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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
18/32

私としましては、くだらないことです。

皆さん、更新が遅くなって申し訳ありません。

引っ越した後に、ネット環境が整うまで時間がかかってしまい。一昨日開通しました。

金曜日更新というスタンスは崩したくなかったので、勝手ながら今日まで未更新とさせていただきました。


では、ごゆっくり読んでください。

それとも、性格の問題でしょうか。いいえ、私はどちらも魔女だといわれる覚えはございません。

「ところでしおりさん」

 つま先で立ちくるくると体を回しながら、顔には笑みを浮かべる彼女は、まるで人形劇の一幕を見るかのような感覚にさせる。思わず私は、『なんでしょう?』と返事をすることなくただルティアさんのことを見つめていた。

「なぜ私のことを、罪という牢獄に閉じ込めて見つめてくるの?」

「…………それは、私がルティアさんのことを嫌っているということですか?」

「ええ。なんとなく。そんな気がしてしまうわ」

「それは気のせいというやつでしょう。私がルティアさんを嫌う理由がありません」

「なるほどね。ふふっ、たしかにそうだわ」

 言葉の上では肯定。しかし、ルティアさんは心ではそれとは真逆のことを思っていると言わんばかりに、凍り付いた笑みを私に向けていた。

「少し、自分の境遇に疲れているのかもしれない。ごめんなさい。詩織さん」

「いえ、私はこれくらいのことで動じたりしませんから。お気になさらないでください」

「じゃあ、最後にもう一つ質問してもいい?」

「ええ、なんなりと」

「――まほの居場所を教えてください」 

 一瞬にして、胸の鼓動が早まった。車の音、下校中の生徒たちの会話。それらにかき消されてはいるが、それでもこの動揺がルティアさんに聞こえてしまっているのではないかと懸念するほど心臓がバクバクとうるさい音と反動を繰り返す。

「まほさんなら、自宅で療養しているのでないでしょうか」

「しおりさん、それは子供の戯言だわ。私は知っているの。彼女が制服を着て人目につかないように学校のほうへと向かっていく姿を」

「では、学校にいるのではないですか。私は会えていないのでわかりません」

 言葉の攻防が続く。私は嘘をルティアさんは真実を声にし、橋のないオセロのように裏表とめくりあう。

「……遊びはやめにしない? しおりさん」

 そういってきた彼女の表情を、私はきっと一生忘れないでしょう。なぜならその顔は、今にも泣き出しそうで、藁にも縋るようなものだったのですから。


「私は、あの子を救いたい。たとえ、断罪者として失格だとしても救いたいの。私は、見えているわ。あなたがここで、まほと会話をしている風景を、見てるのッ!」

 ルティアさんが言っているとは思えないほどの、まっとうな言葉。純粋で、まっすぐな意見。でも、私は知っています。

 あなたがそうは言いながらも、まほさんを断罪する未来を。

「残念ですが、こればかりはまほさんと私の約束なんです。教えることはできません」

 教えてあげるべきだと、私でも思います。でも、そんな同情は持ってはいけません。それにより明後日までの物語が大きくゆがむ可能性がありますから。

 私が(もっと)も優先するべきなのは、依頼の解決です。


 ――貴女に真実を言えることができたら、簡単なのですが。


「…………でも、これだけは言っておきましょう。まほさんは今、ルティアさんや歌煉さんには、迷惑がかかるから会いたくないと言っていました。だから、恨まないでください」

 まほさんがいないのであれば、もうここにいる理由はありません。ルティアさんに絡まれ続けるのは勘弁ですし、さっさと帰りましょう。

 私の言葉に愕然とするルティアさんの横を歩き、扉を開けてその場を後にした。


 さて、参りましたね。まほさんも、衰退した身体では当然万全ではなかったのでしょう。彼女の気配察知能力は驚くほど敏感です。私が悪戯で、気配も音も感情も無にして近づいたところ、5メートルほどの距離で気づかれてしまいましたから。ルティアさんがいくら教師からの刺客で、日ごろはそれを隠して生活しているといえど、気配を消すというのはまた違うスキルが必要になってきます。きっと、それほどまでの隠密性を持ってはいないでしょう。悔しいことに、私と同じくらいには隠れられる様ですが、今はルティアさんのスキル云々が重要ではなく、“それほどまでに衰退しているということ”にまほさんが気づいているかどうかということです。

 酒を飲んだ人が『酔ってない』と言って、自転車に乗って段差に躓いてもなんとも思わないのと同じで、彼女も、『気配がしないから見られてない』と、勝手に思っているかもしれません。

