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月より遠く  作者: 海星
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油断


情報を得るのに冒険者という立場は捨てられない。


そして情報を集めるために酒場をオープンさせたのだ。


『二足のわらじ』と言われようとイシュチェルさんはこの二つの柱を元に『地球帰還』を目指している。


『月とうさぎ亭』のウェイトレスの制服は『デニーズ』風だ。


旧バージョンは『アンナミラーズ』風だったらしいが『デニーズ』風にリニューアルされたという。


どちらも「女の子が着てみたいと思う可愛い制服」の代表格だ。


どうも男の意見が反映されていない。


「男の冒険者の意見は聞いた」との事だが、その冒険者は異世界転移人で元女の子だ。


「もっと男の意見を取り入れた方が良いと思いますよ。


だって荒くれ者の冒険者が集まる店なんですから」と私はイシュチェルさんに言った。


荒くれ者の冒険者の男達は無視された形なので面白くない。


でも荒くれ者の中にイシュチェルさん達に逆らえる者はいない。


なので、溜まったフラストレーションの行き場が私になるのは、ある意味必然だった。


話は冒頭に戻る。


他のウェイトレスの目を盗んで、私は尻とか胸を触られた。


私は少し気持ち悪かったが、特に騒ぎ立てるほどの感情は持たなかった。


後から考えると少しは「わー」だの「きゃー」だの言った方がよかったのかも知れない。


「あーまた酔っぱらいにさわられちゃったよ」程度に考えて無視していた。


私が拒絶しなかった事で「この女、誘ってるんじゃないか?」と勘違いする者がちらほら現れ始めた。


そして事件は起きた。


料理や酒を運ぶのも半人前。


注文を取るのも半人前。


せめてゴミ運びくらいでは役に立ちたい・・・と私は酒場の裏口から出て、ゴミを出そうとした。


他のウェイトレスなら「ひょい」と軽々ゴミの入っている麻袋を持てるだろうけど私は両手でフラフラしながら引き摺るようにゴミ袋を運んでいた。


ゴミを出すのに私は時間をかけすぎたのだろう。


私がゆっくりフラフラと裏口を出てゴミ捨て場にゴミ袋を捨てようとしていた時、私は何者かに猿轡(さるぐつわ)を咬まされた。


私は「腕利きの上司や先輩から守ってもらえる。


『月とうさぎ亭』は異世界で一番安心安全な職場だ」と思っていた。


それは間違いではない。


街の外には盗賊や山賊やモンスターが出る。


街の中には荒くれ者ややくざ者が出る。


『月とうさぎ亭』の中は私にとって一番安全な場所である。


だが『月とうさぎ亭』から一歩でも出た場合、危険な場所が存在する事を認識しておくべきだった。


ましてや人が寝静まった夜中に人通りの少ない裏口から出た場合、危険に出くわすのは必然だったのだ。


だから教育係の二人からは「夜中に一人で外に出たら駄目」と何度も厳しく言われていた。


だが私は「自分だけ役に立っていない」という焦りで外出が危険な行為だという事を忘れてしまっていた。

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