我が道を行くオリバー マチルダの妨害
今回は主人公視点と、オリバー視点に分かれています。少し読みにくかったら申し訳ありません꒰˘̩̩̩⌣˘̩̩̩๑꒱
地下室は日の明かりが届かない…時間の感覚がなく、朝なのか昼なのかも分からない。
今日は祭日だとマチルダが言っていた。祭日は、祈りを捧げに来る平民や貴族が来る。逆に数人の神官のみを残し、ほとんどの神官は休みを貰い神殿にはいない。
神殿長も祭日はほぼ家に帰っていた。軍人である父親と情報共有をするためだろう。
鬼の居ぬ間に洗濯…そりゃ、悪巧みをするには都合が良いでしょうね…
このままだと…焦燥感、不安、恐怖、頭がおかしくなりそう…1人だったら発狂していたかもしれないが、隣には傷ついたプリメラが寝ている。
なんとかして、プリメラを救いたい…
地下室の水音だけが響き渡る静かな空間に突如、上で大声で何か喚き散らしている音が混じる。
何かあったのだろうか、ミサに来ている人ではないだろうし、急患でも担ぎ込まれたのだろうか…
ぼんやりとそんな事を考えていると、カツカツとあのヒールの音が響いてくる。
マチルダが灯りをもってこちらにやって来るのが見えた。武器もない、手負い2人の子供、私1人ならもしかしたら走り抜けられたかもしれないが、プリメラには無理だ…
マチルダは鉄格子の前に立ち、私の顔を照らす様にして、まじまじと見詰める。
「本当についてないったらないわ…オリバーがあんたに会わせろとやって来たのよ!空気の読めない男よね…」
なんと、オリバーは1週間後に来る予定のはずなのに1日でやって来てしまったようだ。どういう事だろう…
退院してまだ1日しか経っていないのか…
あぁ、俺の天使…1日会えないだけでこんなにも君が恋しくなるなんて…
今日は祭日で、退院直後のため安静にするようにと軍からも許しが出ている。
「うん、やっぱりもう一度お礼に行った方がいいよな!それに、なんかちょっと痛い気もするし、診てもらった方がいいと思うんだ!」
俺は、アイザックにこれから神殿に行って彼女に会いに行くと伝える。
アイザックは、目を見開きギョッとした顔で「え?1日しか経ってないじゃないですか、診察は1週間後のはずでしょう?」と、神殿に行くのを反対しているようだ。
「いやいや、診察も兼ねているが原隊復帰を果たせたお礼の品を持って、しっかりと礼を尽くしたいのだ!」
俺は、今まで朝から夜まで天使が働く姿を見てきた、突然顔が見られなくなるのがこんなにも辛いとは…
「ここは、今後仕事に集中するためにも今日会っておく必要がある!俺は行くぞ!」
アイザックは、本気なんですね…と、肩を落として呆れた様子で、俺が暴走しないように一緒に行きますよと、言ってきた。
暴走とはなんだ?俺はただ礼をして、仕事に集中する為の英気を養いに行くだけなのに!
お礼の品は何が喜ばれるだろうか…ここは花を送るべきか…いやいやプロポーズの時に花束を送れなくなってしまうし…そうだ!!ここは文通を兼ねてレターセットなどどうだろうか!
これは、名案だこれで天使との繋がりを保っておけるではないか!!!
アイザックは、半目で俺のことを見て「それって、自分が喜ぶプレゼントのような気がするのですが…」とボソリと呟く。
うん!聞こえない、聞こえない!!きっと天使も喜んでくれる、慈悲深い俺の天使…
俺は神殿の診療所へ行き、退院を間近に控えた兵士達の所に顔を出す。
「おはよう!皆んな元気か?」
診療所の兵士達は俺の顔を見て皆んな目を丸くして、何でいるんですか?!と驚いている。
「俺は退院したが、まだここに通わなければならないんだ、来るのは当然だろう!」
「オリバー殿の次の診察は1週間後ではありませんでしたか?1日しか経っておりませんが…」
皆んなして、アイザックと同じことを言うな…
「それで、天使は今日も健在か?疲れた顔をしていなかったか?」
「アネモネさんは、今日は来ておりません…どうしたんでしょうか…体調を崩されていなければ良いのですが…」
「な、なんだと?!今まで一度も来なかったことなんか無かったじゃないか!!!
