終わりと始まり
医療と異世界を繋げた話を描いてみたくて今回この作品を公開いたしました。
まだまだ拙い文章で申し訳ありませんが、良ければ読んで頂けると嬉しいです(◍ ͒•ಲ• ͒◍)♬
昔から身体の弱かった私は、病院で過ごすことが多かった。
両親は、他界し私を心配して見舞いに来るものは居なかった。
その寂しさを埋める様に、看護師や医師は私をとても手厚く看病し、職務として当然の言葉であったとしてもかけられる言葉に何度も励まされた。
私の人格は、病院で作られたと言っても過言ではなかったため、将来の目標が医師になるという事は、必然であった。
病弱な身体は、成長とともにある程度の日常生活を送ることが出来るよう回復し、医師の道を目指してがむしゃらに机に噛り付き、勉学に励んだ。
他界した両親が残した遺産があるとはいえ、無駄に使うのは、忍びなく、国立の学校を選択し高い高いハードルを超えるために必死だった。
学歴など、どうでも良かった。医師になる資格さえ取れれば本来はどこでも良かったのだが、金銭的なことも踏まえて国立という道を選択したのだ。
目標があったため、勉学に励むのは辛いことではなかった。夢のために費やす時間はむしろ私にとっては有意義な時間であった。
誰もが血反吐を吐くほどに嫌な事柄も、全てまるっと消化してしまえるほどに、医師への憧れは強かったからだ。
そして、ストレートで国立の大学を卒業し、研修医として病院の中を歩けるようになった時の喜びは誰よりも大きかったと自負している。
幼少期に憧れ、崇拝した医師に自分が今なっているという喜びは、恐らく私と同じ境遇の者にしか理解し合えないだろうと考えている。
研修医としての生活は病弱な私にとって、苛烈極まるものだった。睡眠不足な上に、体力は大量に消費し、課題、実技と学ばなければならない事が多かった。
周囲の同期も顔色が悪くなっているのだから、病弱な私は尚更であった。だが、ここまで来たのだから無事に研修期間を終えて、完璧な医師として成長したいという気力だけで日々を乗り越えていた。
誰よりも上を目指し病院内で権力を得たいとか、将来は自分の診療所を構えて、お金を得たいなどという気持ちは少しもなかったのが、自分の美徳だと考えていた。
そんな気持ちで医師になる人間に対して、浅ましい考えだと思わずにはいられず、その様な思想の持ち主にだけは負けたくないと誰よりも医学書を読み勉学と実技の練習には手を抜かなかった。
結果として、死に物狂いで終わった研修医時代。
勤務医として私は大学病院内で生活している。内科、外科、小児科、他にも細分化された科のどれを専攻しようかと悩んだ。
幼少期の憧れだけならば、小児科を選択したかもしれないが、研修医期間に多くの症例や、患者との触れ合いにより、私は小児科以外の候補も頭に存在していた。
故に、大病に対して効果的で、死に直面した人を救うためには、必然的に外科という立場が欠かせないであろうと認識したのである。手術を行う外科医は、内科的治療では手が届かない人の命を救うことができるからだ。
ならば、循環器、消化器、脳、などの様々な部分に於いても、循環器外科を専攻した。
専攻分野は勿論だが、様々な症例に対応した医療を行いたいと考えていたため、他の分野以外にも、東洋医学などの勉強にも励んだ。
他の同期よりも抜き出た技術と知識で、現場においてかなりの地位を確立してきた。しかし、それをよく思わない人間は沢山いた。
病院内は派閥や権力争いでのカースト制度のような物がある。上位になるためには、上位カーストに気に入られるように振る舞うだけである。だが、これは医療においての大きな足枷のようなものだ。
大学病院内の人間ほぼ全てが、このカースト制度を重要視するため無能な人間であっても出世し名医などと呼ばれてしまう事もある。
私の信念とは全く違うものである。
命を預かるべき現場で、カースト制度により医師としての職務よりも上に媚をうることが仕事になりつつあるからだ。
私は、はぐれ狼の如く、どうしても命を重要視した発言が多くなり、周囲からは空気の読めない人、目立ちたがり屋、少し技術があるからと頭にのるな、など、吹聴された。
どれだけ年数を積もうと、年々当たりは強くなり、周囲には敵しかいない状態となった。
職務だけを全うすることだけを考えられたらどれだけ幸せだっただろうか。
上司とのコミュニケーション能力の高さで待遇が変わるような場所で、本気で命を救う事を考えられるのだろうか?
私には疑問しかなかった。
そして、ついに大学病院最期の日が訪れた。私は、医療ミスを行った医師を庇うために勝手に執刀医などのカルテを改竄され、無実の罪を背負うこととなったのである。
それが、大学病院の上の指示であったため、誰一人として無実を証明してくれる人が居なかった。そうして、私の大学病院生活は幕を閉じたのである。
それでも、人命救助を目標としてきた私は、MSF(国境なき医師団)に参加し、紛争地域などに派遣され世界中の力無き人々の人命救助を行うべく日本から海外へと移った。
物資もなにもかも不足し、日本でなら容易く治療できる病で多くの人々が死んでいく大地でどれだけの人を救えるか。
それは、今まで学んだ大学病院のやり方なと全く役に立たなかった。挫折しそうになる日々だったが、歯を食いしばり、そこにある物資のみで、素早く対応する能力を手にしていった。
ある日、ふと違和感に気付いた。時々ただ診察をしただけでどこにどんな異常があるのかが目に透けて写る様な感覚であった。
常にではなく時折起こる現象に最初は、疲労から来るものだと思っていた。
だが、核心に変わる日がくる。
紛争地域にて、子供のオペを執刀していた時であった、爆発による揺れで助手の手元がくるい、動脈を傷つけてしまったのだ。拍動と共に激しく吹き上げる出血を抑えるため、出血点を見つけなければならなかったが、大量の血液と、明かりも足りないため出血点を見つけ出せずただ、大量のガーゼで圧迫し続けもはや駄目かと思ったその時だった。
私の目には人体の血管が薄らと目に見えて、出血点がどこであるかが、分かったのだ。
血の海になっている中にバイポーラを突っ込んで血管を焼いて出血を止めることが出来たのだ。
その時の私の手に迷いは無かった。そして、確信したのである。私は他者の身体内部を見ることが出来る目があることに。
そして、患者の閉創中に爆撃は激しくなり、患者を第一に避難させるよう指示して私も後に続くようにしたが、瓦礫の下敷きとなり、その一生を終えることとなった。
医療に身を捧げ、人命救助を最優先とした私の一生は海外の見知らぬ大地に骨を埋める事になったのだ。
短くても、充実した人生だったと思っている。
暗闇の中に溶けているような感覚で、どれくらいの時間彷徨っただろうか。
その暗闇の中で声が聞こえた。
他者の命でのみ、救われる己が心は清らかであると言えるのか?
己の欲望のために、救われた命は己の欺瞞で満ちているのではないか?
私の自己満足だったのだろうか、空っぽの私を他者を救う事で埋めていたんだろうか…命を自分の存在証明の為に利用していたのだろうか…これは罪なのか?
