熱中症事件 別話
夏なので、夏にまつわるサイドストーリーをイラストと書いてみましたカキカキ …"〆´◡ฺ`。)
秋でも蒸し暑い日だった。
スヴェンの紹介で知り合ったガラス職人の工房に赴いた。
私の注文した、医療器具を作っている所を見せてもらう。
すると、勿体ないぐらいの失敗作が大量生産されてしまい、見てるだけではつまらなかったので、私にもやらせてもらえないかと、頼んでみた。
ただでさえ蒸し暑いのに、工房内は、ガラスを熱する為の窯から吹き上げる熱気で溶けそうになる。
その熱い窯に再び熱してトロリとした敗作を丸め、中に色味を持たせた、いわゆるビー玉を作ってみた。
これが、なかなか上手く出来たため、頼んだ医療器具と共に貰って帰る事にした。
「熱い…」
職人には慣れた環境でも、初めての人間にはキツすぎた。
帰る途中から気分が悪くなり、熱中症になったと自覚したのはスヴェンの自宅より少し手前辺りだった。
吐き気と頭痛で身動きが取れなくなり、木陰で休もうにも水分を取ろうにも、そこまで動くのが無理な状態まで悪化してしまった。
医者の不養生とは、この事か…人には口酸っぱく、こまめな水分補給とか言っといて自分が怠っていれば、今後何も言えないなぁ…
重い身体をズルズル引きずり進んでいると、後ろから声を掛けられた。
背後には、この蒸し暑さにも負けず爽やかな表情のアイザックがいた。
「ど、どうされましたか?顔色が…真っ赤ですよ」
「あぁ…ちょっと、無理をしたみたいで…気分が悪くなってしまいまして…」
ただ事ではないと、焦ったアイザックに抱えられ、家まで送ってもらう。
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
「ええ…頑張ります…」
知り合いに送ってもらえたのは、とても幸運だったが、話す気力も無く、挨拶もそこそこに寝室に倒れ込んだ。
一刻も早く脱水症状の緩和の点滴と、身体を冷やそうと、水風呂に身体を浸けながら自分に点滴を刺した。
脱水状態の為、血管の怒張が少なく、ただでさえ太めの針は中々上手く入っていかない。
何度か刺し直しをして、血塗れのブラッドバスに浸かりながら一息吐いた。
そのまま、浴室で眠りこけてしまったのが、運の尽きだった。
心配性のアイザックは、フェイに今日の出来事を報告してしまったのだ。
更に心配性のフェイが、スヴェンの館を訪れ、私を探し回るも、何処にも見当たらない。
その後、手当たり次第に部屋中を開け放ち、浴室で私を発見したフェイは、目を見開いた。
片腕をだらんと垂らし、点滴の針が入った状態で、紅く染まった風呂に浸かっていれば、誰でも驚くのは当然だ。
「おいっ!!目を上げてくれっ!アイリスっ」
身体を揺さぶられ、はっと目を覚ますと、ぼやけた視界には、眉間に皺を寄せたフェイの顔がある。
「ど、どうしたんですか?!」
「それは、こっちの台詞だ!!
アイザックから、君の調子が酷く悪そうだと言われ来てみれば、何でこんな事に…」
安堵の息を吐き、膝から崩れるフェイは、本当に心臓が飛び出る程に驚いたに違いない。
自分の状況を確認し、こりゃ大変だと、既に終わって大分経ってしまった針を抜き、抜いた場所からジワジワと湧いてくる血液が浴槽を伝って水を再び染めていく。
「あの…お風呂から上がるので、外に出て頂けるとありがたいのですが…」
フェイが安堵したのも束の間だった、女性の入浴中に土足で入っているのだ。
熱中症の時と同じぐらい顔を赤くし、目蓋を硬く閉じながら急いで外へと飛び出して行った。
風呂で寝落ちした重い身体を起こし、下着を着たが、思いの外、血の止まりが悪い。
太い針で、圧迫止血もしっかりしていなかったため、ダラダラと腕から流れ落ちる血を見て、このまま貴族の綺麗な服を着ては血染めされてしまうなぁ…と考えた。
仕方なく、下着のまま、腕に手拭いを巻き出て行けば、再びフェイは災難に見舞われる。
「なっ!!!!」
風呂場から出てきた私に何か言おうと仁王立ちし、待ち構えていたが、出てきた私は下着姿だ。
流石に想像していなかったため、2度目の不意打ちに頭を抱え、頼むから早く目に入らない所に行ってくれと、情けない声を出す。
「あっ、はーい」
マズイ…またやってしまった。
自分なりに考えての行動だったが、家に1人ではない事をすっかり忘れてしまった。
寝室に戻り、仰向けに、シーツを被って暫く止血のため腕を上げていた。
フェイは、扉越しに
「問題ないのか?」
と聞いてくるが、彼にとっての問題が、私の体調なのか、下着とシーツのみの状態を指すのか分からない。
「シーツはかぶってますけど、今、止血中なんで服が着れないんですよ。
そんな状態ですけど、身体は大丈夫ですよ!」
取り敢えず、両方の疑問を解決できる回答を送ってみたが、扉の奥から返答が無い。
沈黙が続く中、漸く絞り出した言葉が
「もっと慎みを持ってくれ!!!」
フェイの掠れた怒号が家中に響いた。