俺が退院して、気が緩んだのか…あー心配だ!」
頭をグシャグシャとかきむしり、俺は天使が心配で堪らなくなった。
「アイザック、アネモネ殿の見舞いに行こうじゃないか!今までずっと世話になったのだ、お返しをするのが通りだろう!」
「えっ?!アネモネさんの看病をオリバー殿がされるのですか??それは…神殿長に聞いてみないと…」
「ならば、聞こうじゃないか!神殿長はどこにおられる??」そこにいた神官に声を掛けると、かなり慌てている様子で
「し、神殿長は本日留守にされております。祭日ですので日を改めては如何でしょう?」
何故日を改めねばならないのだ、天使が病に伏せっている時に助けなくては意味がない。
「誰でもいいから代理の者はいないのか?ただ世話になった恩人が伏せっているのなら見舞いをしたいだけなのだ、そのぐらい許可できる人間いるだろう!」俺は、段々腹が立ってきた、どうして皆んなして、俺と天使の再会を先延ばしにしようとするのか!!
「俺は今日、彼女の顔を見ないと、仕事に集中できない!!」
これを聞いたアイザックは、手を額に当てて、はぁ…とため息をついている。
そして、「どなたか、許可を出してくださる方はおりませんか?それか、もし可能ならこちらにアネモネさんをお連れしていただいても構いませんので…この人アネモネさんの顔見るまで恐らく帰りそうにありませんよ…」と、私の前でなんとも失礼な事をいう奴だと、アイザックを睨んだ。
マチルダは、牢屋の鍵を開けて、あんただけ出るのよっ!と腕を引っ張り牢屋から出した。
「あんた、ここでの事を少しでも話してごらんなさい、プリメラがどうなるか分かってるわよねぇ」
「分かってます、話しませんのでプリメラには指一本触れないと約束して下さい」
「はんっ、偉そうに…額の傷は転んだって言い訳なさいね!少しでも怪しまれる行動をとればプリメラの悲鳴を聞かせてやるわっ!ちゃんと戻ってくんのよ!分かってるわね!」マチルダは、想定外のことにかなりピリピリしている。
私は、ビリビリになった服を着替え、オリバー達の待つ治療院に向かう。打撲と切り傷で服が擦れるたび痛みが走る。
新しい手拭いで頭を覆うようにして、額の傷をかくす。
「お待たせしました、オリバー様…本日はどうされたのですか?診察は1週間後とお伝えしたと思ったのですが」頬に手をついて首を傾げてみせる。
オリバーは、目を輝かせて「良かった、お体の具合はどうですか?今日はこちらにも顔を出していないと兵士達も心配しておりました!」
なんとか、話を合わせる為に
「不注意で階段から落ちてしまって…今日は特別にお休みを頂きました。」頭の三角巾や、手足の傷を見ても怪しまれないようにしなければ…プリメラの命がかかっている…
神官達は聞き耳を立てて、鋭い眼差しでこちらを時折チラリと睨みつけてくる。
ここの神官に、私の味方はいない…
だが、こちらにも切り札がある…アイザックが何故かこの場にいることだ。
神殿長の甥っ子で、神殿内の悪事を調べていたのなら、緊急事態だと伝えることさえ出来れば助けてもらえる可能性がある。
この、一本の糸にかけてみよう…
「階段から落ちた?!だからその様な痛々しい姿なのですね…」オリバーは、私の上から下まで視線を落として、本当に心配そうな顔をして労ってくれる。
「今日は祭日ですし、身体を癒すためにお休みを頂いたのでしょう。オリバー殿、アネモネさんの身体に障りますし、早く用事を済ませてください」
アイザックは、なんだか呆れた様子で目を閉じて、早く帰りたそうにしている。
ま、待って…まだ妙案が思いつかないから!
焦って必死で思考回路をフル回転させる。
すると、オリバーはムッと眉を潜めてアイザックを見た後、「アネモネ殿…こちらはつまらぬ物ですが、良ければ使って頂きたい。」
差し出されたのは、レターセットである。ピンク色の可愛らしいレターセットを見て、これだと思った。
「オリバー様、せっかくいらしたのですから調子はどうか、診察致しましょうか?」
外来診療所へ手を向けて、オリバーを誘ってみる。
案の定オリバーは、「はいっ!お願い致します!どうも少し痛いような、痛くないような…」目をぱぁっと、子供の様に輝かせ嬉しそうだ。
恐らく痛くないのだというのは、分かっている。
外来診療所に移動していく私を1人の神官が監視するためについて来る。
外来診療所にて、一通りオリバーの診察を終える。私は、少しだけアイザックに目を向けて
「アイザック様とオリバー様は、どういったご関係なんですか?」と、尋ねてみる。
「私は、オリバー殿のお守り…いえ、直属の部下なんです。」ん?今、お守りって言った??