問いかけに対し、随分と長い時間だった様な、短い様な、時間の感覚も無い中、自らの行いを振り返っていた。
眩しい…身体がうまく動かない…
時間を忘れ、闇に溶けていた私に突然窮屈な感覚と光が差し込んだ。
目の前には大きなスプーンで無理やり口に液状のものを流される。
うぅ、な、なんだこれ…やめて
さぁさぁ、お口開けて、たーんと食べましょうねぇ
?????知らない中年女性の顔が前にあった。
どうしたのかしら、さっきまではちゃんと食べていたのに
自分の体に意識を向けた
中年女性の腕に丸々と収まり、抱えられていた。
これは、赤ん坊????自分が赤ん坊になっているではないか。
「アネモネちゃん、もう少しだけ、あと一口食べましょうねぇ」
と言って、またもや無理やり口にスプーンが突っ込まれた。
声を出そうとしたが、どうやら泣き叫ぶしかできない様だった。
なるほど…どうやら私はおかしくなってしまったんだな…精神科かな。
数日経ち、自分がおかしくなり幻覚や幻聴により精神科に入院しているのかと思っていたが、どうも違った様だ。
これが、輪廻転生だとするなら私はアネモネとしての生を授かったのであろう。
しかし、こんなにも詳細な記憶を持って生まれることがあるのだろうか…実際前世の事を覚えていると話す人がTVに出ているのを見たことがあったが、同じ事が自分にも起こっているのだろうか?と、自分の存在の異質さを感じていた。
寝返りがうてるため生後5〜6ヶ月であろうことは分かった。この頃から自我が芽生えるのであれば、私が記憶を思い出したのも納得である。
これは、小児の研究に役に立ちそうだと自分研究を頭に記録しながら日々を過ごしていた。
異質である事を念頭に置き、周囲に悟られぬ様にそれらしく振る舞って日々を過ごした。
ここは、どうやら孤児院で私は戦災孤児としてここに預けられているようだ。
人生の初っ端から、かなりのハードモードが予想された。
そして、私のいた世界より文明が進んでいない様子だ。着ている服のデザインや繊維、食器、家具などの部屋の風景から木工用品ばかりであることが伺えた。
現代で言うならば、中世ヨーロッパ辺りがしっくりとくるような環境だった。
輪廻転生したとしたら、私は未来にいるのではないだろうか、だとしたら文明は滅びてしまったのだろうか?
それとも、過去に転生するなんてことがあるのだろうか?
もし、過去に転生したとして、異物である私がここで生きることは未来を変えてしまうことになるのだろうか?
疑問や不安はずっとある。どのようにアネモネを導けば未来に支障がないのか…もう他者の命を奪い自分の生きる糧にするのは沢山だと思い知っているからこそ、常に細心の注意を払い行動していた。
それから月日は流れ、6歳となった。周囲からは「こんなに美しい子供がいるのだろうか」とか、「将来は間違いなく国1番の美貌の持ち主になる」などと容姿を褒められることが多くなった。
しかし、致命的な弱点があった。それは、笑えないことだった。
本来赤子でも、表情で表現するというのが普通であるが、私は前世の記憶が問題なのか、それとも戦死した両親への精神的苦痛が影響したのか、笑うという感情表現が出来ない娘となってしまった。
ある日、6歳児検診が行われた。今までの検診とは違い、医師のみではなく神殿から聖杯をもってあらわれた神官が同行していた。
子供たちは、聖杯に触れてそれで終了という、この時代における6歳の儀式であろうか?と首を傾げながら、私は言われるがままに聖杯に触れた。
すると、聖杯の石が赤く煌き、聖杯の中に液体が溜まっていった様だった。
「な、何これ???さっきまでの子供たちは何もなかったのに…」
神官達は、その様子を見て私を神殿に売って欲しいと孤児院長に話していた。
孤児院長は、眉間にシワをよせて渋い顔をして俯いていた。
孤児院の経営状況はかなり酷い。戦争は終わらず、戦災孤児はどんどんと増えていく。国からの補助金は戦争への資金となり、減額され周囲から毎日恵みを貰って分け与えている状態だった。
1人でも食いぶちが減るだけでも負担は軽くなるだろうし、お金になるならと考え、最期の親孝行だと思い、神殿に行く事に心良く了承した。
孤児院長の口振りや、表情からは、神殿の環境が劣悪なのであろうというのは伝わってきた。
仮にも神の名を語っている場所なのだ、孤児院よりも酷い環境とは一体どのような所なのか、想像もできなかった。
聖杯に触れる事で何が分かるのか、結局は結果も分からないまま、神殿の服に着替えさせられ、次の週には神殿へと移動させられた。
孤児院長は、馬車に乗せられて連れて行かれる私を、たくさんの子供達と共に見送ってくれた。
6歳になるまで、産後6ヶ月の赤子時代から面倒を見てくれた孤児院長は、今の私にとっては母と同然だった。
母の顔が苦しそうに歪んでいるのを見て、本当は側に居たかった気持ちを胸に涙をぽろぽろと流しながら見つめていた。
ドナドナの気持ちとは、こんなものだったのだろうか…寂しさを感じつつもどんどんと小さくなる影を見えなくなるまでずっと見ていた。
神殿は、白い大理石のような石造りの建造物で、伝説のアトランティスのような美しい作りだった。
神殿内は、私ぐらいの年齢の子供から成人まで年齢層に幅がある人が同じような服を着ていた。
そして、どう見ても偉い身分であろう人々は、神殿用にあつらえた特別製の生地、刺繍などが施されており、明らかな身分差を感じた。
神官達は、私達を集めた広間の壇上にあがり、手を大きく広げて、演説を始めた。
「其方たちは、孤児でありながら魔力を持つ特別な存在である。その力は、この世のために使わなければ神罰が下るであろう。神より賜った力を神の為に使い、少しでも貢献できるよう生きる事を望む。」
と広間の隅まで届く声で話した。
年齢別に神官がつき、部屋へと案内された。同年代の子供は7人であった。7人の子供が1人寝るのがやっとの広さの部屋が与えられた。
もうすでに、神殿での生活が過酷であろう事が確信に変わり、明日からの神殿業務の日々が恐ろしくなった。
神殿での生活は、孤児院の100倍過酷であった。6歳児であるにも関わらず、睡眠時間は4時間程度。食事も2食ではあるが量が足りない。掃除や洗濯などの家事全般が仕事であったが、年齢が上になる程に、過酷さは増していく。重労働に耐えられず息絶えていく人々もいた。
周囲の子供達も痩せ細り、明らかな栄養失調である。この状態で成長すれば間違いなく障害が出てくるであろう。抵抗力も弱く病にもかかりやすく、重症化しやすい…働いていた時の紛争地域の子供達が目に浮かぶ。
改善方法は、適度な食事、睡眠で改善されるが私に、その術がないことが悔やまれる。知識があってもそれを行える力がなければ、無力である。
上に何か言えば、当然の如く拷問にあう。ここは地獄だ。私の罪はそんなに重かっただろうか…
孤児たちに仕事を命令する人間の名は、ダルクと呼ばれていた。
ダルクの身なりは神官達と同様にとても整っていた。だが、かなり太り気味で腹のボタンは、いつ弾け飛んでもおかしくない程にパンパンであった。
弛んだ顎からも、食事の過剰摂取が見られ、その脂肪の少しでもいいから孤児達に分けて欲しいと妬ましく思っていた。
同年代の子供と共に仕事をしていると、必然的にお互いを励ます様になっていた。
この過酷な環境に精神がついていかないのは当然である。そのため、なるべく多くの子供達とコミュニケーションをとり、メンタルケアを行うようにしていた。
