甘い囁きをしてくる妹が天使みたいに可愛すぎて結婚する選択肢しかない
「兄さん、寝癖直してあげますね」
ふわ~……と欠伸しながら朝ご飯を食べるために自室で制服に着替えてからリビングに行くと、こちらに寄ってきた妹の莉愛が耳元でそう言って手で寝癖を直してくれる。
朝食の準備していたのか制服の上からエプロンを付けている莉愛はとても可愛く、彼女が直してくれるからこそ寝癖を直さずにリビングに来てしまう。
「もう……兄さんは私がいないと寝癖も直せないダメダメさんなんですから」
耳元で吐息混じりの声でそう言いながら手で髪を整えて甘やかしてくる莉愛は天使のように可愛く、あまりの天使っぷりに俺はシスコンになってしまった。
サラサラとした長くて白い髪、シミ一つ見られない雪のように白い肌、長いまつ毛に淡紅色の大きな瞳はとても神秘的で、父親の再婚で一つ年下の彼女と出会った時に一目惚れしたかのような衝撃を覚えたほど。
産まれついてこの色だと聞いた時は驚いたが、アルビノと言われる遺伝子疾患のためらしい。
アルビノは先天性白皮症のことで、産まれつきてメラニン色素が欠乏しているために髪と肌白く、瞳の色は赤くなる。
人によっては金髪や碧眼になったりするらしい。
「まあ、私がダメダメにしているんですけど」
「俺こと進藤啓は莉愛のせいで将来就職しないかも」
どうやら莉愛はどうしても俺をダメ男にしたいようだ。
今は高校二年生で働かなくてもいい歳なのだが、このままダメ男にされてしまっては就職出来る自信がない。
「何で自分の名前を言いったのか不思議ではありますが……」
ふふ、と優しい笑みを浮かべた莉愛が再び俺の耳元に顔を近づける。
「兄さんがどんなにダメ男になったって、私は見捨てたりしませんよ」
耳元で本気でダメ男になりそうな甘い言葉が聞こえ、俺の背中に初めて莉愛と会った時と同じような衝撃が走った。
何で兄をダメ男にしたいかは不明だが、シスコンの俺にとっては妹の莉愛が側にいてくれるのは有難い。
本当にダメ男になって将来は莉愛に養われようと思ってしまうくらいに。
「それにしても兄さんの寝癖は本当に頑固ですね」
手を使って寝癖を直してもらっているが、俺の髪はまだ変に跳ねたままなようだ。
「整髪料取ってきますね」
「朝食の準備はいいのか?」
「兄さんがリビングに来た時に丁度出来上がりましたから」
後はお皿に盛り付けるだけです、と言った莉愛は整髪料がある洗面所に向かった。
「にしても誰にでも冷たかった莉愛がこうも甘くなるとはな」
そんなことを呟きながらソファーに座る。
今から三年ほど前……兄妹になったばかりの頃の莉愛は誰に対しても冷たく、こうやってお世話をするタイプではなかった。
父親を早くに亡くして母親は仕事でいなかったようだし、さらには学校でアルビノのせいで他の人と髪や瞳の色が違うから仲間外れにされていて家でも学校ででも一人……誰に対しても冷たくなるのもしょうがないだろう。
でも、一目惚れしたかのような衝撃を覚えてシスコンになった俺はどうしても仲良くなりたかったため、迷惑がられても莉愛にしつこくても話しかけまくった。
その努力が実ったようで、心の氷が溶けた莉愛は俺に対して凄く甘くなったのだ。
恐らく莉愛は俺の全てをお世話したいと思っているだろう。
甘くなったといっても俺に対してのみらしく、他の人と話すのはまだ抵抗があるとのことだ。
「お待たせしました。既に座っているなんて私に髪を整えられる気満々なんですね」
整髪料を持ってきた莉愛の表情は、兄の髪を整えられるから嬉しそうだった。
お世話するのに最上の喜びを感じているかのような顔で、これからもこちらが本気で嫌だと言わない限りはお世話しようとしてくるだろう。
