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ヒポクラテスは国境を越えて  作者: マトリョーシカ
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愛情に飢えた者達

神殿長の軍人時代の話になります。医療系よりもこの世界の内情などが書かれてる感じです。

神殿長は、神殿の中央にある庭園に向かっていた。最近は、薬草を植えてあるので、薬草園となっている。

夏が終わりを告げる涼しさを含んだ風が気持ち良い。天気は曇り空。


円を描いた庭園の数ヶ所に設置されたベンチに腰をかける。私も後に続き、人1人分感覚を空けてベンチに座る。


手を組んで、顎をのせ押し黙ったままの神殿長。

離れろと命令をされないので、黙って側にいる。

薬草園の薬草を眺めながら、考えることが多くて何を優先していいか分からない。


戦争が始まった時どうするか、プリメラの腕、抗生剤の作成、冬に向けた病の拡散対策、神殿長のこと、復帰した兵士達の未来、自分の未来…

ゆっくりと考える時間なんて今までなかったためか、いざ暇な時間を得てみると何から考えたら良いのか分からなくなると思わなかった。


風が強くなり肌寒くなってきた。腕を組んで少し丸くなる。


フワッと肩から布がかけられ、身体を包む様に巻かれる。

神殿長がいつも掛けているショールだ。気づけば一つ分空けていた空席はなくなっいた。


神殿長は、真っ直ぐ何処を見ているのか視点の定まらない虚な目をしている。

肌触りのいいショールの感触を確かめていると、

「アネモネ、君は今この国が何処と戦争しているか知っているか?」唐突に質問される。


「この国アストリアスと隣国パピルスによる、宗教的観点の違いだとしか…」

これも、兵士達から聞いた話だ。外の情報は全て治療院で交わす世間話でしかない。


「大まかにはそうだな…元はパピルスからの異民族を受け入れることが原因だった。

アストリアスは軍事国家、もともと信仰の自由な国だ…どんな神を崇めようとも自由。

そこに、自国の宗教を広げる為、パピルスは我が国との異民族交流を望んだ。

紛争の始まりは、宗教的観点の違いと言われているが…」

そこで口を止めて、黙り込む。


そして、唐突に「私が婚約したのはパピルスの女だった。」神殿長、好きな人いたんだ…とそこに驚く。


「互いの友好関係にも、准将の息子である俺と、パピルス王族の娘ソニアとの婚約は国ぐるみで行われた」


「ただ、異民族が入ってきてから国内の情勢は悪化してきた。パピルスの異民族はかなり強引な手で自国の宗教を推していたため、反発も大きかった。

その頃は、国内の事案で軍人として何度も鎮圧に向かったよ。」

過去を懐かしむ様に唇の端をあげて語る。


「ソニアとの婚約をするにあたって、自国民からの反発が大きくなっていた。

だが、友好の証とする為にとパピルスが圧力をかけてきた。

その時だ…」





「父上!自国民の反発も強く、内乱も起きております!この様な時に婚約などと…」

中佐として大隊を率いる軍人だ、国を守るためにどれだけ自国民の血が流れ、紛争地帯で部下も失ったか…こんな状態で和平を示すお飾りの婚約だと?冗談じゃない…


「隣国との和平交渉中だ、ソニア姫をこちらに迎え入れれば、向こうも事を大きく出来ますまい、だからこそ早くしたいのだ…」


「私は…貴方の道具ですか…」


「そうだとしたら何だ?それに我が家にとって悪い話ではない。お前もレイドルフ家の人間として勤めを果たしなさい!」



私の声は、誰にも届かない…



そうして、和平交渉の道具として、私とソニア姫は婚約し、ソニア姫を我が国に迎え入れる日が訪れた。


ソニア姫は、パピルス特有の褐色肌、深い森の様な緑の髪の娘だった。

お互いに特に感情もなく、我が父上の家で共に暮らす事になった。



共に暮らせば、自然と情が湧いてくる。



「ソニア姫…私の帰りを待たずに食事取ってくれて構わないです」

いつも、私が帰るまで食事を取らずに出迎えてくれる。どんなに遅くてもだ。


「いいのです、1人で食べるよりも2人で食べた方が美味しいではないですか」

笑顔で、いつも温かい食事を用意してくれた。


和平交渉の道具とされた、同じ境遇。


彼女は、王の第三婦人の長女だったが、次期王となるべき息子が生まれた事により、娘へ注がれるはずの愛情や何もかも全て弟に注がれた。そのため、家族からの愛情を知らずに生きてきたという。


