神殿長と神殿 不穏な神官達 地下室の狂気
タイトル3つ分なので、一気に載せてしまい申し訳ありません_(┐「ε:)_
子供への暴力を振るう場面もあるので苦手な方はお気をつけ下さいカキカキ …"〆´◡ฺ`。)
話をしたいので、私の部屋に同行しなさい。
冷たく地の底を這う声を久々に聞かされ、夏の暑い時期なのに鳥肌が立つ。
両腕で二の腕を摩りながら、神殿長と共に部屋に移動する。
黙ったまま、いつもの様に抱え上げられ椅子に座らせて貰う。対面のいつもの席に神殿長も座り、肘をつき組んだ手を口元を隠すように置く。
真っ直ぐにこちらを見る目は、鋭く椅子ごと後ろに倒れてしまいそうな程の威圧がある。
「アネモネ…君の前世の話、振る舞いや言葉遣い、そして誰よりも抜き出た知識と技術に魅せられ、幼い人間に任せる仕事量ではなかった事をここで詫びよう。すまなかった…。
そして、神殿孤児達に対しての教育などは他の神官に任せていたため、自分の目が届かない所であったことも、すまなかったと思う。」
威圧的な目をしていたのに、口から出たのは謝罪の言葉であった。
恐らく、神殿長は自分の管理不足に対して怒っていたのだと、理解した。
「外の世界を知らないため、私にとって神殿の中が常識となっておりますので、こちらでは普通のことなのだと把握しておりました…」
「そうか…
アネモネ、少し私の事について話そうと思う。
だが、これから話す内容は口外しないで欲しい…」
弱気で少し迷いがある声で、神殿長自身について話し始める。
「実は、私は本来なら軍に所属している身分なのだ…父は現役の軍人で現在は中将だ。息子の私は軍人となり、戦場に出なければならなかったのだが………銃を撃てなかったのだ。
中将の息子なのに、人1人殺せず銃を握ったまま引き金が引けなかったのだ、笑えるだろう…」
眉を竦め、唇の端を上げて、皮肉を言う。
「こんな腰抜けだ、父は私の進退をどうするか決めかねておられた。そこで、私は神殿に目をつけたのだ。
神殿はもともとは、ただの祈りを捧げる場でしかなかった。
そこで、軍の役に立つよう、治療をする場所にすること。
そして、軍では魔導兵器という武器があり、その原動力となる魔力を持つ人間を確保し、軍への魔力供給を行うという名目で神殿の役割を大幅に改革した。」
「そうだったのですか、では医学知識を持つ神官とは??」
「衛生兵の経験があり今は引退した者達、貴族の身分だが、身の寄せどころがない人間に衛生兵が医術を教えた者達だ。
身分があるので、下に仕える者が必要だった。
雑用として魔力を持つ孤児を導入し、魔力供給と神殿内の雑用をさせたいと進言された。勿論、良い案だと思い賛成した。
そして、教育などは自分に仕える者達だから自分達で行うということで話は纏まった。」
「それでは、神殿長は今まで神殿孤児の教育はされなかったのですか?」そういえば、神殿長の周りには下働きが居ない。私を除いてだが…
「私に下働きは必要なかったからな…孤児達の事は全て彼等に任せていた…
折檻を受けるための地下室があることも知っているが、元が軍人だ、多少手荒でも規律を破る者に対してある程度の処罰は仕方ないと思っていた。
だが、秘密裏に死体の処理をしていた話は、初めて聞いた。
今まで突然いなくなった孤児はどうしたか?と聞くと皆、声を揃えて身請人が見つかったと報告していた…あれは死んでいたのか…」
神殿長は、後悔しているのが手にとるように分かる、苦しい表情で言葉を綴る。
「中将の息子である私が軍のために買い取り、始めた神殿経営だったが、最近は私の預かり知らない所できな臭い動きがあると、私の甥っ子に当たるアイザックが秘密裏に色々と調べてくれていた。」
なるほど、地下にアイザックがいたのは、そういう理由か…前にダルクの件で助けられて以来顔を見ていない、神殿長とも随分仲良く話しているのを見ていたため、ようやく糸が繋がった。
「あの時、地下の見張りをしていたと言っていたが大嘘だ、アイツは嘘が下手だからな。」ダルクが倒れた日の事を思い出す様にクスクスと、笑いながら口にする。
「ここにいる者達は、皆、訳ありの軍人もどき共だ…そろそろ私の手に余る様になってきていたが、これ以上好き勝手にさせるわけにもいかなくなってきた…デブリといったか…この中をデブリしていくことにしようと思う。」