周囲の子供達からは、とても慕われ、話しているとお母さんといるような気持ちになり安心すると言われ、精神的に不安定な子供達の相手をしてから眠るのが日課になっていた。
子供達は、日中であっても私にくっついていたい様で、隙を見つけては抱きついてきたり、頭を撫でて欲しいなど本来なら大人に貰うはずの愛情を私に求める様になっていた。
これを見たダルクが、何をしているのか?と尋ねてくる。
周囲の子供達は震え上がり、萎縮して言葉も出せず俯いていた。
「ここで、お前らが子供に無理をさせているから、精神が不安定になっているのを治療するためにカウンセリングを行っているんだ!!!と言えたらどれだけ良かっただろうか… 」
言えるはずもなく、自分が声をかけて少しだけお喋りをしていました。と答えた。
ダルクは、ニヤリと上から見下ろし、「食事と寝床を貰っている分際で、仕事中にお喋りとは随分とハメを外している様だなぁ、これは一度見せしめにお仕置きが必要だろう!!」
と、嬉々として私の腕を掴み地下への階段へと降りて行く。
「お前は、今まで見た孤児の中でも断トツに綺麗な顔をしているからなぁ、これは楽しめそうだ」
と、下衆な言葉を吐きながら階段を一段一段と降りていった。
私は、拷問といっても、殴られたりする程度だと考えていたが、この男の考えはどうやら違う様だった。6歳児でまだ未成熟な身体に、性的な虐待を行おうとしているのだと悟り、冷や汗が止まらなかった。
もうすでに精神的限界はとうに超えている。その上、こんな醜い男にこれからされる仕打ちを考えれば死んだ方がマシだろうと考え、このまま頭から階段を飛び降りようとした。
すると、ふっと昔感じたあの感覚を思い出す。ダルクを横目で見た時に、醜く太った身体の脂肪を通り過ぎて筋肉、そして血管や臓器が透けて見えた。心臓付近に違和感を感じ、目を細めると、心臓に小さな血栓が流れていくのが見えたのだ。
すると、ダルクは胸を押さえて苦しそうに呻き声を上げて階段から転げ落ちていった。
私は、呆然と階下を見下ろして倒れて動かないダルクを見つめていた。
こんな奴、死んで当然の人間だ…と憎しみを込めて睨んでいた。だが、まだ助かる!!!!諦めるな!と、昔の私の声が頭でこだました。
今は、あの頃とは事情が違うんだ、新しい生を受けてここで生きていくためにも、ダルクが死ねば助かるんだ!そう自分に言い返した。
だが、そこに倒れているのは、もう虫の息で身動きも取れずただ死を待つ人間だった。
見捨てるのが苦しい、心臓がバクバクと高鳴り、呼吸が早くなる、見捨てるということは殺すと同義…救う術を知っていてしないのは、私が手を下していなくても、最善を尽くさなかった後悔で今後殺人者として負い目を感じて生きていくのだろうか…
気づけば、階段を駆け下りて身体を仰向けにしようと必死で力を振り絞っていた。
小さな身体に、100キロはあろう巨体、どうしても動かない。すると、地下にいた神殿の人間がこちらに気づき駆け寄ってきた。
「何があった?!」
うつ伏せたまま、微動だにしないダルクを見て、その目をそのまま私に移す。
必死に仰向けにしようとしているのを察したのか、ダルクの巨体をゴロンと仰向けにする。
私はすぐさま、首の頸動脈を探りながら顔を横に向け耳をダルクの口元近くに寄せた。
耳に呼気を感じることは無く、頸動脈からの拍動も感じられなかった。すぐさま、ダルクに馬乗りになり心臓マッサージを行った。
だが、6歳児の栄養失調の虚弱な身体では、ダルクの心臓に対して衝撃を加えられる程の圧迫ができず、体中から発汗し無駄に汗が流れ出していく。
すると、「横から何をすればいい?」と尋ねられた。
はっ、と横をみると訝しげに私の行動を見ていた男が立っていた。見た目は20代前後、兵士の様な風貌でそこそこがたいのいい体型だった。
私は、胸骨圧迫の方法を男にその場で伝えた。男は言われるがままに、私のような、子供の言う通りに動いてくれる優しい人間であった。
30回圧迫した後、とってもとっても嫌々ながらも専用のマスクがない以上は仕方ない…と口からフーッと人工呼吸を行った。
倒れてからどれくらい経過しただろうか、目の前で倒れたため、発見は早いが5分以上の無呼吸状態が続くのは、脳へのダメージも起こるため、早く自発呼吸が戻ることを強く念じながら、「戻れ!戻れ!」と口で繰り返した。
すると、今まで変化がなかったが、ダルクの表情が突然苦悶の表情になった。
そして、ぐぅっ!!!と苦しげな声を出して、自発呼吸が再開した。
胸骨圧迫を続けていた男は、必死すぎてダルクの変化に気付いておらず、そのまま胸骨圧迫を続ける。
ダルクは、苦しそうに、い、痛い…
と呟き、一度胸骨圧迫を止めるように、待って待ってと、声を掛けた。
私はダルクの首に再度触れ、そして、そのまま心臓に目をむける。
血栓は、左冠状動脈より随分と流された下の細い血管の所で止まっていた。
ここの技術では、カテーテル手術など出来るはずもないため、現状様子見しかない。血液をサラサラにするような内服薬もないため、内科的治療も無理。
もはや、この周囲の心筋の壊死は止められないだろうが、現在のところ対した不整脈もなく脈拍が取れていたため、このまま安静にさせて欲しいと、兵士風の男に伝える。
男は、コクリと頷くと、運ぶために手を呼んでくると言って、階段を駆け上がっていった。
ダルクの身体は、階段から落ちた事もあり擦過傷だらけではあったが、透かして見ても、骨や脳に異常はなかったので一安心した。
私は、仰向けに横たわるダルクの横にフゥッと息を吐いて、床に座った。
横たわる大柄な男は、「何が起きたんだ…」と小さく私に問いかける。
「突然、胸を押さえて階段から転げ落ちたのです。
意識もなく、呼吸も止まっていました、先程の兵士の方が居なければ、死んでいたと思います。」と伝えた。
ダルクは、まだ意識がハッキリしないような目で、「ほぉ…」と一言だけつぶやいた。
兵士風の男が、数人の男とともにぞろぞろと階段を降りてきて、そのままダルクを運んで行った。私は、どうしたら良いのだろうかと目を彷徨わせていると、兵士風の男が共に来て欲しいと声を掛けてきた。
男達と共に階段を上り神殿内でも中級の貴族が使用する部屋へとダルクを運ぶ。
男達を見ていると、横で兵士風の男がこちらにきて欲しいと、神殿内で1番権力を持つ神殿長室へと通された。
そこには、兵士風の男と同じぐらいの年の頃で、整った顔立ち、細身のすらっとした長身、深い海の様な青色の艶やかな髪を束ねた男がいた。
神殿長と呼ばれる男は、スッと手を出して自分の前に座るようにと促した。
私は兵士風の男に抱え上げられて足の付かない椅子に座り、足の上に置いた手をギューっと握りしめた。この後自分の身に何が起こるのかが、全く想像できない。
あの状況では、私が突き落としたと思われても言い訳が出来ないからだ。
確かに、一度は死んでしまえばいいと思った自分がいたため、殺意は無かったと言い切れない。
過去に命を救うため奔走し、異国の地にまで赴き、知らない土地に骨を埋める事になった自分が人の死を望んだ事に、絶望感が隠しきれなかった。
顔色は悪く、冷や汗が止まらない私を見て神殿長は「そんなに怯えるな」と優しく言葉を添えた。俯いていた顔を上げて、その整った男の目を見る。表情は無表情で、そこからは何を考えているのかは読み取れなかった。
「状況の報告をしてほしいアイザック」
と、兵士風の男に話しかけ彼の名がアイザックというのだと初めて知った。
アイザックは、腕を横にして胸元辺りまで上げ、広げていた足をビシッと横につけ、姿勢を正した。