「小さい頃から食事はいつも1人でした…ですから一緒に食べる家族と言うものに憧れておりました。私、結婚したら必ず共にテーブルを囲む家庭にしたいのです」

少し頬を赤くして、照れながら未来の話をする。


「なるほど…私は父が仕事上家に居ない事の方が多いので…

そう言わてみると、食事を誰か食べるのも軍の兵士達とぐらいしか思いつきません。

どうやら、ソニア姫と自分はとても似ているようですね…」

スープの中にある野菜を転がし遊ぶようにしながら、自分の食事風景を思い出す。


「あの、ソニア姫とお呼びになるのを、やめていただけませんか?これから家族になろうとしているのに、なんだか…家族らしくないじゃありませんか!

私、フェイ様とお呼びしたいのです…なので、で、で、出来れば、その、ソニアと呼び捨てで呼んで下さいませ!!」

真っ赤な顔で、一大決心して発した言葉だったようでギュっと力強く瞳を閉じて、口も変な形になっている。


その顔を見て、思わず吹き出し笑ってしまった。

「な、なな、なんか変でしたか?!」顔をぺたぺた触りまた、赤くなっている。


「いえいえ、素敵な提案でしたよ、ソニア。」




最初は嫌悪感しかなかった、この婚約も彼女と過ごす日々が気持ちを変えていった…愛情に飢えた者同志で、愛情に満たされた未来の話をするのも悪くなかった。



それから2ヶ月が経った…



「大佐!北方のマキアス領内から応援の要請です!異国民と内乱が起きており、領内の兵での鎮圧は厳しいと!!」


「了解した。即刻向かう、13番隊は準備出来次第北方マキアス領に向かう!1400(イチヨンマルマル)に4番ホールにて待機、作戦内容を通達する!」

私の副官、アイザック中尉に指令を出し、他部署への伝令のため急いで動き始める。マキアスか…遠いな…


3日間の行軍を経て、マキアス領内に足を踏み入れた。

「大佐マキアス領内に到着いたしました!」

先導をしていたアイザックが、報告にくる。

領内に入ったというのに、周囲は嫌な程静かだ…


「何かおかしい…アイザック中尉、引き続き警戒を怠るな!このままマキアス支部まで行く。」


アイザックも感じていた様だ、「マキアス領内の兵で鎮圧できないほどの戦闘が行われたにしては、綺麗すぎますね…誤報でしょうか…」


誤報…無駄足に終わる程度ならいいが…首筋がヒリヒリする。こういう時は何か悪いことが起こる前兆だ。


マキアス支部に向かうとルートを変更し行軍し始めた時だった、上空に高圧の魔力反応を感知した…

「上だっ!!!!散開しろーーーーーーっ」


声と共に散り散りに兵は広がり、馬に鞭を打ち離脱するため駆ける。


その瞬間、後方に白い光の柱が落ちてくる。

それから数秒後、爆風が吹き荒ぶ。爆風に馬ごと吹き飛ばされ、身体が地面に叩きつけられる。そのまま勢いは止まらず数メートル転がる。


魔導兵器だと?!設置式転開術式…

通常の火器よりも魔導兵器の破壊力は数100倍である。そして、設置式展開術式は円形に広範囲の攻撃が可能で、爆発は上空に設置された展開陣から柱のように降って来る。


「無事かーー?!すぐに被害状況を報告せよっ!」


「衛生兵ーっ!!」


「足ガァーーーーーーーっ」


直撃を食らった兵は身体がバラバラになり誰の腕なのか、足なのか…辺りは血の海で肉塊が山になっている。

身体を部分的に吹っ飛ばされた者、混乱したまま落馬し踏み潰された者、まさに地獄絵図であった。最初に気付いた私は、左肩脱臼、アイザック中尉は比較的軽症であった。


私の部下は、マキアス領の設置式展開術式により、100人から34人の死者を出し、48人が重軽症を負った。

甚大な被害を出し、行軍したマキアス領内では、中央司令部に応援など出ていないとのことだった。アストリアス術式にかなり似せていだが、パピルスの術式であった。


重傷の兵はマキアスに残し、軽症兵を連れて中央本部に戻るまで1週間かかった。

私は、自分の部下を多大に喪失し、罠を張ったパピルス人も発見できず…無能な上官としてのレッテルを貼られる結果となった。