「じゃあしますね」
俺の後ろに立った莉愛は蓋を開けて手に整髪料を付け、俺の髪に馴染ませるように付けていく。
最初は妹に寝癖を直してもらうのは少しくすぐったかったが、今では慣れて当たり前になっている。
こうやって莉愛と触れ合っているのは俺にとって最高の幸せであり、この先何があっても守りたい。
たとえ莉愛が俺を兄としてじゃなくて一人の男と見ていたとしても、絶対に離れることはないだろう。
今の莉愛はたまに俺に恋をしているんじゃないかと思われる言動があるのが、生活力皆無な俺は彼女なしではまともに暮らせない。
今年の四月に親が海外出張で家を空けてから莉愛はさらにお世話したがり、ゴールデンウィークが明けた今日……先ほど彼女の見捨てたりしないという台詞で、俺は妹なしでは生活出来ないと悟った。
「だいぶ髪が伸びてきましたね。そろそろ切った方がいいかもしれませんね」
「そうかな?」
自分ではあまり髪の長さを気にしてはいなかったが、莉愛には長く感じるようだ。
触って確かめようにも、今は莉愛に髪を整えて貰っているから触ることが出来ない。
まあ、莉愛にこうして髪を整えてもらうのは好きなので、別に今確かめられなくても問題はないが。
「出来ました」
整えられて嬉しいのか、莉愛は「えへへ」と嬉しそうな声を出した。
「兄さん、こっちを向いてください」
「はいよ」
莉愛の声に反応して上半身を捻られたら……、
「カッコいい、ですよ」
これ以上ない耳元で聞こえた甘い声に、俺の心臓は大きく高鳴った。
☆ ☆ ☆
ご飯を食べた後、俺は莉愛と一緒に学校に向かう。
莉愛はアルビノで紫外線には弱いため、五月で気温が上がってきても肌の露出はほとんどなく、上半身はブラウスのボタンを一番上までしっかりと止め、下半身は黒いタイツで守っている。
不幸中の幸いか暑がりではないようだが、夏でも外で半袖を着れないのはしんどいだろう。
それに莉愛は紫外線だけでなく塩素を含んだ水や海水にも肌が過敏に反応してしまうため、海やプール、バーベキューなどの夏のレジャーすらまともに楽しむことが出来ないばかりか、外出時には日傘が必須だ。
バーベキューはUVカットスプレーなどでしっかりと紫外線対策して日陰にいれば大丈夫かもしれないが、肌が火傷する危険を犯してまでするものではないだろう。
俺も暑いのにいちいち人が多いとこにいこうとは思わないし、水着を着た莉愛の素肌を男に見せなくて済むので行けなくても問題ない。
家事もきとんとゴム手袋をしてする徹底ぶりだし、お風呂は基本的に湯船に浸からずにシャワーのみだ。
「えへへ。今年からは一緒に登校出来て嬉しいです」
「そうだな」
小学校の時は兄妹ではなかったし、中学の時の莉愛は女子校に通っていたため、高校生になってから一緒に登校を始めた。
嬉しそうな莉愛を見ると、こちらも嬉しさしか感じない。
以前の莉愛は無表情だったから、尚更笑顔を見れて嬉しいと思うのは家族として当たり前のことだ。
「莉愛との登下校……幸せ過ぎる」
アルビノという身体の関係上、莉愛が外に出るのは学校に行く時くらいなので、こうして一緒に登下校出来るのは本当に嬉しい。
「はい。私も兄さん一緒に登下校出来て、幸せですよ」
外だというのに莉愛は耳元で甘い言葉を囁いてくるために、本当に俺の身体は力が抜けてしまいそうになる。
ただでさえ声優みたいな萌え声なのに、耳元で甘い声で言われたら嬉し過ぎて身体の力が抜けるのはしょうがない。
それに立っている時は身長差があるため、背伸びしてまで言ってくる莉愛が可愛すぎる。
たまに腕を掴まれてクイ、と前屈みにされるが。
