失禁
私は「むーむー!」と無駄な抵抗の声を上げた。
猿轡をされているから囁き声にも満たない小さな声にしかならなかったが、私としては大声で叫んでいるつもりだった。
しかしくねりながら吐息を漏らしている私は下っ端から見ると悩殺しているように見えていた。
下っ端は余計に興奮した。
絶対絶命!・・・と思っていた時に現れたのはエクレールさんだった。
エクレールさんは私の匂いを追ってここまで来たとの事だ。
「なんだ?てめえ!
この女が痛い目にあっても良いって言うのか?
動くんじゃねえぞ!」下っ端はビビりながらも私を人質にした。
『月とうさぎ亭』のウェイトレスと言えば、その戦闘力の高さは噂になるほどだ。
対して自分は冒険者崩れの小悪党でその中でも下っ端だ。
いくら下っ端が頭が弱くても、戦力差は火を見るより明らかだった。
「カーリーを開放しなさい。
私のスキルは『神速』。
私は他のメンバーに先駆けてスキルを使いカーリーを救出しに来ました。
後から他のメンバーも全員来ます。
お前がカーリーを人質に取り、仮に私を倒したところで他のメンバー全員を倒せるとは思いません。
もしお前がカーリーや私を手にかけたならお前には死すら慈悲に感じる地獄が待っているでしょう。
もう一度言います、カーリーを開放しなさい。
これは脅しではありません。
忠告です」エクレールさんは下っ端に静かに警告した・・・かに見えた。
エクレールさんの目に着衣が乱れ、手足を縛られ猿轡を咬まされた私が映る。
「貴様!可愛いカーリーに何をした!」
『怒髪冠を衝く』とはこの事だ。
エクレールさんは真っ赤になり怒鳴ると、下っ端の言い訳は聞かず一息で私を人質にしている下っ端の前まで来た。
下っ端は慌てて服の袖から隠しナイフを抜いた。
ナイフを抜く→ナイフをかまえる→ナイフを人質の喉元に当てる
この3ステップを素早く行って、エクレールさんを足止めしようとしたのだ。
しかし実際にはエクレールさんは1ステップ目が完了する前に下っ端の目の前にいて、1ステップ目が完了する頃に下っ端の首の上に頭は既になかった。
エクレールさんが何で下っ端の首を落としたのたと言うと手刀、カラテチョップだ。
カラテマスターがビール瓶の首をカラテチョップでちょん切るように、エクレールさんは下っ端の首をカラテチョップで飛ばしたのだ。
エクレールさんは武闘家ではなく獣剣士だ。
だがこんなザコの首を飛ばすくらい素手でも訳はない。
エクレールさんは血が噴き出す前に下っ端の胴体を部屋の隅に蹴り飛ばした。
「下っ端の胴体をそのままにしておいたら『可愛い妹』に血が降り注いでしまう」と考えたのだろう。
優しい姉心だろうが、私はその光景を見てビビって少しちびってしまった。