「明日は、家に行ってみたほうがいいですね」

「――誰の家に行くのよ?」

「…………紗江さん」

「こんなところで何してんの。…………………………って、何?」

「いいえ。なんでもありませんよ」

 今朝のとは違って、今回は本物の紗江さんですね。安心しました。あれほど不愉快なものはありません。

「ふぅん。んで、使われてない教室しかない4階で何してたのよ」

「それの質問も含めて、『なんでもありませんよ』です」

「はぁ? なにそれ、わかりやすすぎるウソじゃん」

 友人同士で隠し事が嫌いな紗江さんは、若干頬を膨らませて私を睨む。彼女は、凄く仲良くなった相手には、滅多に怒らない。そういうところが、私は彼女の愛嬌であり、一定の支持を保ち続けている要素なんだと思っています。

「ふふっ。屋上に風を浴びに行ったら、ルティアさんとお会いしまして。少しだけお話を」

「へー。よくあいつと会話できるわね。私苦手だわ。悪い奴じゃないのは知ってるし、仲良くしてるまほには悪いけどさ」

 紗江さんと話している時だけが、今の私にとっては休憩時間だ。彼女は、完全な『白』な上に、性格も関わりやすい。正直、長期滞在による精神の疲労にはいい効果です。安らぎというのは。

「ところで、紗江さんは逆に、こんなところに何の用があるのですか?」

「あー、あんた日頃は即行帰宅するから知らないんだっけ。帰宅前に見回りしてんのよ。毎日私と溝呂木(こおろぎ)がね」

 溝呂木。たしか、何を考えているのかイマイチ解らないとかなんとかってまほさんが言ってましたね。


 ――…………………………。


 果たして、本当にそうなのでしょうか。証言通りなら、近寄りたくない相手ではありますが。単純にまほさんが不気味に思っているだけで、本当は割とまともな方かもしれません。委員長の寿(ことぶき)さんは、もはや毛嫌いされていましたしね。

「溝呂木さんとは、どんな方なのですか?」

「え、あいつ? あいつは、鬱陶しいわね。まじチャラい」

「ほう、なるほど」

 ふむ、なんとなく、口数の多い蒼井さんという感じでしょうか。もしかすると、頭の切れる方なのかもしれません。ふふっ、これは単細胞な思考回路ですね。そもそも蒼井さんが頭がいいのかも不明なところです。

「――いやぁ、鬱陶しいとかチャラいとか、随分と言ってくれるじゃあないのさ」

 下の階段から、頭がひょっこりと覗く。軽い声をした七三分けの男が、そこにいた。


 ――まさか、この人が?


 私の感覚は、見事当たった。

「げっ、溝呂木。なんでいんのよ」

「そりゃあ、俺の自由だろ? 風吹くままに、俺はいるのさ」

「はぁ? あほじゃないの?」

 限りなく冷めたい。お世辞もない、洒落合(じゃれあ)いもない『あほじゃないの?』という言葉を聞いても、彼は“嘘偽りない笑み”を絶やさず立っている。


「ははっ、まぁ率直に言うと、今日は君の後を着いて行けば、噂の詩織さんに出会えると思ったのさ」

「…………………………」

 確かに、この方は何を考えているか分かりませんね。不気味と言えば不気味。会話もごく自然。ですが、飄々(ひょうひょう)とした態度と、どことなく感じる胡散臭さが彼の心理をうやむやにして、彼の考えが掴めない。これは、たしかにまほさんの情報通りですね。

 だとするならば、『普通に会話ができて、常識もある』というのもまた事実でしょう。


 ――いえ、念には念をです。


「私に会って、何か用でもあったのでしょうか?」

「いいや。一目見ておこうと思っただけだよ。有名人はとりあえず見てみたいだろう。そう、ただの好奇心ってやつさ」

「政治委員の方々に有名人と言われるほど、私は何もしていません」

「そこなんだなぁ。君は何もしていない一般生徒。それなのに政治委員の数名。それに加えて、会うことすら困難な歌煉と万里とも親交をもっている。これを聞いて興味を持たない人間など、いないというものさ」

 私は今回、物語の中で結構好き放題をしているのは承知の上です。そしてその行為が加速したのはムードメイカーから“既にこの物語は私というウイルスに気づいている”と、言われた時からでした。もし、私という存在に気づいていながら物語がストーリーを保っているのならば、もはや隠密性はなくてもいい。逆に、そこから物語の崩壊が始まれば、ムードメイカーが言っていたことは嘘ということになります。

 これはいわば私の好奇心でもありますが、もし前者のようなことが起きているのならば、ハッカーである蒼井さんに報告しなければなりません。

 それは、たとえこの物語が崩壊し、まほさんを救えないリスクがあったとしてもです。

 もちろん依頼はこなさなければなりませんが、私もボランティアでやっているわけではないのです。それも、一歩間違えば私は物語の世界に閉じ込められ、精神から腐敗しやがて死に至るという命の危険すらもある中仕事の依頼を受けています。そんな最中(さなか)に未知なる事態に遭遇した場合、それに対処するべく模索するのは当然です。

