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第二

 カスピ海に面するガドロア共和国の都市、≪ノヴォゴニエフスク≫。

 ここはガドロア共和国の生命線と言っても過言ではない重要都市であり、今ではパイプラインも港もすべてがここに集約されている。

 独立後の内戦で閉鎖都市という境遇から駐屯軍がいたことで、この都市は≪ガドロア・オルダ≫の目標から外れたのだ。


 そんな都市の港に併設されているノヴォゴニエフスク海軍基地のヘリパッドで、僕らはMi-25の離陸前点検に入っている。

 フェンスの向こう側にはガドロア海軍、≪カスピ艦隊≫の旗艦、159型警備艦、西側名称はペチャ型フリゲートの≪新共和国ノヴォ・リスパブリカ≫と、≪ステンカ級巡視船≫が見えた。

 ガドロア海軍の主な任務はカスピ海哨戒とキャビア密漁業者の取り締まりなど多々あるが、≪ガドロア・オルダ≫の海上密輸ルートを巡る攻防戦のため、ペチャ型フリゲートなんていう大型艦が据えられているのだ。



「離陸前点検、問題なし。中尉、そちらは?」


「こちらも問題なし。訓練項目は覚えているかな、ルキーヴァ少尉」


「ブリーフィングは頭に入っています。整備点検目録もチェック済み」


「よろしい。では行こうか」


了解ダー


 

 僕らのコールサインは、ハチクマだ。

 ヘルメットを被り、整備兵らにサインをした整備目録を手渡し、僕らはMi-25ハインドに乗り込む。 

 まるで昆虫の目玉のような玉状のキャノピーが縦に二つ並んだ有機的なフォルムに、太く逞しい胴体と二つのエンジン、巨大なメインローター。


 それらに今、生命の火がともる。

 整備兵たちの整備には抜かりがなく、暖機運転中も異常は見受けられない。

 シート越しに感じる機体の振動はいつも通り心地よく、エンジン音も健康的に甲高い。


 十分な暖機運転を終えて、僕はハインドのエンジンの回転数をあげていく。

 ローターが大気を引き裂きながら回転し、エンジンは目一杯空気を吸い込んで回っている。

 太ましい胴体から左右に伸びた小さな翼、スタブウィングには、対地攻撃用の武装が吊るされている。


 内側パイロンにはGSh-23-2を搭載したUPK-23-250ガンポッド、外側パイロンにはS-5ロケットを32発装填できるUB-32ロケットポッド。

 これで僕らのハチクマは23㎜機関砲を2門、57㎜ロケットを62本と12.7mm機関銃を装備した空飛ぶ重戦車、アメリカ人が呼ぶところの〝ガンシップ〟となる。

 飛行前チェックリストを終えて、風防を下ろして僕らはハチクマと一体となる。



「こちらハチクマ、離陸準備よし」


『了解ハチクマ。離陸を許可する』


「こちらハチクマ。了解、離陸する」



 ヘリ用の短い滑走路に機体を移動させ、その末端で機体を一度静止させる。

 計器類に目を走らせ、すべての操縦系がきちんと自分の制御下にあるかを確認。

 その後、僕はハチクマのエンジン出力をあげ、機体を滑走させて離陸する。


 短い離陸を終えて空に飛び立ったハチクマは、地面と離れたことがそれほど嬉しかったのか静かになったように思えた。

 それは単に地面から伝わる大きくて不快な振動が収まっただけで、実際は頭上で巨大なメインローターは回り、エンジンは甲高く響き続けている。

 それでも僕は地面から離れたハチクマを両手両足を使って操り、上昇しながらその身をカスピ海の上へとさらけ出す。


 キャビア、石油、天然ガス。

 世界地図を見て大きな湖にしか見えないこの小さな海には、目に見えない黄金が眠っている。

 それゆえにこの海の国境が制式に制定されたのはつい最近、2018年になってからだ。


 関係6か国の代表がカザフスタンに集まり締結された協定で、カスピ海を≪海≫と認定して領海協定で扱うことで合意された。

 沿岸から15海里をそれぞれの領海とし、その外側10海里を含めた25海里に排他的漁業権が設定され、海底資源の開発は当事国の同意による。


 また、沿岸6カ国以外の軍隊がカスピ海に入ることを認めないと定められた。

 それ故にガドロア海軍はカスピ海における警備活動や軍事的優越性を誇示する必要があり、装備増強に力を入れている。

 とはいえ、いくらカスピ海から得られる収益があっても国防予算が膨れ上がることなどない。



『こちらは≪新共和国ノヴォ・リスパブリカ≫、ハチクマの通信状態はどうか?』


「こちらハチクマ、通信状態良好。演習内容に変更はありませんか、≪新共和国ノヴォ・リスパブリカ≫」


『演習内容に変更はない。ハチクマは空中標的役をよろしく頼む』


了解ダー艦長カピタン



 そう、この緩やかな平和が続く21世紀において国防予算が一気に倍増することなど財政的にありえない。

 だから軍の演習がしたくても標的機が手元にないか、あるいは追加調達予算が組まれていない場合、この空飛ぶ重戦車は空中標的を買って出ることになる。

 ペチャ型フリゲートの≪新共和国ノヴォ・リスパブリカ≫は159-АЭ型と呼ばれる輸出型仕様で、本国仕様のものより小型で性能の低いソナーを備えている。


 だがガドロア海軍は対潜能力よりもこの艦の武装が目当てだったために、それは欠点とは言い難い。

 その武装とは前後の甲板にあるAK-726、76mm連装両用砲、そして対潜ロケットはBM-14、16連装140㎜ロケットランチャーの発射機に置き換えられている。

 魚雷発射管のあった個所には近距離防空用としてストレラ2の4連装砲架を備え付け、見事に低強度紛争用の艦に仕上がっている。


 これもすべて≪ガドロア・オルダ≫のためであり、ガドロア海軍の≪カスピ艦隊≫の装備はそれに特化している。

 逆を言えば、それ以外に我々に任務らしい任務というものはないのだ。なにせ、カスピ海には出口がないのだから。

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