魔物
そんな陰鬱な私の気持ちを吹き飛ばすようにヨランダさんは明るく言った。
「さぁ!森についたわよ!
狩りを始めましょう!」
「・・・で、私は何をすれば良いんでしょうか?」
「何もしなくて良いわ。
と言うか『何もしちゃダメ』
カーリーに狩られるような獣も魔物もいないわ。
危ない目に遭いたくないなら私の後ろで身を護っていて。
ある程度経験値を得て、レベルが上がってきたら自分で自分の身を護れるようになるかも知れないけど。
それまではカーリーに戦闘は期待してないから。
今日は森の奥まで入る気もないし、脅威になるような魔物や獣に囲まれる事もないと思うけど、明日からはカーリーに護衛が一人つくようにするわ」
「そこまでしてもらうのは申し訳ないです!
自分の身体は自分で・・・」
「護れないでしょ?
あなたが自分で自分を護れるようになるまでいらない遠慮はしないで。
もし護ってもらう事を恩に感じるのであれば、その後恩返しすれば良いから」
「わかりました・・・。
と、言っても私に出来る事は『出しゃばらないで護ってもらう事』だけなんですけどね。
だからヨランダさん、お願いします。」
「しかし・・・狩りにならないとは。
いや、カーリーが狩猟を出来ないっていうのは予想してた事なのよ。
元々カーリーを戦わせる気はなかったし。
だけど・・・森の獣達がカーリーに懐くとは思わなかったわ」
「でもどうするんですか?
これだけ懐いてる動物達を殺すなんて私には出来ませんよ」
「私だって出来ないわよ!
迂闊だったわ。
釈迦とかキリストの周りに小鳥や動物達が集う・・・って絵がけっこうあるもんね、カーリーの適職が『聖女』だった時にその可能性を考えておかなきゃならなかったわ」ヨランダさんは頭を抱えながら言った。
私の周りには小鳥やリスやうさぎだけではなく熊や鹿や狼、そしていかにもファンタジーなユニコーンなども私に体を擦り付けていた。
「・・・と言う事は私は戦わなくても獣と仲良くなれるって事ですか?」私は能天気にユニコーンを撫でながら言った。
「獣とはね。
魔物はカーリーに懐かないだろうし・・・何よりカーリーはつい最近、盗賊に拐われたのよね?
獣以外にも敵はいくらでもいるわよ。
例えば『人間』とか、ね」
「じゃあ、この子らを殺さなくても経験値を得られるような敵はいるんですね!
よかった・・・元々動物は好きだし、何より懐いてくる子は殺したくないし」
「『よかった』じゃないわ。
『獣』と比べて『魔物』は数段強い事が多いのよ?
もちろん例外はあるわ。
スライムと比べれば熊の方が強いの。
強い獣もいるし、弱い魔物もいるわ。
でも『狩り』の中で自然と戦闘を覚える・・・・という思惑は外れたわね。
魔物の知能が高いか低いかではなく、魔物は本能的に弱い者、弱っている者を狙うのよ」
「それが何で良くないんですか?
私が『魔物も獣も倒せない』という現実も『この森にいる魔物も獣もヨランダさんの敵じゃない』という事実の前には何も変わらないじゃないですか」
「変わるわよ!
良い?
魔物達は弱い者から攻撃するの。
つまり、カーリーは間違いなく標的にされるのよ。
確かに敵は大した強さではないでしょう。
でも魔物の数が多くて私が相手しきれなくなったら・・・カーリーに攻撃が向くのよ」
「じゃあ、あまり多くない魔物を選んで闘うようにしなくちゃいけませんね」
「選ぶわよ。
でもカーリー、あなたは今、獣達に囲まれているわね。
獣達は人間より嗅覚が発達しているから森中から獣が集まってきているのよ。
魔物の中には獣より嗅覚が発達している魔物もいるのよ。
その魔物達がカーリーを標的にして集まって来たら・・・」
ヨランダさんが最後まで言う前に周りの獣達が唸りはじめた。