「私は、地下室にて監視の任に就いておりました。すると、大きな物音が聞こえ、ダルク様が階段の下で倒れているところを発見いたしました。
ダルク様の側には、すでにこちらの少女がおり仰向けにしようとしていたため、私が仰向けにしました。
その後は、少女より胸を力強く押すよう指示をされ、ダルク様の胸を数百回程、圧迫しておりました。
その後、ダルク様は目を覚まされましたため、少女より安静にせよとのことから寝室に運ぶために人手を集め今に至ります。」
アイザックの証言は正しい。だが、落ちたところは見ていないため、どの様に思ったのだろうか…
彼の考察が入っておらず事実のみが述べられる回答には、聴いた人間がどの様に考えるのかが重要だ。
私の様な、孤児でましてや地下に連れて行かれようとしている状態ならば、疑われる方が自然であろう。
私は、ますます顔色が悪くなり、胃は空っぽだが胃酸が上がってくる様な感覚になった。相変わらず冷や汗は止まらず、ここで糾弾され、どうせ処刑されるのならば、一思いにこのまま走り出して窓から飛び降りようかと、切羽詰まった脳内で考えを巡らせていた。
神殿長は、アイザックの報告を聞き「なるほど、ではお前が見た時はすでにダルクは階段下で倒れていたという事だな」
アイザックは、目を閉じてコクリと頷いた。
「アイザック、お前の目から見て疑問に思う事はなかったか?」
私は、ゴクリと生唾を飲み込む。1番核心を突く質問である。ここで、アイザックが私をどのように思っていたのかで全てが終わる。
アイザックは、少し眉間に皺を寄せて、これは私個人の考えですがと一言前置きを入れて話し始める。
「現在、地下は神殿孤児の教育において折檻する場所となっております。なので、この少女も恐らく折檻を受ける状況にあったのだと考えます。」
その通りです!!肯定しかできません…心の中で叫び、私をアイザックが怪しんでいるのを察した。もう聞くまでもないでしょう…と思い私は覚悟を決めて思考を止めた。
肩の力がだらんと抜けて、もういいやと気持ちを楽にした。一度死んだ事があるのだし、新しく受けた生も恵まれた物ではない事はこの数年で充分すぎる程理解できる。
前世を知らなければ様々な理不尽や、悪意を知らずにあるがままを受け入れられただろう。
だが、私はここよりもずっと、平等で平和な文明の進んだ時代を知っている。
ここで生きていく事は、もう地獄でしかないのだ。ならば、早い段階で見切りをつけたとしても仕方のない事なのではないだろうか…
アイザックは、話を続けた。
「ダルク様の身体には沢山の傷が見られました。恐らく、階段より滑り落ちたと考えるのが普通です。問題は、彼女が側に居た事です。」
それまで目を閉じて聞いていた神殿長は、鋭くそして暗い目でアイザックを見上げ
「お前はこの娘がダルクを突き落とした…と考えているのだな?」と低く地下を這う様な声で尋ねる。
するとアイザックは、私を真剣な眼差しで見つめてくる。私はアイザックがこちらを見ている目が痛くて俯き、アイザックの方を見る事ができない。
目を閉じると、あの時の暗闇が押し寄せてくる感覚に襲われる。死を覚悟したとしても、心拍数の上昇と、キーンと耳鳴りがして手足に力が入らない気持ち悪さに、あぶら汗が止まらない。
アイザックは、そんな私の様子を見ながら何かを決心した表情になり、口を開く。
終わった…と項垂れそうになった時だった。
「その可能性は少ない様に考えます。」
一瞬何と言ったかのか分からず、理解するまで数秒かかった。私が考えていた言葉とは真逆であったことや、どうしてここで疑わないのか逆に不思議だったからだ。
神殿長も、訝しげな表情になり、続きを促すように顎を上げる。
「私が到着した際に、少女はこの幼い身体でダルク様を仰向けにしようと必死になっておりました。」
神殿長は、クッと唇の端を上げて「アイツを持ち上げるのは私でも難しそうだ」と皮肉を言う。
その皮肉に、アイザックは苦笑を浮かべながら
「はい…かなりの重量でした。そして、仰向けにした後、少女は馬乗りになって胸の真ん中を一生懸命に全身の体重をかけて何度もおしていたのです。
最初この動作にどういった意味があるのか分かりませんでしたが、必死な形相で行っていたため、私が胸の圧迫をかわる様に進言しました。
そして、その後なのですが…」
アイザックは、少し目を伏せて、悩ましげに
「少女が…その、ダルク様に数回口付けをしておりました。」
すると神殿長は、無表情だった顔を崩し、目を大きくして言葉が出ないと言う表情になった。
「あの、ダルクとこの娘が??口付け???一体どういう関係だ?!」
全く理解出来ない!!!!という感情を隠す事もなく大きな声を出した。
アイザックも、全くもってして同意という様子で首を傾げて「正直、あの口付けに何の意味があるのかは私には理解できかねますが…その後ダルク様は目を覚まされました。
私の見たところでは、顔色は青く、身体もとても冷たくなっておりました。
あれは、亡くなっていてもおかしくない状況だったと考えます。
故に、わざわざ階段から突き落としてダルク様を殺害しようと企んだ犯人が、一生懸命に胸を押したり、口付けをしたりして結果蘇生に成功しているのは矛盾した行動であります。」
だからこそ、自分はこの少女はダルク様を突き落としたりはしていない、事故なのではないかと考えていますと付け足した。
神殿長は、最後まで報告を聞き頭痛がした時の様に押さえていた、こめかみから手を外し、なるほどと頷きながら、こちらに半目で問いかけてくる。
「娘!お前はダルクの愛妾か何かか??何故、胸を押すだけではなく、唇まで押し当てなければならないのだ?」
私はやはり俯くしかなく、膝の上に組んだ手に力を入れ見つめながら思考を巡らす。
恐らく心筋梗塞という病を知らない事、脈拍や呼吸が止まっている事に対する応急処置としての胸部圧迫も人工呼吸も知らない事などなどを考慮すると、なんと説明していいか分からない。
説明したとして、こんな6歳の孤児がなんで高度な知識を持っているのかって話になってしまう。そうすれば、自分の出自を語らなければならない…本当の事を言っていいのか…
目を伏せて固まり、俯いていると、アイザックが「君はダルク様を助けようとして行ったことなのだろう?結果ダルク様は助かった…胸を張って正直に答えて欲しい」
と、優しく諭す目で私を気遣ってくれた。
私は、アイザックの目と言葉に勇気をもらい、顔を上げて、姿勢を正し神殿長を真っ直ぐと見据える。
「ダルク様は私を折檻する為に地下へ降りている途中に胸を押さえて突然倒れられたのです。その際に階段から転げ落ちてしまいました。」
神殿長は、机に置いた肩肘に顎を乗せて、私を下から見上げる様にして、少しの嘘も見逃さまいとした様に、真剣で鋭い眼差しでこちらを見ている。
「先程の胸を押す動作は、止まった心臓の動きを助けるための動作です。私では押す力が足りず心臓まで到達できませんでした。アイザック様が行ってくれたからこそ、助かりました。」
そう告げると、神殿長は「では、唇の押し付け合いについてはどう説明する?」
と、からかい口調ではあるが表情は氷の様に冷ややかに見える。
「あれは、呼吸が止まっていたダルク様に少しでも空気を送る為に無理矢理私が口移しで空気を送ったのです。」
なるべくこちらの人間にも理解できる様砕いて説明をした。
それを聞いた神殿長は「ほぉ…」と冷ややかな表情から一変して目を細め、興味深そうに顎に手をやり思考に耽っていた。
「なるほど、理に適っているな…しかし、その様な幼い子供がこの様な知識を持ち得るものか?