「莉愛が天使過ぎる件」
天使過ぎるとか語彙力が崩壊してしまったが、今の莉愛は天使と思えるくらいに愛おしい。
今すぐにでも抱き締めてしまいたいくらいなのだから。
「兄さんが王子様過ぎる件」
「はうわ……」
朝から耳元で甘い囁きの連続で、もう俺は立っていることすら困難になっていた。
愛しの莉愛に支えられないと学校にすら行けないが、寄りかかると柔らかい感触甘い匂いが襲ってきて理性すら保てなくなる。
だけど力を抜けたことを察知したであろう莉愛がくっついてきたため、俺は彼女から離れることが出来ない。
どんなに理性保てなくなろうとも離れる気はないのだが。
「兄さんは私を孤独から救ってくれました。そんな兄さんになら……私は何をされても、いいです」
小悪魔を感じる猫撫声にも関わらず、莉愛の頬は真っ赤に染まっているので恥ずかしさはあるのだろう。
父さんと母さんが家を空けてから積極的に甘い囁きをしてくるようになったが、今日はいつも以上に囁いてくる。
冷たかった莉愛に必要以上に話しかけたことで、どうやら溶けるところか彼女の心は砂糖菓子みたいに甘くなってしまったらしい。
俺のことを王子様と思ってしまうくらいに。
「家に戻ってイチャイチャしますか? それとも……私の全てを、感じますか?」
あまりにも甘い誘惑が耳元で聞こえ、俺の理性は崩壊しかけていた。
妹の全てを感じられるのはシスコンにとって嬉しいことで、天使過ぎて離れたくない。
「もう俺の嫁になれ」
上手く力が入らないから寄りかかって格好がつかないものの、俺は莉愛の目を見て朝だというのに告白をした。
今思えば兄妹になって出会った日に一目惚れをしたのかのしれない。
でも、相手は妹だから……結婚することは出来ないから家族として仲良くしようと、密かにあった恋心を殺していた。
あの時はまだ色々と知識が足りなかったから知らなかったが、義理の兄妹は法律上は結婚することが出来る。
義理といっても兄妹だから周りはどう思うか分からないが、将来他の男に取られるくらいなら自分の嫁にしたい。
莉愛を誰にも渡したくない……そんな気持ちが俺の全てを支配している。
「兄さん……兄さんは自分の時間を犠牲にしてまで私に構ってくれました」
「そうだな」
最初はシカトされたり鬱陶しいだの言われたが、自分の時間を削ってまで莉愛と一緒にいた。
そのおかげで友達があまりいないものの、莉愛の心が溶けたから後悔は一切していない。
そもそも中学時代は家族以外と遊びに行った記憶すらないのだが。
「ずっと私の側にいてくれた兄さんを……私は好きに、なってしまいました」
髪の隙間から見える耳まで真っ赤になって自分の想いを伝えてくれた莉愛と同じように、俺の顔も赤く染まっているだろう。
今は通学、通勤の時間帯なので、俺たちの告白を聞いている人が結構いるのだだし、恥ずかしくても仕方ないことだ。
でも、耳元で甘い囁きを聞きまくっていたため、告白せずにいられなかった。
「もう離さないから」
「はい。離さないでくだ……んん……」
桜色の綺麗な唇に自分の唇を重ねる。
産まれて初めてのキスが人前になるなんて想像すらしていなかったが、恥ずかしくても一切の後悔をしていない。
だって莉愛のファーストキスを貰うことが出来たのだし、これから莉愛を幸せにすると誓うためのキスなのだから。
むしろ結婚しないという選択肢は存在しない。
朝からキスをしている俺たちを見てドン引きしている人がいると同時に、祝福するかのような声も上がった。
俺の選択肢は妹と結婚するしか存在しない。
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