アイザックは、私とオリバーが見つめると苦笑いで頬をポリポリとかいて見せる。
「コイツは、私がなんだか調子が悪い気がするのでアネモネ殿の元に行きたいと言ったら付いて来てしまったのです」
ナイスオリバー!アイザックがついて来るとは予想外だったが逆に幸運である。
カルテに記入しながら
「そうでしたか…あの、オリバー様?原隊復帰されましたが、激しい運動はまだ控えなくてはなりません。軍の事は分かりかねますが、口頭で伝えているだけですよね?
せっかく治った傷がまた悪化しては困りますのでここは、此方から上の方に見せるようにお手紙を書きましょう。」
多少強引だが、これで緊急事態を知らせるように手紙に書いて内容をアイザックとオリバーに見せる。表情を変えずに、と一言添えれば外で監視している神官にも気付かれずに助けを呼べる!
オリバーは、その様な意図があるとも知らず、「是非先程のレターセットをお使い下さい!」と首を上下させる。
よしっ、と筆を取ると…コツコツとあのヒールの音が響いて来る…嘘でしょ…筆を手にした手は硬直し、冷や汗が流れる。入ってきたのはマチルダだ。
「アネモネさん、お身体の調子が優れないからお休みにしたのに、また診察してるんですか…全くご自分の身体を労ることの方が今は大事でしょう」
私にだけ見える角度で、早く戻れと口元だけ動かし睨みつけてくる。
「これから…オリバー様の上司へ、診断書を書いてお渡しするところです…」目は虚、筆を持った手が震える。
「そうなのです、アネモネ殿は私の身体をとても心配してくださり、軍に復帰しても困らない様にとここまで私の事を考えてくださる慈悲深い方なのです!」
「あら、そうでしたか…では、診断書を書いてくださいませ…」
マチルダは私が書く診断書の内容を見逃さまいとして、ずっと机に置かれたレターセットを睨む。
どうしよう…これでは助けが呼べない…
顔色がどんどん悪くなり、心臓がバクバクと大きな音を出し外にも聞こえてしまいそうだ。
「筆がすすみませんねぇ…そんなに難しいのかしら?」マチルダは、ニヤッと口元を緩ませて見下ろしながら勝ち誇った顔で笑っている。
全てお見通しですと、言わんばかりの表情だ…
渋々と、インク瓶に筆先を軽く付けて、深呼吸をしてから字が震えない様に注意して診断書を書いていく。
書き終えた診断書の内容を隅から隅までマチルダがチェックし、変なところがないのを確認したところで、封筒に仕舞う。
「どうぞ、オリバー様こちらをお持ちになって下さい」震える手を隠すために両手に力を込めて手紙を差し出す。
オリバーは、ありがとうございます!!!!と、封筒を受け取り、「今日来てしまいましたが、6日後にまた来ても宜しいでしょうか?」
と、1週間を1日早めるような約束をしようとしてくる。こんな病院好きの軍人で大丈夫だろうかと心配になる。
私は、構いませんよ…と告げる。その時、オリバーを診ることは出来ないかもしれない…と静かに目を閉じた。
「お疲れ様です、アネモネさん。さぁ、早くお休みになってくださいね」急かすように、この場から退散させようとする。
アイザックは、ほら!行きますよ、と言ってオリバーの腕を引っ張り外に出て行こうとする。
待って…アイザック…
咄嗟に外に出るドア口に向かい、「オリバー様、アイザック様、私の拙い文章でも軍の方は分かってくださると思いますが、一応後で内容を確認してください。軍人ならば分かってくださると信じております…どうぞ、お大事にして下さい…」
祈るように手を組んで、彼等を見送る。
後ろからマチルダが「さぁ、さっさと戻りましょうか…貴方のお部屋に」無理やり私の手を取り、痛む身体を気にもせずにコツコツと華麗にヒールの音を鳴らして地下へと連れ戻される。
オリバーから贈り物で救助を呼ばそうだったのに、魔女マチルダの出現により失敗に終わります。
次回をお楽しみにしてくださると、嬉しいですカキカキ …"〆´◡ฺ`。)