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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
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続・私としましては、2度目です。

明けましておめでとうございます。年明け最初の投稿です。これから話が急速に進んでいくとかいかないとか……。まぁ、今回も読んでやってください。

まぁ、それは良いとして、どの質問から投げかけてみましょうか。場合によっては変な空気になったりもする。特に一問目は注意しなければなりません。

「――まほさん。貴女は尊敬している人はいますか?」

「います」

 ふむ、なるほど。無意識による眉間の微動、私に軽度の警戒。これは一先ず『尊敬している人』に関連することは聞かない方が良さそうですね。

「好きな色は?」

「青」

「アクセサリーを付けるとしたら何を付ける?」

「イヤリング。ピアスは校則違反なんで」

「……では、大きい箱と小さい箱どちらかを貰えるとき、まほさんは、どっちを取りますか?」

「小さい方」

「では最後にもう一つ、尊敬している人は女性?」

「はい」

 ふふ。これは予想以上に収穫がありましたね。ええ、これならあと二回ほどのハッキングで、相談解決が出来そうです。

「なるほどー。まほさん。貴女、尊敬している人の事を探られるのが大嫌いなようですね」

「…………………………」

「でも、ご安心ください。私は、そういう感情ありませんから。私も尊敬している人がいますので」

「…………ほんとですか~?」

 疑り深いですね。ほんとに天才なのでしょうか。いいえ、性格は才能ではありませんからね。こればかりは、万人が平等に与えられた天性。努力すれば実る勉学とは違います。

「ほんとですよ。だから、まほさんの尊敬する人がどんな方で、まほさんとどういう関係か当てて見せますね」

「へぇ、それは面白いですねー。いいですよ。やってみてくださいよ」

 完全に疑った目。当たるわけがないと、彼女の心は断言していた。ふふっ、甘く見られたものです。

外れるわけがありません。だって私、この手のゲームは必勝ですから。

「……まほさんが尊敬している相手は、一つ年上の先輩で性別は女性。政府委員ではないですが、知的で優等生。しかし、性格は少しきつく友好関係は狭い」

「…………………………」

 まほさんの表情が微かに変わる。視界の軽度の揺れ、唇の微かな乾燥。明らかな焦燥感による症状。推測は当たっている。そして彼女は、驚いている。信じていなかった出来事が、起きてしまっているのですから。

 ただ、これから言う事は私の勘でしかないこと。多分、合っていると思うのですが、どうでしょう。でも、なんとなくわかります。何故なら、“政府委員のまほさんが尊敬している”のですから。

「……恐らくその方、実は政府委員と同じくらい発言力を持っているのではないですか?」

「…………………………………………へぇー。すごいですね」

 まほさんの目の色が、変わった。これは、まずいことをしたような気がします。先ほどまでの警戒は、尊敬している人のことを聞かれた嫌悪感だったのですが、今のまほさんは明らかに違う。これは明らかに猟奇的な、明確な敵意。

「……すいません。少し調子に乗ってしまいました。初対面なのに、ずけずけと」

「えー? なにが『すみません』なんですか? 私何も責めてないのに」

「いえ、その、個人的にふとそう思ったので。謝罪の方をさせて頂きました」

 まずい。私としたことが、裏目に出てしまった。

 そもそも、この世界に入り込んだ時から妙な胸騒ぎがしてならない。今も、何故か依頼人である彼女を目の前にして、私は緊張している。

「――ねぇ、詩織さんでしたっけ?」

「はい、なんでしょう」

 澄んだ赤褐色の瞳が私を映す。そこに視える私の表情は、強張ってもいない、焦ってもいない、かといって不自然な余裕もない。毅然とした表情の私がいるだけだ。

『顔に心の乱れが現れていない』その事実に、私は若干の安堵を覚える。

「目的は何なのか分かりませんけどー。その女性に会いたいんじゃないんですか?」

「……会わせてくれるんですか?」

「他言無用を約束できるなら、別にかまいませんよ」

 そう言う彼女の笑みに、さっきまであった猟奇的な意思は一切見られなかった。あるのは、私の世界に訪ねてきたときの、彼女特有の無邪気さ。


 ――なんだか、悔しいですね。


 まるで、心を弄ばれているかのような感覚です。徒に心を乱されるのは、される側になると不愉快なものですね。こういう仕事柄、人の心に揺さぶりをかけることは何度もしてきましたが、これほどまでに嫌なものだったのですね。

