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月より遠く  作者: 海星
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我が家


別に縛られていただけで大した怪我はしていない。


だがエクレールさんが下っ端の首を飛ばすのを目の前で見て、腰が抜けて立てなくなってしまっていた。


手足の拘束を解かれて猿轡さるぐつわを外された私は、ふにゃんとその場にへたり込んでしまった。


エクレールさんはそんな私をお姫様だっこした。


「しっかりつかまっていてね?」エクレールさんに囁くように優しく言った。


何コレ?まるで白馬の王子様みたいだ。


「はい、ありがとうございます・・・」私は夢見心地で呟いた・・・けど逆じゃね?


私が王子様でエクレールさんがお姫様ならわからないでもないけど、完全に逆だ。


「来てくれてありがとうございます。


それとご迷惑おかけしました。


少しでも役に立ちたい気持ちが先走ってしまいました。


その結果、エクレールさんをはじめ皆さんに・・・」私が深々と頭を下げようとするとエクレールさんは「可愛い妹を助けるのは姉として当然よ!


そしてそれは仲間達みんなが思っている事よ。


さあ、早く元気な姿を見せてみんなを安心させなくちゃね!」とエクレールさんは私の謝罪を遮り言った。


「わかりました。


でも一つ聞かせて下さい。


私が(さら)われた後、どうなったか聞きたいんですが・・・」私は気になっていた事をエクレールさんに尋ねた。


「とりあえず、お店はすぐ閉めたわ。


それでウェイトレスしていた者と、厨房で作業していた者と、休日をとっていた者と、ダンジョン探索から戻ってきていた者・・・つまり『月とうさぎ亭』の従業員全員ね・・・で、カーリーを誘拐した輩のアジトを殲滅する事になったわ」エクレールさんはこともなげに言った。


「殲滅って・・・!


相手のアジトが大きかったらどうするつもりだったんですか!?」


「大丈夫よ、私が下見としてアジトの規模を前もって見てたから。


ヤツらは百人から二百人くらいの冒険者崩れの集団で人数でいったら私達の倍から四倍くらいよ。


ちゃんと私達でも軽く殲滅出来るってわかってたわ。


無茶はしてない。


ちょっと戦力余剰なくらいよ」エクレールさんは笑いながら言った。


どこまでが本気で、どこまでが冗談だか私にはわからなかった。


「それに、もうそろそろ殲滅が終了する頃よ?


私だけ『敵の殲滅』じゃなくて『カーリーの救出』って別のミッションを受けていたの」


「じゃ、じゃあ今頃イシュチェルさん達は死闘を演じているんですか?」


「死闘?うん・・・まあそうね。


魔王はスライムを狩る時も全力で・・・って言うものね。


そういう意味では死闘・・・なのかも知れないわね」エクレールさんは奥歯に物が詰まったような言い方をした。


異世界でも『獅子は全力でウサギを狩る』みたいな良い回しがあるんだな、と私は訳もなく少し私は感心した。


そこにイシュチェルさんが来た。


「何してるの?


もう掃除は終わったから帰るわよ?」とイシュチェルさん。


「ごめんなさい。


少し話し込んでしまいました」とエクレールさん。


「かまわないわよ。


害虫駆除している現場にカーリーを連れて来れないでしょ?


ここで話し込んでくれて正解よ」とイシュチェルさん。


「すいません。


話に割り込んでしまって・・・。


どうしても気になったので。


エクレールさんの話ではイシュチェルさん達は私を救出に来た、との事ですよね?


なのに『害虫駆除に来た』『掃除に来た』というのは辻褄が合ってないような気がするんですが」と私。


いや、先ほどのエクレールさんの鬼のような強さを見たらだいたいの意味は解るんだけど・・・『優しいお姉ちゃん達』である仲間達が『鬼神かその類か』とはあまり思いたくなかった。


「え?別に何も矛盾していないでしょう?


カーリーを救出して、カーリーをさらった害虫を駆除して、ついでにその仲間のゴミ共を掃除した・・・辻褄は合ってると思うけど」首をかしげながらイシュチェルさんは言った。


少し薄ら寒さを私は感じた。


イシュチェルさん達は味方の時、凄く頼もしいけれど敵に回すとこんなに恐ろしい人達なんだ・・・私は心から思った。


私は気になっていた事をイシュチェルさんにぶつけた。


「この闘いで犠牲になった人はいるんですか?」


「いるわよ。


今日、休日で寝て過ごそうとしていた猫人族の『フレイヤ』って子がね、寝たばっかりだったのに叩き起されたって言ってたわよ。


後でフレイヤに謝ってお礼言っておきなさいね」


「犠牲になって死んだ方はいないんですか?」


「いる訳ないじゃない!


たかがゴミ掃除で死んでたら『月とうさぎ亭』の閉店後の掃除で毎日何人も死んでるわよ」呆れながらイシュチェルさんは言った。


「じゃあ私達の家に帰りましょうか?」


そのイシュチェルさんの言葉を聞いた私はポロリと涙が出た。


『私達の家』


ついに私にも家族と家とが出来た。

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