「あんたが変なこと言うから黙っちゃったじゃない」

 少し、長考(ちょうこう)しすぎましたかね。無表情で固まる私を横目に、紗江さんが呆れたように溝呂木に言う。しかし、彼は『ははっ』と笑い、続けて言った。

「いいや、違うね。今も“深いこと”考えているんだろう。彼女は常に、遠い何かを見つめている。……俺にはそう見えるけどね。まるで、遠い先の未来を知っているかのようにさ」

「いいえ、そんなこと知る由もないでしょう。私は、そのような能力を持っていませんから。少しだけ、時を止めたり早めたりできるだけです。

「その能力も、だいぶ協議されたことを知らないのかな。それも、政府委員の中で賛否が分かれている内容なのさ」

「なぜ?」

「政府委員でも、それほど強力な能力は持っていないのさ。まほは『単純な直感』俺は『人狼眼鏡』寿委員長は『能力の反射』万里副委員長は『全能力の無効』……ほら、君ほど特殊な能力はないんだ。紗江を除けばさ」

「ふむ。その紗江さんの能力は何なのでしょう」

「私の能力は『玉藻前(たまものまえ)』よ」

「……化け猫ですか」

「そ。私は、姿を猫と人間で瞬時に切り替えられるのよ。最初は、いきなりアブノーマル状態になったのかと思って慌てたけどね」

「姿かたちを変えられる紗江さんのほうが、能力が特異的ですし、能力をすべて無効にできる東郷万里さんのほうが強力な能力だと思いますが」

 私は淡々と言い返す。しかし、溝呂木さんは指を振る。

「そうじゃないのさ。わからないかなぁ。寿委員長と万里副委員長は“自分への脅威に対して”行われるもの。そして俺とまほは“自分が視認できる相手にのみ成り立つ”んだ。まぁ……、紗江のは特殊だが“自分以外は何も変わらない”けど、君のは自分以外の人間全員が君の能力にはまっている。なぜなら、時を止まったことを知っているのは万里副委員長だけ、つまり、ほかの人全員の時は止まっていたわけだ。勿論僕も時が止まった感覚はない。君の能力だけ、明らかに規模が違うのさ」

「……時が止まっていた間の記憶が、ないだけなのではないですか?」

 ふむ。なるほど。これは、ムードメイカーが言っていたことを半分信じるほかにないようです。彼らは薄々私の存在の異質さ、歪さに疑念を抱いています。中には、私のことを『この世界の(ことわり)から外れている』と思っている人間もいるかもしれませんね。そしてそれは、私が大胆な行動を起こすよりも前からあったものでしょう。ムードメイカーの言う通り、私がこの物語の人間ではないと推測する人間がいる。

つまり、物語は私の異質さを察知しながらそれを許容しているという事になります。

「それはそうかもしれないけれど、君の能力が広範囲であることを立証している人間がもう一人いるのさ」

「………………………………まさか、征一?」

「おおー! 正解だ。さすがは紗江じゃないのさー」

「うるっさいわね。どうせカウンター能力を試したんでしょ?」

「そう。詩織が効果を発動したとされた後、万里副委員長からの連絡で寿委員長が能力を使用したとき、遠く離れていたはずの彼が、詩織の能力を自分の効果として発動することができたという結果さ」

これは、まずい。私の“穴”を、彼は根こそぎ調べつくす気でいる。私も馬鹿ではありません。この世界のことはまだ一ミリも理解できていない。軽率な行動は未だ許されることがありますが、言動は一気に崩壊へと進めてしまうことがある。

 さきほど、この世界が私の存在に疑問を抱いていると分かった以上、もう大胆な行動を起こす必要性はありません。むしろあと少しでネックレス喪失を防ぐことができるのです。ここで不用意な真似はしたくありません。

「…………それが、どうしたというのですか」

「ん?」

「確かに私の能力の規模が大きい。でもそれだけではないですか。詮索してどうするのです」

「やれやれ、君は意外と教師の話を聞かない人だったのかなぁ。この世には相対性というものがある。光と影のようにね。それは潜在能力として己という個体にもある。そしてそれは異能もまた同じ。強い能力には何かしらの大きな代償があるのさ」

「それなら私にも、代償はあります」

 もちろん、そんなもの存在しません。でも、私はこの一か月で異能のことやこの学校の在り方というのを書物や、まほさん達の話から学んでいます。『この手』の質問が来たときは、これを答えようというのは決めていました。

今回の回は、LOST BLUE編よりも後のお話の伏線として重要な工程を書いているので、まほちゃんの依頼は何も絡んで来なかった。ゴメンよ。でも、あと恐らく三投稿したら依頼解決するよ。

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