ディスカッション
「イシュチェルさん、カーリーがゴミを捨てに行って姿を消しました。
ゴミ捨て場に少し暴れた様な形跡があったので連れ去られたのはほぼ間違いないと思われます」ヨランダさんは静かにイシュチェルさんに報告していたが、目は怒りに燃えていた。
「そう・・・。
エクレール、狼人族は多少は人間より鼻が効いたわね。
カーリーの匂いは追える?」イシュチェルさんも静かに座り目を閉じているが、イシュチェルさんの放つ気が机をカタカタ震わせていて激怒しているのがよくわかった。
「お任せ下さい。
他ならぬ可愛いカーリーの匂い、私が間違う訳などありません。
カーリーを拐った輩をどこまででも追い詰める事など容易いでしょう。
地獄の底まで不埒者を追い詰めてみせましょう」エクレールさんだけは怒りを隠す気は一切なかった。
「任せるわ。
じゃあ少し早いけど今日は『月とうさぎ亭』は閉店ね。
ダンジョンに潜っていた子達も丁度帰ってきてるみたいだし、全員で今回は行こうかしら?
じゃああと五分で閉店ね。
今、来ているお客様からはお金は取っちゃダメよ?
丁重に頭を下げて帰っていただいて。
・・・で、十分後には出発出来るようにホールに全員集合させておいてね?
十五分後には全員出発するわよ。
店の後片付けは全員で戻ってきてからやりましょう。
私は早速突入の準備に入るから閉店作業はヨランダに任せるわね。
あと、エクレールだけは先行してカーリーを拐ったヤツらがどこにいるのか探っておいて。
多分、私に勝てないヤツらがカーリーを交渉材料にしようとして誘拐したんだろうしカーリーの命の危険はないとは思うけど、カーリーが危険だと思った時、自分の判断で敵中に飛び込んでも良いわ。
それはエクレールに任せます」イシュチェルさんは有無を言わせず言った。
「「かしこまりました」」ヨランダさんとエクレールさんは同時に返事をした。
それから十分後「月とうさぎ亭」の中央ホールには全ての従業員が集合していた。
「突然集まってもらったんで『緊急事態』があった事はみんな薄々気付いてるとは思うけど、今日カーリーが拐われました。
相手が何者かはまだわかっていません。
ただ一つだけわかっている事は『無事にカーリーに帰って来てもらう事』よ。
その為にあなた達の力を貸してちょうだい」イシュチェルさんが静かな声で言うと、その場にいる者達が一斉に胸に握りこぶしをあてた。
この仕草は『あなたに心臓を捧げます』と言う事で、最上級の『あなたに従います』という意味らしい。
丁度、イシュチェルさんの話が終わるとエクレールさんが偵察から戻ってきた。
「カーリーは無事です。
カーリーを拐ったのは半グレの冒険者二人組、スラムに本拠地を構え、人数だけで言えば我々の約倍、百人程度の子分に囲まれています。
人数は多いですが所詮はゴミの集まりです。
連中は半分盗賊、半分冒険者・・・どちらも中途半端といった感じです。
カーリーを救出した後、蹂躙しましょう」
「わかりました。
相手が海の者とも山の者ともわからない状態だったので慎重になっていましたが、エクレールの偵察のお陰で大体理解出来ました。
『カーリーが私達の仲間だ』とわかっていたからこそ、拐ったのでしょう。
心当たりはあります。
以前、私達と同盟関係を結ぼうとしてきた冒険者崩れのならず者共でしょう。
あまりに益のない話なので、話の途中でお帰りいただいた経緯があります。
それで私達に話を聞かせるためにカーリーを人質に取った・・・という訳ですね。
では今回のミッションを言います。
一つ『カーリーの救出』これは必ず成功させねばなりません。
一つ『族の殲滅』これも必ず行います。
私達に牙を剥いた者の末路をこの街近隣の者達が忘れないようにハッキリ示さねばなりません。
以上です。
では殲滅開始」イシュチェルさんは静かに物騒な事を言った。