例え、殺害後の言い訳にしても出来過ぎている。」
それは、当然の疑問だろう…私も6歳児がこんなこと言い出したらとてもじゃないが、耳を疑うだろう。それでも、やってしまった以上は言うしかない…糾弾されるかもしれない覚悟を決めて神殿長に問いかける。
「神殿長…信じて頂けるとはとても思えませんが、私は前世の記憶があるのです…いえ、もしかしたや夢の話なのかもしれません。ですが、夢の中で行っていた医術を、今回真似したのです。」
表情の少ない私の中で1番最上に真剣な表情で神殿長の鋭い目を見据えて、返答を待った。
神殿長は、ふぅ…と溜息をついて、アイザックに顔を向けた。
お前はどう思う?という無言のアイコンタクトにアイザックは、戸惑いを隠せない様子で、眉を潜めていたが、ふっと上げた顔からは真っ直ぐで真摯な瞳を私に向けて「信じられると思います」と答える。
えっ、ホントに?と心の中でアイザックの純粋無垢な判断に驚いていると、神殿長が「分かった」と一言発した。
そして、アイザックにダルクからの証言も聞かなければならないが、死に損なった直後に話をするのも辛いだろうから、現場周辺の状況などを整理しておいて欲しいと伝えて、アイザックは一礼し部屋を出て行ってしまった。
優しいアイザックは出ていき、足の届かない椅子の上に、神殿長と2人きり…最高に気不味い…
どれだけみっともなくてもここは、思い切って椅子から飛び降りるべきだろうか…ここにいてはいつまで経っても帰れない。
神殿長に挨拶をしてこの場を出る事にしようと、決意し神殿長に話しかけようと顔を上げると、なんと真後ろに神殿長が立っている。
何が起こるのかまた分からず、ガタガタと冷や汗を流すと「そんなに怯えるなと言っただろう」と声をかけられ、私の脇を支えて抱え上げ椅子から下ろしてくれたのだ。
先程までの氷の様な視線などを走馬灯のように反芻して、ポカンとしていると、神殿長は私と目線を合わせる様に立て膝の姿勢を取る。
そして、「今日の話を信じる為にはお前の持つ他の知識についても聞いておきたい。」と、期待に満ちている感情をなるべく押し殺す様に、あくまでも冷静な口調で私に訪ねてくる。
そして、「この事は、私とお前、そしてアイザックとの間だけの秘密とする故、これからは私の側付きとして行動しなさい。」
と命令された。
翌朝、神殿長室に来るよう指示があったため、4時間睡眠による寝不足から、とろとろと準備し、貴族の部屋が並ぶ廊下を渡り突き当たりにある部屋にノックする。
奥から、抑揚のない声で入れと一言あり、失礼しますと部屋に入ると、机にに向かい、寝不足気味に書類仕事を行う神殿長の姿があった。
整った顔立ちが少し不機嫌そうに歪んでいるのを見て取れる。昨夜は自分の前世か夢なのかの世界について根掘り葉掘りと質問攻めをくらい、戦争のない平和な世界であったこと、文明はここよりも数百年程恐らく進んでいること、自分は女で医師として36歳で死んだことなどを話した。
半信半疑という言葉の通り、私の話し方や態度、立ち振る舞いなどから6歳にしては大人びていることや、想像の世界からの医療知識にしては筋が通り過ぎている部分など、信じてみたいという気持ちはあるが、冷静に考えて本当にそんな事が起こり得るのかという疑問も拭えないとのことだった。
そして、本日は今まで掃除や洗濯などを仕事としてきていたが、神殿長の側付きとして、痒い所に手が届く有能な助手としての仕事を見込まれてここに呼ばれている。
ここで結果を出さなければ、私の話は偽りであると、嘘吐きの烙印を押されてしまうため、本日はかなり気合を入れてやって来ているのである。
「神殿長、何か自分にできる事はございますか?」と尋ねてみるが、少し待て…と
昨夜よりもやたらと不機嫌そうに見える、身体を凝視すると、どうやら血圧がだいぶ低そうに見える。典型的な朝に弱いタイプである事が分かった。
貴族の人用にお茶を入れる給湯室の様な場所に移動し、お湯を沸かし、カフェインの入っていそうな飲み物を探してみる。
戸棚にある数種類もの紅茶の中に珈琲を発見。ここにも珈琲があったのかと、嬉しくなる。
前世では、ブラック珈琲をガブ飲みしていたが、子供の身体でカフェインの摂取は良くないため、珈琲を飲むのは当分先の話になりそうで残念だ。
神殿長が珈琲を飲めるのか分からなかったが、一応ミルクや砂糖ももって、もう一度部屋へ戻る。
整った切れ長の目を半目にして、不機嫌さを隠すこともなくこちらの様子を睨んでくる。
「何をしてる?茶など頼んでいない」と、とりつくしまもないが、めげずに勧めてみる。
「神殿長、朝が苦手なのではないですか?恐らく低血圧の症状だと思われます。気休めかもしれませんが、こちらの珈琲を飲んでみては如何ですか?