失った部下達はもう戻らない…迂闊だった…何か怪しいと感じた時に、魔力感知を怠らなければ…私の評価などどうでもよい、言いたいだけ言えばいい…その通りなのだから…


酷く疲れた身体で宿舎のベッドに横になる…体面を気にする父上の顔を見るのが嫌で家に帰るのをやめて、本部の宿舎にて眠る。


うつらうつらしていると、突然ドンっ!!!と大きな音と共に震源地かと思うほどの揺れが起きる。

跳び起きて、状況の確認のため宿舎から出る。窓から見えるのは黒煙が空に登り石造の壁に大きな穴が空いている。


爆発の起きた1階へ向かう。3階から2階、1階と三段跳びで階段を飛び降りて、1階に到着する。周囲は黒煙と炎が上がり、銃声が鳴り響く。

武装した兵が応戦している。「煙で何も見えぬ!窓を割れ!!一体なにが起きている?!!」


「じ、自爆テロですっ!!突然正体不明の人間多数が周囲の味方を巻き込む形で自爆しましたっ」


なっ、自爆?!アストリアスの中央本部にテロ行為だと?しかし、どうやって検問を抜けた…部外者を通すはずなどある訳が…

窓を割り外に煙が登っていく、黒煙と炎の奥から影が見える。



何者だ…銃を構えて待つ 




ゆっくりと黒煙の中から見えたのは、父とソニア、であった。

「な、何で??」

思いもよらない2人の姿に唖然とし、銃を持つ手が揺らぐ。


「フェイ…すまな、い…」父は肩から血を流し、青白い顔色をしている…そしてその隣にいるソニアはナイフを父の首に食い込む形で持ったまま歩んで来る。


「フェイ様、生きてらっしゃったのデスね、嬉しゅうございマス。

私、命令を受けてここに居ますのヨ。」

何処を見ているか焦点が合わず、虚で狂気を孕んだ目で笑いながら口を動かす。もはや、上から糸のついた操り人形のようだ。


「私が下された命令ハ、中央本部を灰にシロ、よ」歯茎が見えるほどニタァと笑い、ソニアはふらふらと前に進んで来る。


「フェ、イ…彼女は…ば、爆だ…ん、き、気にするな…撃て…」

なっ、ソニアが爆弾??!魔力感知を行う、魔力感知機に魔力を流すと、彼女の身体中に魔導爆弾が多数付いている。そして、内臓魔力量が馬鹿みたいにな量である。


これが爆発すれば…ゴクリと乾いた喉を潤すよう

に生唾を飲み込む。ソニアを撃ち殺す?私が?

家族の愛情に飢え、両親は親ではなく上司…お互い似たような人生を歩んできた…

君は、哀しく脆い、女性だったじゃないか…何故何故何故なぜなぜなぜ??!!!

君に死ねと言った親のために君は死ぬのか?


「ソニアっ何故だっ!!!もう解放されろっ君に死ねと言う者の言うことなんて聞くなっ!君を…君を…撃ちたく…ないっ!」


「構わず…撃て……お前はここの人間まで巻き込む気かっ…」父の声が煩いっ煩いっ、お前に何が分かる!!


「ソニアっ!!!!」銃を構えているが引き金が引けるわけがない、でもソニアが爆発させればここの兵もろとも…


「撃てっ」 「撃てっ」 「撃てっ」




ズーン…と銃声が響く…



ソニアの額から赤い線がスーッと流れていく。

身体がぐらりと、前に倒れていく。時間がゆっくり流れていくようだった、倒れていく瞬間ソニアの血に濡れた赤い目が俺を見て口を動かして何か言っているのまで分かった。

ドサッと、ソニアは床に倒れ頭上からタイルに沿って赤い線が伸びていく。


俺は膝から崩れ落ちる。彼女は…どうして…頭が真っ白になる…

周囲の人間は、「准将大丈夫ですか?」と、父の周りに集まっていく、倒れたソニアを見る者は居ない…


後ろをゆっくりと振り返ると、オリバーが持つ銃より硝煙が上がっていた。


神殿長とソニアさんの出会いと別れでした。未来の話をしきりにしていたのは、叶わない夢だと思っていたのかもしれません。幸せな未来を皆さんは実現してくださいカキカキ …"〆´◡ฺ`。)

次回も頑張ります!!

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