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月より遠く  作者: 海星
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聖女


話しているうちにギルドの受付に到着した。


ギルドの受付はギルドの建物に入って、真っ直ぐ歩いてすぐだ。


受付には受付嬢の女の子が並んでいる。


受付嬢の女の子には『受け持ちの冒険者』がいるようで、人気の受け持ちの冒険者が多い受付嬢もいれば、暇そうに自分の髪の毛を(いじ)っている受付嬢もいる。


ヨランダさんは迷う事なく一人の受付嬢を目指した。


「こんにちは、メイン。


景気はどう?」


「あら、ヨランダ。


貴方が来るなんて珍しい。


景気はまあまあね。


・・・って、あら可愛い。


こんなむさ苦しい所に似つかわしくない女の子連れてるじゃない?


その関係でここに来たの?


それとも仕事の依頼?」


「私が依頼に応える事はあっても、私が依頼に来る訳がないじゃない。


しかも私が依頼に応えるのはイシュチェルさん経由で、直接ギルドとやりとりする事はないわよ。


今回来たのは貴方にウチの新人の『適職』と『スキル』を調べて欲しいからよ」


「あぁこの娘『月とうさぎ亭』の新人さんなんだ。


初めまして!


私は冒険者ギルドで受付嬢をしてる『メイン』って言うの。


因みにヨランダをはじめ『月とうさぎ亭』で働いてる女の子を多く担当してるわ。


あまり『月とうさぎ亭』にはいかないわね。


あんまりギルド所属者とギルドの受付嬢が仲良くしてると『癒着』とか五月蝿(うるさ)い事言うアホがいるのよ。


だから私生活じゃあまり絡まないけど、仕事じゃ絡む事も多いと思うわ。


よろしくね!」


「よ、よろしくお願いします・・・。


私はカーリーと言います」私はあまりにも陽気なメインさんの自己紹介に気圧されてしまった。


私は『陽キャ』『陰キャ』以前に全く友達がいなかった。


なので地球では、誰かに話し掛けられる事は珍しく、陽気に話し掛けられる事など皆無だった。


「この娘は内気だからあんまりグイグイいかないで。


優しく話し掛けてあげてね」とヨランダさんが助け船を入れてくれた。


「ふーん・・・まあ言っちゃ何だけど、こんな内気で『月とうさぎ亭』でやっていけるの?


あそこはウチの荒くれ者のバカ共が溜まり場にしてるところでしょ?」


「その心配はごもっとも。


もう既に冒険者崩れのゴミ共に一回拐(さら)われてるのよ。


だから、このままじゃ『月とうさぎ亭』じゃやっていけないから護身術を仕込もうとしてるの。


その前に『スキル』と『適職』をギルドで調べようと思って連れて来たのよ」


「あぁ・・・『月とうさぎ亭』の連中が冒険者崩れの盗賊集団を壊滅させたって噂になってたアレか。


『金落としてくれるなら誰でもお客様』って言ってる『月とうさぎ亭』が客であるはずの冒険者崩れを壊滅させるってどういう事だろう?・・・って思ってたらそういう事か。


この娘を誘拐した制裁に壊滅させたって事ね」


「そういう事。


理解が早くて助かるわ。


じゃあカーリーのギルド登録と『スキル』と『適職』を調べてね?」


「ヨランダが連れて来られた時も大概『この娘大丈夫かな?』って思ったけど、今回はあの時とは比べ物にならないくらいのヤバさね。


わかったわ。


カーリーちゃんもヨランダと同じで、とてつもない才能が眠ってるかも知れないわ」


メインさんは短剣を取り出し、私の右手人差し指の腹をチクリと刺した。


刺された部分から血が一滴出たが、それを『魔女の水晶玉』のような物に垂らした。


「これで浮かびあがってきた文字がカーリーちゃんの適職・・・あくまで『冒険者としての』適職だからね?


冒険者として向いてないとしても、この検査ではわからないからね。


あ、何か文字が浮かび上がって来たわよ!


えーっと・・・何て書いてあるのかしら?


カーリーちゃん、文字は読める?」


「ごめんなさい、読めません」


もちろん『異世界の文字は読めない』という意味だ。


だが、メインさんは私が「文字を読む教育を受けていない」という意味に受け取ったようだ。


「大丈夫。


普通の庶民は殆ど文字が読めないんだけど、イシュチェルさんは従業員達に文字の読み方をちゃんと教えるからね。


今回は私が読んでカーリーちゃんに教えるからね」メインさんは私を慰めるように言った。


「メインは庶民には珍しく、文字が読めるの。


だからギルドでの受付嬢の仕事につけたのよ」ヨランダさんが説明するように言う。


異世界の識字率は低いらしい。


庶民は文字が読めなくて当然のようだ。


『学がない』という事で肩身の狭い想いをするのは異世界も日本も変わらないらしい。


また庶民はほとんど教育を受けておらず文字を知らないらしいので『金持ちの方が教育を受けられる』というのも異世界も日本も変わらないらしい。


「ヨランダさんも文字読めなかったんですか?」


「最初は読める訳ないじゃない。


イシュチェルさんに仕事が始まる前に教わって覚えたのよ。


他にもこの世界の常識とか、簡単な歴史、マナーなんかも教わったわね。


私は最初から知ってたし教わってないけど計算を教わってる娘もいるわよ。


お店でやるお金のやり取りのためだから、簡単な加減乗除だけどね。


あ、そうだ。


毎週土曜日の昼からは『勉強会』だから覚えておいてね。


土曜日とか日曜日とか仕事や冒険を休む人が多いの。


仕事帰りに『月とうさぎ亭』に寄る、って人が多いから土曜日、日曜日はお客さんが比較的少ないのよ。


だから『体力的に余裕かある土曜日の昼に勉強をやろう』という話になっているの」


「文字の勉強の話は後にしましょうか?


とりあえず今はカーリーちゃんの『スキル』と『適職』を見なきゃね。


『スキル』は・・・『超カリスマ』


初めて見るスキルだけど『カリスマ』なら知っているスキルね。


『美しさ』『かっこよさ』が上がりやすくなるスキルね。


『超カリスマ』はその上位スキルかしら?


ヨランダの『超頭脳』『超魔術』と『頭脳』『魔術』の関係と似たようなものかもね。


しかし見事に戦闘には不要なスキルよね。


あ・・・いや、これからスキルは目覚めるかも知れないし。


もしかしたら『超カリスマ』は戦闘に有用なスキルかもしれないし。


ヨランダも中々スキルは目覚めなくて、大変だった時期が長かったみたいだし」


メインさんが気休めを言う。


どうやら私のスキルは戦闘には不向きに見えるようだ。


「スキルは置いといてカーリーちゃんの適職は・・・と。


何これ?


『聖女』?


どういう事?」何かメインさんは混乱しているようだ。

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