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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
8/32

私としましては、不可解です。

投稿が遅れてしまってすみません。少し前から腸炎になってしまいまして、健康には気をつけなきゃと思いましたね。

「そんな中であの写真は、いい餌になるんですよ。郁美さんは実の妹ですから。姿が見えないのに学校内に居ることになっていることに恐怖を感じている側の人間たちと、東郷さんの熱狂的な信者が結託して、片方は『居場所を教えろ』もう片方は『聖人の血を汚すな』って感じで」

「……ですが、彼女は言っていました。学校内では、赤の他人という設定でいると」

「確かにそうだったですよ。最初は、ですけどね。仲のいい信頼できる人にだけ、それを話してるみたいですけど、そのレベルの内容を初対面の詩織さんに言っちゃってる時点で、危なくないですか?」

「………………ふむ。友達のフリをして近づいてきた人に騙されていますね」

 まぁ、私も疑問でした。『お姉ちゃんいるよ』と言った後に、赤の他人として暮らしていると言われた。何故、私に正体をあんなにも容易く教えたのか。

憶測になりますが、恐らく彼女は虐めに遭いすぎて愛に飢えている。ちょっとの優しさでもときめいてしまうのでしょう。

「でもそれ。私のイヤリング捜索に関係あるんですか?」

「現段階では関係ないとも、あるとも言い切れません。私は今回の件、誰かが意図的にイヤリングを紛失させたと考えています」

「えー! でも、イヤリングを渡された時、その場所には私と歌煉先輩しかいなかったんですよー?」

「それはどうでしょう」

 私は、次のハッキングで事件解明の一歩前まで行こうと思っています。これが偶然起きたことなら、私が先ほどの潜入で感じた事や見てきたことは、ほぼ無駄になる。

紗江さんの仕草、郁美さんの好意、歌煉さんと面会の約束。これら全て、まほさんが個人的に失くしてしまったという結末は無いものと思って観察、行動したものですから。

「さて、そろそろ物語の中へと戻ります。もし、お疲れでしたら一度帰っていただいても結構ですから。それでは、失礼します」

 彼女の精神的強さには、驚きました。ええ、もうちょっとで変な声が出るところでした。でも、次は、あちらで一日を終えたいと思っています。私の家、もとい身体を貸してもらっている彼女の家を把握しておかなくてはなりません。

「――お、詩織。丁度いいところに」

 蒼木さんが、事務室から出てくる。その手には、私の眼鏡が握られていた。いえ、正確には、『親指と人差し指で(つま)まれている』ですね。

「新しい情報、入りましたか?」

「一応な。まぁ俺から説明したら長くなる。じっくり自分の眼で確認しな」

「ありがとうございます。あの、“あれ”は使えますか?」

「ああ、結構ギリギリだったが、歌煉の情報がいい容量使っててな。二回は使える」

「二回も使えれば、充分です」

 私の愛用しているこの眼鏡は、ICチップが組み込まれていて、ハッキングした物語の情報を入れることが出来る。それによって、ただ物語に入ってみるだけでは得られない情報だったり、全体的な世界観を知ることが出来るのです。つまり私は一回目は何も解決策がない状態で入り、ハッキングに必要な情報を会得します。そして、私が体験した視覚的情報や声や会話の内容を、蒼木さんが解析してデータ化。それを私の眼鏡に転送して、初めて特殊な効果を使うことが出来るのです。


 ――これが、初めから無限に使えたら簡単なのですけどね。


「さて、もう一度、教室から始めましょうか」




 ―――物語へのハッキング開始―――

 ―――ベースデータ読み込み中―――

 ―――すべてのプロフィルを解凍―――

 ―――自我精神文学化―――

 ―――肉体スリープモード―――




 戻ってみれば、私は真面目にタブレットを開いて、授業を受けていた。画面には、一人の女性が立っている。見たことない女性ですね。

「…………おや? これは」

 胸に、名札らしきものが付けられている。【(せん)(どう)】と書かれた名札。いえ、本当に見るべきはそこではない。その左上に小さく書かれている文字。


――彼女の役職は、教員。


「彼女は、教員?」

 教科は理科。科目フォルダによると東郷万里の筈なのですが、明らかに違う人がモニターの前に立っている。

いろいろ興味深いですね。旅行みたいな感覚でこの物語に入っていたなら、深くまで調べていたでしょうね。

 それにしても、なんという静かさでしょう。真面目なクラスというものではなく、これは沈黙のクラスと言った方が雰囲気を伝えるには最適だと思うほどに、皆がタブレットと向き合って、ノートに何かを書き留めている。

「………………ふむ」

 学校が終わるまであと三次元ある。これをリアルタイムで受けるなど、悠長にできる時間は私にはありません。さっそく、使うとしましょう。

 そっと、胸ポケットから眼鏡を取り出す。そして強く念じます。放課後まで時を飛ばしてくれと……。






「――やっと来ましたか。遅いですよー、詩織さん」

 さっきまでの、太陽の日が差し込んで教室とがらりと変わり、椅子に座っていた私は廊下側から教室の扉を開けて立っている。そして、その教室には、一人の女性の姿がある。五十嵐まほだ。

「すみません。道を未だに把握できていなくて、迷ってしまいました」

「歌煉先輩に会えるのに、悠長ですねー」

 ふむ、私としては時を飛ばしてまで、ここに来たのですが。

 まぁ、そんなことはどうでもいいでしょう。

「歌煉さんは、まだいらっしゃらないのですか?」

「隣の教室で待ってますよ」

「なるほど。…………なぜです?」

「歌煉先輩が、二人で話したいって言うもんですから、仕方ないです」


――二人きり? 何故でしょうか。


 いえ、別に何も変なことではないのですが、妙な感覚です。大切な話しを大切な人間とすると分かっているなら理解できますが、私は赤の他人。本来ならば腰巾着であるまほさんくらいは、そばに置いておきたいと思うのが普通ではないでしょうか。とはいえ、私としてもまほさんがいない状況で会えるというのは好都合なことでもあります。お言葉に甘えて、私一人で面会しに行きましょう。

「では、いってきます。話しが終わった後はお知らせしますね」

今回は、三ページ分しかなく、短かったかもしれません。来週にまたお会いしましょう。

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