デブリって、ここで使う言葉じゃない気がするんですけど…覚えた言葉を上手く使ってはいるけれど、とりあえず神殿内の腐った部分を除去するって意味でしょうね。
神殿長が弱腰なのは、自分が軍の偉い人の息子なのに、人を殺せなかったために軍人でいられなかったのを恥じているから。
少しでも役に立てる様に軍に有益な神殿経営を始めて、退役軍人を雇用することで天下り先を作ったというところか。
天下った元軍人が好き放題始めちゃったから、そろそろお仕置きすると…簡単に言えばこんな感じかなぁ。
「アネモネ、この治療院は君が来てから急激に変化している。今までは、負傷兵は本来ならあそこで息を引き取るのを待つ様な状態だったが、今はそれを治して原隊復帰までさせたのだ。
これは、奇跡のようなことだ。
ここで医師として力をふるってほしい…代わりに君が安心して暮らせるよう私も力を尽くす。」
オリバーと結婚しないでほしいって事ですね…なるほど、ならばしっかりと孤児達の扱いを改善してもらわないと
「約束してください、孤児達が安心して暮らせるようにすると。そうすれば、私は今まで通りこちらで働かせて頂きますので」
「約束する。」
翌日からの事だ、昨日のオリバー事件により、神殿長が1人ずつ神官と面接をするとの事で、本日から暫く執務はお休みだ。
私は、治療院に赴き、退院を控えた軍人の経過観察をしている。皆んな、1人で歩けるようになっており、退院はまだかと心待ちにしている。
昔のような嫌な匂いは消えて、今では消毒液の匂いがする、この香りがすると自分が漸く病院にいるんだと実感する。
「アネモネさん、昨日のオリバー殿の大演説を耳にしましたよ。」
「聞いた聞いた!!まさか本当にあそこでプロポーズするとは思いませんでしたねぇ。」
「ヒプラティスの天使を救うナイトになる!って言っていましたから…ですが、時と場所を考えない辺りがオリバー殿らしかったですねぇ」
などと、オリバーのプロポーズは治療院内でも噂になっていた。笑えない私も、片方の口元が微妙に上がり苦笑いという表情で話を聞いている。
「本日はだいぶ神官の数が少ないのですね、これはオリバー殿効果かな?」と爽やかに笑いながら口にする。
どうやら、神殿内の孤児達に対する扱いを治療院に長く間いる兵士達は、なんとなく察しているようだ。
今まで、ここは兵士の最期を看取る治療院だったため外に、神殿内から情報が盛れることなく悪評がそこまで広がる事はなかったようだ。
死人に口無しとは、このことだ。
だが、私が治療したことにより見事に回復し原隊復帰を果たしたのだ。今迄の事を考えれば、確かに凄いことなのだろう。
この急激な変化…誰よりも優秀であるが故に、大学病院内で煙たがられた事を思い出す。何事も無ければいいけれど…一抹の不安を胸に、今日も怪我人の治療にあたる。
外来診療を終えて、片付けをする。だいぶ溜まってきたカルテを見て、電子カルテ…いやいやっと首を振り思考停止させる。昔の良かった時を思い出しても何にもならん!と言い聞かせ、せかせかと手だけ動かす。
窓から吹く風が、涼しくなってきており、そろそろ夏も終わりそうだなと、バタバタと風に揺れるカーテンを見る。
冬を迎えれば、風邪が流行するだろう…抗生物質のない世界、対処療法のみで治療院に来る人を死なせずにいられるだろうか…
抗生物質を作るとして、考えられる第一候補がペニシリンだ。
アレクサンダー・フレミング氏がブドウ球菌の培養中に偶然青カビを落としてしまい、培養地が溶けているのを発見し、ペニシリンが生まれた。
これこそ、神の御意志と言わざるを得ない偶然の産物。青カビから作れるペニシリンなら…冬に向けて作成方法を考えようと決意する。
夕食後のダルクの部屋にノックをして入る。ダルクは、来たか…と、前よりも柔らかい表情で迎えるようになっていた。病のせいで気弱なのか、昔の嫌らしくて腹立たしい部分は影を潜めている。
「はい、参りましたよ。本日もちゃんと診察させて頂きます。」
笑顔で言いたいが、笑えない顔のため声だけでも優しくする様に心掛けている。
いつも通りに、バイタル測定、足の浮腫、不整脈、凝視しての心臓の状態を確認してカルテに記入していく。食事と水分制限により、悪化はしていないが良くもならない。小康状態を保つのが精一杯だ。
すると、ダルクが口を開く
「お前、軍人に求婚されたようじゃないか、聞いておるぞ。それを神殿長が断ったために、孤児達の環境を変えないといけなくなったと神官達が騒いでおったわ!