珈琲のカフェインは血圧を上げる作用と眠気を取る効果もございますので、もし良ければ試してみてはどうでしょう?」
と幼女からつらつらと、述べられる丁寧な言葉に自分の不調を緩和させる効果があると知り、半目のままカップを手に取りグイッと一気に飲み干した。
「気遣いご苦労」とお褒めの言葉をもらい、早速書類仕事にとりかかる。といっても、神殿内の書類仕事など、何がなんだか分かるわけがない為、慣れるまでは計算が必要なものをメインで回してもらうようにお願いした。
「お前は、文字や数字が読めるのか?」と幼女にたいて当然の事を突然聞いてくる。見た目が幼い為に、確かに違和感は大きいだろう。
「孤児院で文字は全て覚えました。数字もその時に、計算に関しては前と何も変わらないので問題ないと思われます。」と、目を閉じてしれっと答える。
「その歳で基本文字を全て読める上に、計算もできるのか…こちらでは、貴族や軍関係者以外は学校に通うことがないため、平民は勿論文字を読めるものの方が少ない。貴族や、軍部に関しても10歳から教育を受ける為それまでに基本文字と数字が覚えられれば良いというところだ」
教育面においても、随分と遅れているのが分かる。平民に至っては、文字が読めないとのことから、ここの文明は私のいた時代よりも随分と針を逆回転させていると予測がつく。
仕事に取り掛かろうと、書類を貰うが椅子が高すぎて座れないため、その場にあった木箱を机にして、床にぺたりと座ると、「淑女が床に座ってはらならない」と罵声を浴びせられる。
「私は卑しい孤児ですし、椅子の高さ的にこちらに座っての書類仕事は難しそうなのでお気になさらず」と、四つ足の背もたれ付きの高い椅子を見て、残念そうに答える。
すると、ひょいっと後ろからまたもや抱え上げられそのまま椅子に座らせられる。「最初から、届かないから座らせて欲しいと、言えばよいではないか?
私が側付きに任命したのだ、その幼い身体では不便も多いだろう、出来ない事に関してはしっかりと出来ないと伝えるように」
まったく…と眉間に皺を寄せて呆れたように溜息をつく。
昨夜、私にとっては命がけの裁判が行われたのだ。命の天秤を握っている裁判長に対して昨日の今日で、気安く物事を頼んだり出来るほど神経が図太くはない。だが、まぁ向こうに合わせるように、今後はそうするように心がけます。とだけ伝えておく。
書類の内容は、経理の仕事内容と変わらず、神殿内の備品購入などの出費を記録し、現金出納帳のようにその月毎の集計を出していくものだ。
さっと、書類に目を通している私を、チラリと神殿長が片目を閉じて見遣り、計算機が必要ならそこのを使いなさい。とぽつりと口にする。
計算機???まさか、電卓だけはこの文明にあるのか?!と驚いたが、そこにあるのはソロバンだった。半目になり、ガクリと肩の力を落とす、そりゃあるわけないに決まっているでしょ…と自分にツッコミを入れて、大した額の計算ではないし暗算でいけそうだと、スラスラと書類に数字を書いていく。
それを見た神殿長は、「おい!真面目にやれ!いい加減に書いて良いものではないぞ!」と怒声が響く。
「お言葉ですが神殿長、このぐらいの計算でしたら暗算で構いませんので。計算機は必要ありません。」と、真面目に幼児の頭をフル回転させ、間違いがないように2回見直しているのに、怒られ不服な気持ちが隠しきれない。
「アンザン???なんだそれは、それにこの程度の額なら計算機が必要ないだと?信用できぬ、少し見せてみろ」と、書き途中の書類を奪われ、神殿長がソロバンをパチパチと弾き確認していく。
「………合ってる…こんな事できるものなのか?」
鋭い目が、書類に向けられ視線で書類に穴が開くのでは無いだろうかと思うほどに見つめている。
「暗算とは、頭の中で計算する事をそう呼んでおります。そこまで複雑な計算ではございませんので、暗算で十分対応できます。誓って、手を抜いたり、虚偽の記載などは致しません。」
「なるほど…本当にお前はいい頭脳を持っているようだ。そういえば、名前を聞いていなかったな。遅れたが、自己紹介しよう。私の名は、レイだ。だが、人前でこの名は呼ばぬように。お前は?」
「アネモネと呼ばれておりました。孤児院で名付けられたものです。本名は存じ上げません。」
アネモネの花が孤児院の周りで咲いていた時期に引き取られたということから、そう名付けられたと孤児院長から教えてもらったことを思い出し、込み上げてくる孤児院での思い出に、目を伏せて俯く。
「アネモネ、雑務が片付いたら神殿本来の在り方について教える。恐らく手腕を振ることが出来る場所に来たことは神のお導きだろう。」
唇の端を上げて、微笑んでいる神殿長を見るのは初めてだった。
それにしても、神殿本来の在り方とは何だろうか…聖杯や、演説で話していた魔力で選ばれたなど、ここに来て分からないことは山積みだ、ふぅと小さく息を吐きながら、淡々と書類仕事を片付けていく。
午前中に事務仕事を片付け、思った以上に早く終わってしまったため、神殿長の部屋の掃除、昼食の準備と片付けをしていると、ガタリと椅子から立ち上がった神殿長より、ついて来なさいと呼ばれ後ろをおずおずとついて行く。
神殿の本堂内にある大きさ4メートル程の巨大な石像に向かって膝突き、手を組んで祈りを捧げる。祈り方は、キリスト教と同じようだ。
石像は、男性で髭の長い老人を模していた。
腕には本を抱えており、空いた片腕は前に伸び、掌を下に向けた姿だ。
これが、一体何を司る神なのか、はて?と首を傾げ、横で祈っていた神殿長はスッと立ち上がり、こちらだと目的地は別であることを理解する。
本堂の隅にある、厳重に閉められた鉄の扉があり、そこに神殿長が入って行く。私も後から小走りについて行くが、途端に物凄い悪臭が飛び込んでくる。
何やら嗅ぎ慣れたような、少し懐かしい気持ちになる匂いは身に覚えがあった。そこには、負傷し包帯を巻いた兵士が10人程寝かされている。
この匂いは、紛争地域で何度も鼻にした匂いだった。
「この神殿は、本来軍人達の医療施設としての目的として建てられている。ここにいる神官達はほぼ医学の心得のあるもの達だ。
そして、軍には魔力を使う兵器があるため、魔力をもつ人間を徴収し、軍に魔力提供するという任務もある。」
ようやく、今まで疑問に思ってきた事柄を理解することができる解答を得て、なるほど…と頷く。
この国は、戦時中なのである。どこの国と何を争っているのかなど、情勢は全く分からないが、外の景色を馬車からしか見たことのない私には現状分かるはずも無いと考えるのを止める。
「神殿長、私の仕事はここの兵士の治療でしょうか?」と伺うと、当然という顔で頷く。
ここの医療物資や、医術の発展具合が分からない現状どの程度のことが出来るのか考えながら、目の前の兵士の前に足を向ける。
とりあえずバイタルを測るように、紙と書くものを用意してもらう。体温と血圧に関しては、測定器具がなく、詳細な数値は分からないため、血圧は足背動脈の触知、体温は触れて高いか低いかを今までの経験で記入していく。
「足の甲を触って何がわかるのだ?」と不思議そうにこちらを見ている神殿長に、「足の甲にある脈を打つ血管を触っておりました。身体の中で1番遠くで触知しやすい血管は、身体の血の巡りがしっかり出来ているのかを理解するのに良いのです。」と、またまた分かりやすく砕きまくった言葉で答える。
