盗作
僕は音楽が好きで、いつか音楽で有名人になることを夢に見ていた。
夜勤のアルバイトをしながら金を貯めて、ある日御茶ノ水にある楽器屋でギターを買った。
僕の部屋に初めて、音楽を演奏する道具が置かれた。今まで生きてきた中で一番高い買い物だった。
それからしばらくは、好きな曲の簡単なコード進行やメロディを弾いて毎日を過ごしていた。
何ヶ月か経って、作曲もするようになった。
とは言っても、色々な曲のコード進行をそのまま使い、組み合わせただけの曲だった。
「盗み」によって僕の曲は完成した。
出来上がった曲は音楽投稿サイトで公開していた。
しかし、公開直後に数人が聴くだけで、高い評価も低い評価も受けることはなく、完全に無視をされていた。
世間からの反応はまったくもってなかった。盗作を咎められることもなかった。
名曲を盗んだのだから、それなりに良いものが出来上がったと思っていたのに。
しばらくは音楽を続けていたが、妹が僕のギターを盗んで失踪してから音楽をすっかりやめてしまった。
仕返しのつもりで、僕は妹の部屋から万年筆を盗んだ。
妹の部屋に置いてある物で一番高いものだった。
彼女の部屋には、この万年筆と原稿ノート、八重洲にある本屋の大きい紙袋に入っている大量の文庫本のみだった。
盗んだ万年筆でギターを盗まれた怒り、僕が作ったものをすっかり無視した世間への憎しみと、憧れのアーティストへの妬み嫉みを書き殴った。
単純に言葉遊びが楽しくなって自分で話を考えることもあった。それらを書き起こして小説投稿サイトで公開していた。
やはり、公開直後に数人が読むだけで、評価を得ることはなかった。
ある日、テレビから僕のギターと妹の声が聴こえてきた。
妹は、僕の書いた話を歌にしていた。
妹の万年筆で、僕が書いた話を音楽にしていた。
ヨルシカの「盗作」というアルバムを参考にしました。