大人しく軍人の求婚を受け入れておけば良かったものを…なんで受け入れなかった?」
いや、あれは私の意見を聞き入れてくれるような話し合いじゃなかった…私の意思を無視した話し合いの結果なのに、何故、私が悪者にされるのか。
「ダルク様は、私がオリバー様の求婚を受け入れた方が良かったとお考えですか?」
間違いなく、ダルクは悪さをしていた神官一味の1人であるため、これから神殿内を改めようとする神官長の行動は迷惑でしかないだろう。
私が大人しく身請けされていれば、こんな事態には発展していないのだから、求婚を受け入れるべきだと返ってくることは、想定しての意地悪な質問だ。
「私がお前の立場なら、間違いなく求婚を受け入た!今よりもずっと、楽な暮らしが出来ることは考えるまでもあるまい。
毎日毎日、朝から夜まで人の身体を気遣う必要も無いのだから、ずっとずっと幸せだろう!」
まぁ、そうかもしれないけど、他の孤児達を残して1人だけ幸せライフを満喫できるかと言われると、心残りがある以上難しいかもしれない。
そして、暫しお互い無言になると、その静寂の中でポツリとダルクは
「だが、ワシとしては…お前が居なくならなくて良かったとも思っておる…」
と、弱々しく口にする。
「最近はだいぶ具合も良いのだ…
確かに前のように脂の乗ったステーキや、酒を愉しむことが出来なくなったのは、お前のせいだが!
だが、まぁ…なんだ…身体もスッキリしてきて、男前になって来ている自分を鏡で見る楽しみが増えたしな!」
お、男前?!…まぁ周りに迷惑を振り撒くよりも、自分に酔いしれている方が安心だし、そうですかぁと、こくこくと頷く。
「そういう訳なので、ワシとして男前に戻るためにお主が居なくなるのは困るのだ!」
うんうん、と生温かく意味もなく首を上下させておく。
そして、ダルクは渋い表情をして
「神官達に気をつけておけ…お前は目立ちすぎる。良く思わない者も居ることを忘れるな」
と小声で注意してくれた。
私は、驚いた表情でダルクを見つめると、フンッと鼻を鳴らして、用が済んだならさっさっと行けっ、と言われ部屋を後にした。
本日のお仕事終了!明日に備えて早く休もうと、自室に戻る。部屋に入るとなにやら不穏な空気を感じる。顔色の悪い子供達が固まって、話し合っている。
神官達から何か言われたのだろうか…自分達の不利になる情報が出るとしたら孤児達からだろう。
今まで身に覚えのある神官が、保身のために子供達に釘を刺してもおかしくはない。
私が帰って来たのを見て、子供達が駆け寄ってくる。
「アネモネちゃん、あのね…プリメラちゃんが今日地下に連れて行かれて…戻ってこないの…」
ここの住人のプリメラが、神官に地下に連れて行かれたきり、戻ってこないとのことだった。
プリメラは、正義感の強い子供で恐らくここに私が居なければ、リーダーシップをとっていたであろう。
地下で、躾という名の虐待をプリメラは良く受けていたため、生傷が絶えない子だった。普段通りなら地下での躾は、その日のうちに終わり部屋に戻っているはずが、帰ってこない言う。
私は、腰椎から頸椎にかけてゾワっと何か恐ろしい物が駆け抜けるような感覚に襲われ、プリメラの無事を確認しなくては…とはやる気持ちが抑えられない。
子供達に、今日は休もうねと、一旦落ち着かせて深夜に地下へ降りる事を心に決めた。
子供達は寝静まり、私はずっと地下に行くための道順を何度も何度も繰り返し思い出していた。
心臓の音が煩い、はやる気持ち気持ちが抑えられず、まだかまだかと好機を伺っていた。
夜も深くなり、外から物音がしなくなったのを確認し、こっそりと自室を飛び出す。
足音を立てないようにつま先で小走りに地下までの最短ルートを突っ切る。
地下へ降りる階段を見て、ダルクとの一件を思い出す。軽く湿り気を帯びた地下への階段を静かに一段ずつ降りていく。地下室に近づくたびに、異臭が漂うのが分かる。
あの時は必死で気付かなかったが、人の体臭を濃くしたような、異臭と湿っぽさで気持ちが悪い。