本来は、足背動脈が触知出来れば血圧が80以上はあるという、ある程度の指標になるのだ。80以上を維持できていれば、生命の危機に瀕しているとは考えなくてすむ。
「なるほど…それ程までに血圧というのは重要なのだな。私もやってみよう」と足背動脈を探して触りまくるが、どうやら見つからないようだ。
「脈を打つ場所などないが…」と半目で私を睨みつけてくる。
見つけにくいのは確かに見つけにくい、だからといって疑わないでもらいたいと、少し憤慨し、足の甲にバツ印を書く。
「ここを3本の指で優しく触れてください」
と神殿長の手をバツ印の場所に誘導する。
「ああ…確かに小さいが感じるな…なるほど」
と、感心しながら頷く。
一度、収容されている負傷兵全員のバイタルを確認し、1人づつの診察に入る。
戦争による負傷のため、外傷が主となっている。ただ、治療環境があまり良くない為、このままだと病に感染し、たちまち院内感染する恐れもある。
急務としては、この診療所内を清潔に保つようにすることだろうと、神殿長に進言する。
神殿長は、うむ、と頷き孤児達に診療所内の清掃を徹底するよう指示を出す。
負傷兵の包帯を外し創傷部の確認をすると、縫った痕がある。だが傷は塞がっていない。周囲の皮膚の色、創傷部から出ている膿を見て、壊死した細胞を一度取り除くデブリ(デブリードマン)が必要だと判断する。
「ここに、縫合した痕があるのですが、縫合する道具や消毒液などはありますか?」と尋ねると、神殿長は、側にいた神官に指示して道具を持って来させる。
出てきた道具は布に包まれており、開いた中には自分が使ってきた様な道具ではなかったが、なんとかなりそうだと顎に手を当てながら頷く。
消毒薬はアルコールのみだった、これはかなり染みるだろうなぁ…と考えるだけでゾッとする。
「縫合の際は、鎮痛作用のある物を使っているのですか?」
「一応、鎮痛作用があると言われている薬草を飲ませてはいるが、かなり痛がるので数人がかりで抑えて行なっている」
と、その薬草とやらが何かは気になるが、効果は無さそうなので却下である。
正直あまり使いたくないが、芥子の実からとれるアヘンに含まれる麻薬作用での縫合が今は現実的だろうか…
「芥子の実というのをご存知ですか?こちらで芥子の実というのか分からないのですが…」と、紙に描いて、身振り手振りで説明する。
すると、近くで仕事をしていた神官が「サポに似ている様に思いますねぇ」と渋い顔で答える。
何故そんなにも渋い顔をするのか疑問であったが、神殿長の言葉ですぐに理解できた。
「サポは、以前平民達の間で流行った毒だ!使うと気分が良くなるのか調子に乗って大量に使った馬鹿共が何人も死んだのだ」
それは、そうだ…麻薬だし、大量摂取すれば呼吸抑制が起きる代物を遊び半分で飲んでいたのなら頷ける。
「それは、今ありますか?」サポとやらがあるなら、状態を見ながら投与して、少しでも痛覚を鈍麻させなければ、とてもじゃ無いがデブリなんて出来ない。
神官と神殿長は、顔を見合わせ、とりあえずあるか見てくる様に指示を出す。
その間に私は湯を沸かしてもらい、煮立った鍋の中に縫合器具を全ていれて煮込んでいく。
またもや不思議そうに私のすることを覗きに来る神殿長や周囲の神官に、何をしてる?と聞かれる前に「これは煮沸消毒といって、使用する医療器具を消毒しております。こうする事で、目に見えない小さな微生物を殺して、身体の中に悪い物が入らない様にします。」と話す。
そして、洗い立ての手拭いで髪と、口元を覆う。
サポの実とやらがあった様で、神官が渋い顔を崩す事なくこちらに運んでくれる。
サポの実に傷をつけ、そこからどろりと流れ出る液体を少しだけ負傷兵の口に流し込む。
この中に、モルヒネと同じ成分が含まれているのは分かるが、適量が分からないため、患者の身体を凝視し、透けた体内の変化を注意して観察した。
少しして、苦痛に歪んでいた顔から苦の表情が取れてきたのに気づく。
私はすかさず、傷口に軽くアルコールで湿らせた脱脂綿を当ててみる。
表情に特に変化は無く、呼吸状態も安定していた。いけそうだ!と確信して、自分の指先から肘までをアルコールで消毒する。
煮沸消毒した道具からハサミと鑷子のようなピンセットを取り、壊死した創部を切り取っていく。周囲は興味津々に人が集まる。だが、一度医者モードにスイッチが入った私は、言葉を選ばずに周囲に向かって「不潔になる!この道具や私、患者には触れるな!もし少し近くで見たいのなら洗った手拭いで私と同じように髪の毛と口元を覆ってからにして!」と怒鳴ってしまった。
周囲から冷たい空気を感じ、私はその瞬間、我に返った。マズイ…アホな研修医がオペ中にへらへらしていた時のように怒鳴りつけてしまった…どうしよう…と嫌な汗を感じる。
神殿長は、眉間に皺を寄せてフンッ、と鼻で何やら威嚇しているようだった。言いたいことはたくさんあるが、今は大目にみてやるという目でジロリと私を睨みつけて、「皆、アネモネの言う通りにしろ!」と神殿長が声を上げた。
神官達は、なんでこんな孤児の小娘の言う事を聞かなくちゃならんのか?と首を傾げ納得いかない表情で言われた通りに手拭いで髪と口元を覆う。
ああーやり辛い…なんとか少しでもさっきの発言を忘れてもらえるよう、今度は説明しながらデブリをすることにする。
「この創部を見てください、皮膚の色が周囲と違いますよね、それにここの皮下組織の色も白色を帯びているのが分かりますか?」と、今度は学生への講義のように懇切丁寧に解説する。
「このように、変色した部分は壊死しているのです。いわば腐っているような状態です。この部分を残したまま縫合しても傷口は塞がりません。なので、この壊死した組織を切り取り洗浄してから縫合する様にして下さい。」
「ほぅ…しかしこんなに切り取ってしまっては、傷口が縫えないではないのか?皮膚が届かないぞ??それに、洗うのはアルコールでよいのか?」と、神殿長がなかなか鋭い質問をしてくる。
「洗浄に使用する水は最初のうちに作っておきました。」コッソリと塩を混ぜた水を煮沸し冷ましておいた物を指差す。
「生理食塩水と言って、体内の成分に近い水を煮沸し、冷まして洗浄液として使います。アルコールは、皮下組織内に入るとショックという状態を起こす可能性があるため、皮膚からの消毒以外は使用しません。」と、ここで注意しておく。
「切り取った部分が広範囲で皮膚が届かないとの事でしたが、今回の切除範囲ぐらいでしたら周囲の健康な皮膚の下をハサミで剥離してビヨーンと伸びるようにしてあげれば届きます。」
そう言って、デブリが終わった後、周辺の皮膚のを伸ばせるよう、皮下組織と皮膚を剥がすようにハサミを入れていく。
少し温い生理食塩水を創部を内を洗うように上からダバっとかけてもらい、床や服がなどがビチャビチャになってしまった。これはかなり想定外だった…早く水で流したい…
鑷子と、針で手早く傷口を閉創していく。最後にアルコールを含ませた脱脂綿で消毒し、洗い立ての手拭いを厚く重ねて包帯でキツく縛る。
