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月より遠く  作者: 海星
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~森にて~

ヨランダは背中にカーリーを背に立った。


この時、イシュチェル達は森に救出部隊を組んで、向かっている最中だった。



ヨランダの頭にも「救出部隊が組まれるだろう」という考えが浮かんでいない訳ではない。


だが、ヨランダは常に最悪のケースを考える。


最悪のケースを想定した上でその切り抜け方を考える。


「まだイシュチェル達は二人が森に向かった事に気付いていない」


「街から『魔物討伐部隊』は派遣されてくるだろうが、魔物の群れに気付くのも部隊が派遣されてくるのも半日は後の話だ」


「魔物の群れは一国の軍隊以上の強さだ。


一つの街の冒険者ギルドから派遣されてきた者達など5分足止め出来れば上等だ」


もちろん『魔物討伐部隊』の中に『月とうさぎ亭』の者達が含まれていたら、話は変わってくる。


『月とうさぎ亭』の者でなくても、異世界転生人の冒険者が『魔物討伐部隊』の中にいるかも知れない。


彼らであれば、二人か三人もいれば魔物の群れを蹴散らす事が出来るだろう。


しかしヨランダは最悪のケースを想定している。


「誰もしばらくは助けに来ない」


「やっと助けに来た中に魔物の群れに太刀打ち出来るだけの腕がある者はいない」


「魔物にはある程度の知能があり、弱点であるカーリーを集中して狙う」


「カーリーに崖を背に立たせているが、空を飛べる魔物がいるかも知れない状況で崖際にいる事がかえってこちらの行動を一方的に制限している」


最悪、そんな状態でヨランダはカーリーを護りながらイシュチェル達が来るまで凌ぐつもりでいた。


そして魔物達は現れた。


見たところ羽のはえている魔物はいない。


崖を背にしても空から背中を攻撃してくる魔物はいなさそうだ。


私は詳しくは知らない。


だが現れた魔物はゲームに登場するようなオークやゴブリン、リザードマン、スライムなどである。


元々、魔物はダンジョンに住み着いている。


だがダンジョン低層から溢れた魔物が押し出されるようにダンジョンの外に出てくる。


なので定期的にダンジョン内の魔物を間引いて、過剰にダンジョンの外に魔物が

出て来なくするのは冒険者の大事な仕事の一つだ。


しかし、完全にダンジョン内に魔物を閉じ込めておくのは不可能だ。


必ず少しは魔物がダンジョンの外に出てきてしまう。


そしてここら辺では森の近くにダンジョンの入り口があるので、森に魔物が住み着いている。


「狩人が森に入る時、魔物がいるのなら危険ではないか?」


ダンジョン内は冒険者によって開拓され、低層ともなれば松明がほとんどの通路に掲げられており、ある程度の明るさはある。


だが、基本ダンジョンは暗闇だ。


そこで暮らしている魔物達も夜目が利く。


そんな暗闇で馴染んでいる魔物のほとんどは夜行性だ。


夜行性でない魔物もいるが、昼間活動する魔物は基本的に雑魚だと言われている。


昼間活動する魔物と言えば、ゴブリンやスライム、コボルトなどだ。


つまり昼間活動する魔物達は例外なく弱い魔物の代名詞だ。


日が出ている内に狩りを行う狩人と強い魔物はほとんどバッティングしない。


逆に魔物の寝ている昼を狙って、昼の内に魔物の棲み家に殲滅作戦を冒険者が仕掛けたりする。


つまり、昼の森は比較的安全なのだ。


だからヨランダもカーリーを連れてきたのだ。


しかしヨランダの目論見は悉く外れた。


魔物が寝ているはずの時間に魔物が起きていた。


沢山いるはずのない魔物が森を埋め尽くすほど大量にいた。


統率が取れていないはずの魔物が一点を目指し群れになっていた。


この出来事は誰にも予想出来る訳がない。


謂わば『出会い頭の不幸な事故』のような物だ。


だからと言って『カーリーは魔物に襲われて死んじゃったけど、しょうがない。


交通事故みたいなモンだ』とヨランダは考えない。


「カーリーは誘蛾灯のように獣や魔物を集めてしまう。


今回集めた魔物は森にいた魔物だけではない。


森の周辺にいた魔物全てが集まってきたのだ。


そしてダンジョンからも『聖女』の匂いにさそわれて魔物が

集まって来たと考えるのが妥当だろう。


今までカーリーは街の中にいた。


街には魔物避けの結界が張り巡らされており、街の外にいる魔物に『聖女』の匂いが嗅がれる事はなかった。


だが、カーリーは結界から外に出てきてしまった。


カーリーを街の外に連れ出したのは自分だ。


そこまで考えが及ばなかったのは完全に自分の失態だ」とヨランダは思っていた。


「カーリーは何があっても私が護る」ヨランダは心に決めた。



先手必勝


まだ魔物達は様子を伺って近付いてきてはいなかった。


『ファイアーウォール』


ヨランダは目の前に炎の壁を作った。


「ここから先は通れない。近付きたいなら左右に大回りしろ」という意味だ。


並の魔術師の『ファイアーウォール』であれば、左右に5メートル高さは3メートルほどしかない。


だが、ヨランダの使う『ファイアーウォール』は左右数キロ、高さは8メートルほどだ。


しかも普通30秒ほどで消える魔術の効果をヨランダは五分以上持続する事が出来る。


しかし森で炎の魔術を使うのは愚かしくもあった。


土の魔術で目の前に岩の壁を作る・・・という作戦もある。


だがオークのように岩の壁を壊して道を作れる魔物に対して、岩の壁は一方的にカーリーの逃げ道を塞ぐ物になる場面も考えられたためそれが正解とも言い切れなかった。


乾燥している枯れ木や枯れ葉の多い秋であれば炎の魔術を使うのは間違っている。


だが湿気が高く生木の多い初夏にであれば炎の魔術を使うのは間違いとは言えない。


ましてや「背負った人を護り切れない」という状況において魔物の行動を制限する選択肢はとるべきだ。


森が大火事になり、カーリーも護れなかった・・・というのであれば『ファイアーウォール』を使ったのは「結果論として」間違っていたと言われるのだ。


ヨランダは一つの策として『ファイアウォール』を使ったのだ。

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