地下室には、人気がなく静かだった。ここには居ないのだろうか…ヒタヒタと湿気で濡れた床を歩き、奥へと進む。暗く、明かりは無かったが夜目が効いてきたため、暗闇の中でも探索は出来る。
奥には、鉄格子の牢屋があり、鎖で繋ぐような足枷がある。壁には黒く酸化した血液があちらこちらに筆で絵具を払ったかのように飛び散っている。この辺りからは鉄分の匂い…血の匂いがしていた。
私の手足がどんどん、冷たくなっていく。喉が渇き、生唾を何度も飲み込まなければ咳き込みそうだ。こんなにも恐ろしい場所だったのかと、初めて見る躾部屋に震えが止まらない。
躾なんて生易しいものではない、拷問が行われていたであろう場所に足を踏み入れている。
プリメラ…何処にいるの?
もしかしたら、此処にはいないのだろうか…地下室の突き当たりの壁が見えてくる。通路の両面にある牢屋の中を薄めで確かめていく。
そして、突き当たりの1番奥の牢屋床に小さく丸くなった白い何かが目に入った。
駆け寄り、真っ暗な中じぃっと、白い物体の正体を見ようと鉄格子の間から顔を覗かせる。
「プリメラ?プリメラなの??」小声で話しかけると、白いのが、ぴくりと反応するのが見えた。
生きてる!!身体を凝視すると暗闇でも人の体内はよく見える。肋骨にヒビが入り、頭骨もボッキリ折れている。
身体中は打撲と擦過傷によるものかほぼ全身が炎症しているような状態だった。
なんで…こんな酷いことが出来るんだろう…
「プリメラ、痛いよね…酷いよね…怖かったね…」
涙が止まらない…何故こんな事になったのか…
神殿長が孤児達の待遇改善のために面接を始めたというのに、何故…
「アネ…モネちゃん…だ、ぃじょぶ?
私ね…マチルダさんに、アネモネちゃんを追い出すために協力してって言われたんだ…
だけどね…絶対嫌だったの…アネモネちゃんはいつも私達を守って…くれてたから…だから嫌だって言ったら…マチルダさんが凄く怒ったの…
言うこと聞かないとダメって…でもね、私、絶対絶対聞かない…だから…アネモネちゃん大丈夫だよね?出て行かない…よね?」
こんな酷い目にあっているのに、私の心配をしてくれている。こんなにも心優しい子供にどうして此処まで酷いことができるのだろう…
プリメラがこんな目に遭うぐらいなら自分にやればいいのに!!怒りと悲しみで頭がおかしくなりそうだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、「プリメラ…心配してくれてありがとう…でも、プリメラが傷つく方がもっと辛いよ…」
プリメラは力なく笑い、そして顔を上げてボコボコに殴られ、半分開かない目を広げてガタガタと震えだす。
私は、背後の気配に全く気付いていなかったため、そのまま頭を鷲掴みにされ、鉄格子に何度も打ち付けられる。
額から血が流れ、片目の視界が真っ暗になる。そこに居るのはマチルダだった。メガネのレンズがチラチラと鈍く光、キッチリ上げられた金髪が暗闇でも白くぼんやり見える。
「アネモネちゃ…離して…」とプリメラは私を庇おうと傷ついた身体を引き摺りながら鉄格子に這いずってくる。
マチルダは、クスクスと笑って「やっぱり来ると思ったぁ」と自分の思った通りに事が運びさぞ嬉しそうだ。
「あんたさえ、消えてくれれば元通りになるんだから、さっさと消えればいいものを…何で求婚を受けなかったのよ!そうすればこんな手間はかからなかったのに…オリバー…アイツも余計な事を神殿長様に吹き込んでくれて、あんたが来てからろくな事がないわっ!」
ヒステリーを起こした女は、文句を言っている間にも私の頭を鉄格子にぶつけ、鈍い音が地下室に響き渡る。殺される…額からの出血はさらに酷くなり、同じところばかりにくる衝撃で痛覚が麻痺してくる。
「プリ…メラを解放…してください…お願いしま、す。私が此処に、残りますので…」
目的が私ならプリメラは関係ない、プリメラだけでも外で治療を受けて欲しいと、声を絞り出す。
だが、マチルダは、はぁ???とわざとらしく聞き返し「ここまでやっちゃったのに、どうやって上に返せるのよ。馬鹿なの??