本来ならば、デブリしてできてしまった創部内のポケットと言われる空間に滲出液が溜まってしまうため、ドレーンと呼ばれる管を挿しておいてポケット内の体液を排出させたいのだが…無いものは仕方ない…
分厚く重ねたガーゼの上からキツめに包帯を巻く事で少しでも圧迫できればなんとかなるかなと、考えての応急処置である。
もっと言うなら、抗生物質があれば最高だ!!抗生物質さえあれば、化膿を防げる!!だがあるはずもないので、今後の課題である。
処置の方法を見ていた者たちは、自分達もやろうと、他の負傷兵の傷口を観察し始める。
10人いる負傷兵の内6人が縫合不全を起こしていた。
恐らく、傷を洗っていない事や、器具を消毒していないこと、などなど上げれば何個でも出てくるほどに酷い状態で縫合されたのだろうと想像がつく。
逆に、縫合不全を起こしてない4人はどんな身体をしてるのかと、不思議になるぐらいだ。
創部の洗浄のためにも大量に必要になるであろう生理食塩水を作るように、作り方を紙に書いて教えておく。毎日朝に作り、ホコリなどが入らないよう蓋をして、使い切らなかった分はその日のうちに破棄するようにと話す。
6人の患者のデブリを神殿長含めた神官たちが行うと言うので、私は横から口を挟みつつ、必要な時は、助手として手を貸すようにして、患者全員のデブリが終わり、後片付けをしていれば、すでに真夜中になっていた。
洗浄時にどうしても水浸しになってしまい、オムツのような吸水性のよい物があれば良いが、あるはずもなく、患者のシーツやら衣服やら全てを取り替えなくてはならなくなった。
途中から、創部に水をかけていた神官が段々と調子に乗っているようにも感じ、後半はかなり苛々していた。
「今後は膿盆のような、受け皿を用意してそこからはみ出さないように静かに水を流すようにしてもらおう…こんなんが毎回じゃ身がもたないよ…」
ぶつぶつと愚痴を零していると、またもや後ろに神殿長が立っていた。私はぎゃっと、叫び出しそうな声を飲み込み、努めて自然な振る舞いで、どうされましたか?と聞いてみる。
「確かに、今日のように濡れるのはこりごりだな…アネモネ、話があるから部屋に来なさい。」
神殿長らしい抑揚のない声が上から響いてくる。身長差は何十センチあるのだろうか、高いところから見下ろす目がかなり恐ろしい。
「神殿長、お部屋に伺う前に一度水浴びと着替えをしてよろしいでしょうか…このまま動き回るのはあまり…」ここまで言えば神殿長も理解し、「水浴びでは、しっかりと汚れが落ちないだろう。風呂を用意させるのでしっかり洗い流してから来なさい」
なんということでしょう、お風呂に入れる日が来るとは夢にも思わず、普段無表情の私の目は恐らく喜びで輝いていたようだ。
その姿を見た、神殿長はフッと唇を上げて笑い、風呂がそんなに嬉しいのかと呟いた。
貴族のお風呂場に侵入した私は、感動で目が潤んでしまった。
6年間、お風呂というお風呂に入った事がないのだから仕方ない。
そして、貴族の風呂はホテルの大浴場のように豪華絢爛で、この小さな体1人に対してなんという贅沢なのだろうと大はしゃぎである。
髪や身体を洗うのを手伝うために、1人の神殿孤児の女性が付いてきた。立場は私と同じなのに、洗ってもらうのは申し訳なく、1人で出来ますのでと、断ってみるが断固として首を縦にはふらない。
石鹸で頭から、身体まで全身磨いてもらい、6年分の垢を落とすと、逆に今まで来ていた服が無くなったような感覚で強烈な違和感がある。本来これが普通だったのになぁ…と、何もかもが揃っていた過去を懐かしく思う。
サッパリとした体に、新しい服を着るときの気持ち良さも格別であった。私は深夜であるのも災いしてか、変なテンションのまま神殿長の部屋へと向かい、扉をノックする。
入れと言われ、神殿長の顔を見て一瞬で現実に引き戻される。容姿端麗な顔、切れ長の鋭い目で睨まれると、目だけで人が殺せるのではないかと思える程の凄味がある。
神殿長は、何も言わずに私にスタスタと歩み寄り抱え上げると、椅子に座らせて、対面にある椅子に神殿長も腰をかける。
無言の圧力…私は一体何をやらかしただろうか…デブリの時に、調子に乗りすぎて怒鳴ってしまった事だろうか…怒っている内容が分からないというより、考えればあり過ぎるため、どう口を開けばよいのか分からず、膝の上で組んだ手をもじもじとさせる。
「今日行った医療行為について、聞きたい事がある。」
最初に口を開いた神殿長の言葉は、お小言ではなく、医療行為の詳細を聞くためであった。
「アネモネ、サポの実の作用についてしっかりと聞いておきたい。今まで、毒として認識されていた物だ、それが今回、痛みで暴れる事なく治療を行う事ができた。一体どういう事だ?」
なるほど、それはちゃんと理解しておいてもらう必要があると、頷きどのように説明しようかと少し考える。
「サポの実と呼ばれているものは、毒にも薬にもなるのです。逆に、薬とは毒にもなり得るということです。」薬についての知識は絶対に必要である。認識を改めるためにもここは、しっかりと皆んなに周知してもらいたいと思い分かりやすい丁寧に話す。
「今回のサポの実から取れる液体には、麻薬と呼ばれる苦痛を和らげたり、気持ちを高揚させる作用があります。平民は、この気持ちを高揚させる効果から使用していたのだと考えます。
麻薬は、一歩間違えると恐ろしい薬への依存症状を引き起こし、過剰に摂取すれば命を失います。
ですが、適量であれば痛みに苦しむ人の苦痛を緩和させる作用があるのです。」
「ほぅ…それは、サポの実への考えを改めなければならないな。して、適量とは一体どの程度なのだ?」
顎に手をあて、うーんと考えてみたが「分かりません」と言うしかなかった。
「分からない物を、使用したということか?!」とこれでもかと、目を開いてこちらに訴えてくる。
「身長、体重、年齢、性別、これらによって適量は異なってきます。なので、患者の様子を見ながらの投与…としか現時点で言えることはありません。しかし、治療に痛みが伴う場合は鎮痛作用があるものは必須でしょう。サポの実はその点に関してはとても優れていると言わざるをえません。」
神殿長は、かなりのしかめっ面で、しばらく無言で考え込んでいる。
そして、分かったと、ため息混じりに答え、今後サポの実を使用する際はアネモネが管理するようにと一言添えられ、私は麻薬の管理を任されるようになった。
かなり夜も更けて、どっと疲労を感じる。神殿長も昨夜と違いかなり疲れが顔に出ているように見える。ここは、側付きとして主人に「随分と本日はお疲れのご様子なので、ゆっくりお休みして頂きたいと思います。明日も朝よりこちらに参りますので」と、嗜めるように話す。
神殿長も、そうだな…と頷き、今日は下がりなさいと、お休みの許可を得た。
失礼いたします。と部屋を出ようとすると、神殿長が、あっ言い忘れた事があったと、思い出したようにこちらに顔を向ける。
まだ、何かあるのか…とげんなりしていると、「明日も、今朝の飲み物を頼む」と笑顔で頼まれた。
デブリとは、デブリードマンの略称で医療用語です。今後は様々な症例で医療用語が多様されますが、分かりやすいように書いていけるよう頑張りますので、どうか、意見感想をコメントしてくださると嬉しいですカキカキ …"〆´◡ฺ`。)