金髪
・・・と、その前にトイレに行こう。
私はこの建物のトイレの場所を知らない。
偶然見つける事が出来ても『男子禁制』であるこの建物の二階には「男性が使用して良いトイレ」が無い可能性が高い。
当たり前だ。
『男子禁制』なのだから男が来る事自体、想定していないだろうから。
だとしたら、一階に降りるべきだろう。
酒場の客には男性も多いだろうし、男性用のトイレもあるだろう。
だけど私はトイレの場所も一階に降りる方法もわからない。
私はしょうがなく枕元にあるベルを鳴らした。
中世なんかの海外のドラマで貴族が召し使いを呼ぶ時にベルを鳴らす場面があり、世話になっておきながらベルで呼びつけるのも何か偉そうで気が引けたが、家主の許可もなく、建物内をトイレを探して徘徊するのも失礼な気がするので、呼びつけるしかなかった。
それに今はまだトイレは我慢出来るが、呼びつけずに我慢していたら、ベッドの中で粗相していただろう。
ベルの音を聞いて、イシュチェルさんが現れた。
「しかしこの部屋は暗いわね。
怪我人を寝かせていたんだから眩しくないように暗くしているのはわかるけど、もう起きたんだから明るくしなきゃね?」イシュチェルさんが窓の蔀を跳ね上げる。
部屋の中に光が入ってくる。
暗さに目が慣れて、イシュチェルさんのだいたいの顔形は見えるようになっていた。
逆に窓から差し込む光が眩しすぎて、幻惑されて周りがしばらくは見えなかった。
視界が落ち着いて来た頃、私は驚きでしばらく固まってしまい何も話せなくなった。
何にそんなに驚いたのか?
首から下の見る事が出来る自分の容姿にである。
変わってしまった。
変わったなんてもんじゃない。
一番大きい変化は何といっても『性別が変わっている事』だった。
そして髪の毛は肩まで伸びていて、自分で顔にかかる髪を見る事が出来た。
金髪だ。
業界人風に言うと『パツキン』だ。
私は誰なんだろう?
少なくとも私の身体は、かつての私の物ではない。