プリメラちゃんもねぇー困った子、私のお願いを聞いてくれたら痛い目に遭わないで済んだのにねぇーちょーっと、アネモネちゃんの飲み物に薬を入れてくれれば良かったのにねぇ」
人を小馬鹿にした言い方で、マチルダは悪びれる事なく、早口で捲し立てる。
この、クソ女…腹ワタは煮えくりかえっているが、子供の力で大人に叶うわけもなく、武道の心得もないため、鷲掴みにされた頭を振り解く術もない。
頭を掴んだ手を離す事なく、牢屋の鍵を開け私の腹を思いっきり蹴り飛ばして牢屋の中へゴロゴロと転がる。
腹への衝撃で胃から逆流した物が口から流れ出す。
その姿を見て「あー汚らしい…そうしてる方がお似合いよぉー」と楽しそうにボールで遊ぶかのように、何度も身体中を踏み付け、足蹴にする。
口からはもう、胃液すら出てこず、口の中は鉄の味が広がる。額を何度も打ち付けられたこともあり、ぐらりと周囲が回転するように目の前が真っ暗になった。
「明日は、祭日だったわねぇーちゃーんと皆んなでお墓を作ってあげるから心配はいらないわよ」
意識が途絶える前に聞いた最後の言葉だった。
アネモネちゃ…ん、アネモネちゃん…、起きて…おね、がいだよぉ…
プリメラが泣きながら私の名前を呼んでいる。
身体中が痛くて、少し動くだけでも激痛で涙がでてくる。仰向けで寝転んだままで顔だけ横にすると、私の隣にプリメラも横たわっていた。
プリメラと目が合い、プリメラは目に涙を溜めて良かったと笑う。折れていない方の手が私の手をずっと握っている。
正直、プリメラの方が痛いはずだ。内臓に異常はないが、骨折と打撲、喋るのも呼吸するのも辛いはずだ。
私より酷い状態こ子供がこんなにも頑張っているのに私は何してるんだ!!自分に喝をいれて痛みを我慢し、うつ伏せになり、ゆっくりと身体を起こす。
額の傷はパックリと開いており、縫わないと駄目そうだな…と服の袖部分を破り、天井からポタポタと垂れる滴で布を濡らして顔周りの血を拭い、そのまま額をを覆うように頭に巻く。
プリメラの腕の骨折部を固定するため、スカートの裾をビリビリと破り、「少し痛いと思うけどゆっくり肘を曲げようね」と声をかけ肘を曲げる。骨折部が動かないようにサポートするもやはり痛みで「痛いよぉ」と涙を流す。手首から首の後ろ、肘にかけてぐるりと巻き込むようにスカートの裾で結ぶ。
肋骨は、ヒビは入っているが、ズレていないため自然治癒するだろう…
アルコールが無いため消毒も出来ない…あとは、プリメラの袖も貰い、滴で濡らした布でひどい打撲のある場所を冷やすように置いておく。
「プリメラ…気分はどう?気持ち悪く…無い?」
「う、ん大じょぶ…腕…曲げるの痛かったけど、今そんなに痛くない…よ」
私を守ろうと、勇敢に立ち向かい、今、弱っているるはずの子供が気丈に振る舞う姿をみて喉が熱くなり大声で泣き出したくなるのを堪えるのが苦しかった。
先程、自分がしてもらったようにプリメラの手を両手で挟むようにしっかり握り、「ずっと一緒だからね」と口にする。
プリメラは、安堵の息を吐き微笑んで寝てしまった。緊張の糸が緩んだのだろう。私は、プリメラの手を握ったまま、ここからどうやって脱出するかひたすら思考を巡らした。
地下室からゲガをした子供2人、脱出するためにはどうするのか、純粋な子供が傷つけられるシーンは自分で想像しても苦しくなりました…この世界から虐待がなくなる日が来る事を心から願います