「私の尊敬する人は、図書館にずっといるんですけど、放課後以外は休憩室に籠ってるんで、とりあえず放課後にまたここに来てください」

「ありがとうございます! ではまた、ここでお会いしましょう」

 華やかな笑顔でまほさんに手を振り、駆け足で旧校舎を後にする彼女を見送る。依頼主に会うまでに時間がかかりましたが、これで初日のノルマは達成しました。あとは、まほさんと再会する放課後まで時間を潰さなくてはなりませんね。

 丁度いいです。校内の作りを把握する意味でも、見て回っておいて損はないでしょう。


 ――キーンコーンカーンコーン……。


 『丁度いい』という言葉は撤回いたしましょう。タイミングが悪いことに、チャイムが鳴ってしまいました。

「…………………………」

ええ、もちろん授業も受けますよ。私、真面目ですから。

でも、今から教室に戻っても間に合いません。チャイムが既に鳴り終わっている時点で、もう遅刻は確定。その上、不思議なことに私はどうやってここまで来たのか覚えていないので、どちらに行けば教室へと戻れるのかもわかりません。


 ――まぁ、つまり。今の私は。


 とりあえず、この埃っぽい教室から出て、探索してみない事には始まらないということです。

 それにしても、まほさんは何故、旧校舎の誰もいない教室を選んだのでしょう。まだ郁美さんと逃げた先の木小屋の方が、綺麗だった様な気がします。埃は、人体の害悪だという認識がまほさんは甘いのでしょうか。

「――ちょっと、アンタそこで何してんの?」

「…………おやまぁ」

 なんという運の無さでしょうか。ドアを開けて廊下へ出た瞬間、声をかけられるとは。これは、赤と白のボールにモンスターでも入れて持ち運んでいる可能性がありますね。

「もう授業始まってるけど、アンタなんでこんなところに一人で居んのよ?」

「えっと~……」

 さすがの私も、言葉に詰まる。なにせ、ここが何処なのかもわからなければ、ここがどういう時に使う場所なのかも分からない。言い訳をするにも、言い訳にする材料がない状況。だからと言って下手なことを言うのは、かなりリスキーだ。

 仕方ありません。ここは正直に言うしかありませんね。

「お恥ずかしながら、ここまで来た道が思い出せなくて。その、立ち往生していまして」

私は出来るだけ謙虚に、ここに慣れていない初々しい生徒を演じる。

 それにしても、目の前の彼女。すらりと伸びた長い脚に、アダルトな甘い香水の匂い。綺麗な肌に、小さくも大きくもない丁度いい胸。モデルにいても不思議じゃない。

「もしかして、密島さんですか?」

「ん? へぇ、私のことやっぱり知ってるんだ?」

物凄いドヤ顔ですね。『ふふん』と顔が笑っている。モデルの方は、プライベートはかに過ごしたいと聞きますが、彼女は、お嬢様気質なモデルなのでしょう。

確かに『やりたいことはやる。やりたくないことはやらない』という雰囲気がします。

 まぁ、それはどうでもよい事で、これはかなり好都合な展開です。

「あの、厚かましいお願いなのですが、道案内をしてくれませんか?」

「いいわよ。今、ちょっと気分いいから道案内くらいしてあげる」

「ありがとうございます」

 得意げな表情をする密島さんの後を、静かについて歩く。

ふむ、何故でしょう。不思議なことに、この状況を私は一瞬だけ懐かしいと感じた。まるで、前にもこんな風な場面に遭遇したかのように。……ええ。まぁ、今までに色々な物語へと入ってきたので、道案内をされることは多々ありました。しかし、そういう事ではなく。“密島さんに道案内をされること”に、懐かしさを感じている。

誰かと勘違いをしていると言えば、そうかもしれませんが。はて、誰と勘違いしているのでしょう。

ここからは、この依頼の結末を予想しながら読んでみても、また違う楽しみがあるかもしれません。……そうなるように、精進して書いていきます。今回もありがとうございました!

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