいつ等に連絡を取って、この会社について調べてみるとしようか」
「そうですね。以上、解散。」
「「「はい」」」
こうしてミーティングは夜中の22時に終わった。何人かは机に倒れるように寝ている。杓吾さんのせいだとは思うけど、あの威圧感は慣れないとけっこう疲れるんだよな…。 自動販売機で買ったココアを開けようとしたとき、向こうから閻斗が来た。
「やあ、虹大くん」
「ぜん兄!あっ、閻斗さんお疲れ様です」
「いいよ、ここまで敬語を使われると疲れるから、いつも通りで構わないよ」
「っす。ぜん兄も大変だね…」
「いやあ、十弁天さんの元に来てからだいぶ楽にはなったけどね、まだまだ風当たりは強いさ」
「ていうかあいつだけでしょ過剰に反応するの」
「いや~…アハハ。今はほら、虹大や、カノン、蒼司がいてさ、楽しいんだ。今この時が続けばいいなって思ってるんだ。だからさ、身内のごたごたがあるかもしれないけど、しっかり任務こなしたいんだ。だから、よろしくな」
爽やかなスマイルで手を出してきた。直に言われると恥ずかしいので、ちょっと顔逸らしながら握手する。
「こちらこそです。」
「しかしまあ、今回の任務は大変そうだね」
「今までにないぐらい過去最悪の出来事なんでしたっけ」
「そうそう、そのせいか、隊員も基本的に上級ばかりだね」
「…瀬央は中級じゃないですか。なんでここにいるんですか」
「いやあ…あの家が考えることなんて誰にもわからないよ」
右手に持っていたブラックコーヒーをグイっと飲む閻斗。その姿にはほんの少しの怒りを感じられた。
「…」
「虹大が気にすることはないって!ほら今夜から頑張ろうな」
ドウレンからもらったおにぎりを食べた後、夜警に繰り出した。そしてそのまま何事もないまま5つの夜だけが過ぎた。
同日 都内 某所
「よし、順調…。これであの馬鹿どもに全員復讐するんだ!!」
パソコンに向かいながら一人奇声を上げている男。夜中にしてはうるさい音なので当然、隣の部屋から激しいノックが聞こえてくる。
「るせえな…。おい!コイツ何とかなんねえのか!?」
男の首にするりと腕を伸びてきた。
「えー、ボク食べちゃおっかな。」
あどけなさを残す少年がニタニタ笑いながら言う。
「そうしろ、物事の価値をきちんと分かっていないやつは皆ゴミクズ同然なんだよ。」
「あっは。そうだねぇ。じゃあ食べてこよーっと。」
男に抱き着いていた無邪気な少年の姿は見えなくなり、代わりに隣から断末魔が聞こえてきた。
「はは…。どいつもこいつも、頭ごなしにバカにするからこうなるんだ。全員まとめて奈落に落ちてしまえばいい…ハハハ…」
断末魔を聞けたことで満足した男はさらに深く座り、独り笑いながら天井を見上げている。