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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
17/32

私としましては、最後の登校です。

だいぶ遅くなってすみません。

引っ越しの準備や手続き等々で執筆できず、ここまでズルズル伸びちゃいました。

お詫びに今回はボリューム増やしてます。ユルシテ……。

扉を開けたその先、そこはカーテンで全ての光を遮られた空間があった。そしてその中央にある椅子に座っている一人の女性。

「意外と早かったわね。詩織」

「歌煉さんこそ、朝からここでこうして待っているつもりだったんですか?」

「当然じゃない。私はこの学校に来たって、勉強をしなくていい。部活だってしていない。政治委員のように生徒を導かなくてもいい。やることといえば、学校の現状を頭の固い大人たちに教えることだけ……だった。それも三日前から外されたわ」

 まぁ、あと三日しか学校にいることができない人間に、ぎりぎりまで責務を任せることはしないのよ。

 悟ったように語る歌煉さんの表情は、暗くてよくわからない。でも、声色が笑っていた。何か、嬉々としてこの瞬間を待っていたかのような感じです。

 何故喜んでいるのかは分かりませんが、そういう場面はこれまでにも多く目にしてきたので置いておきましょう。彼女は何か、普通とは外れています。

「そんなことより、詩織。私はあなたに謝らなくてはいけないわ」

「それは、何故でしょう?」

 予想外でした。私を呼び出した理由が、謝罪の用件だとは。

「心当たりがないの?」

「ええ。まったく」

「……ふふ。詩織らしいわね」

「ふむ? どういうことですか」

「実はね、私はずっと詩織を監視していたわ。私の信用する人間たちを使ってね。普段の勘が鋭い詩織なら気づくかと思ったんだけど、たまに抜けているわよね」

「監視……」

 そういう類のものなら凄い敏感です。ですが、全く気付きませんでした。いったい誰が、私のことを監視していたというのでしょう。いえ、それはまぁ、今は気にするべきところではないでしょう。

「何故、私を監視していたのですか」

 私は、監視されるほどの問題を起こした覚えはありません。確かにニアミスだったと思った場面は、なくもありませんが。

「万里は、貴女のことを『時が操れる』といったけれど。私はあなたが能力を持っているように見えなかったのよ。いいえ、厳密にいうと今も納得はいってないわ」

「つまり、私の存在が奇妙だと?」

「奇妙。ではないわね。謂うなら、とても興味深かった。無能力者は、A組の人間にはなれないもの。絶対にね。なのに貴女はそこにいる。とても不思議だったわ」

「そうですか」

 彼女は、柔らかい微笑を浮かべる。彼女のこのような表情を見るのは初めてです。なのに何故でしょう。少しだけ懐かしく感じるのは。

「でも、それだけなら教師に連絡を入れて再検査をしてしまえば終わり。いたって対策はシンプルなのだけど。どことなくあなたに能力がないとも思えなかったの」

「だから、私の学校生活や立ち振る舞いを監視し、私そのものに脅威がないか見ていたということですか?」

「ええ、そうよ。気づいていたとしたら、不快だったろうと思って謝ろうと思ったんだけど、その必要はないようね」

 なんだか、悔しいですね。日頃は人の視線に敏感ですし、私なら気づいていると思われていたものを気づけていなかったというのは、とても悔しいです。

「ご安心を、不快ではありませんでした。気づいていなかったので。それよりも良かったです。誤解が解けて」

「そうね。私もこれですっきりしたわ」

 ふふふ。と、彼女は静かに笑う。なんだか、今日の彼女はやけに晴れやかな表情を浮かべています。

「私の用は終わりよ。あなたは授業に参加しないといけないでしょう? 行って来たら?」

「いえ、そういうわけにも行きません。私の話も聞いてくれませんか?」

 私はムードメイカーと名乗った男との会話の中で、一つだけ確かめたいことがあった。きっと歌煉さんならば“大丈夫”だ。


「私の本当の能力、知りたくないですか?」

 私の能力は歌煉さんの憶測通り、ない。しかし、それはこの世界でのお話。本の世界に入り込むことができるという脳力は、紛れもない私の能力です。

「本当の能力? ということは、あの万里の観察力でも見破れない能力ということかしら。ふふ。それはとっても興味深いけれど、万里の目を欺ける能力はないわ」

「……………………」

 おやまぁ、これは。


 ――とてもつまらない回答ですね。


 最初会ったときは、あんなにも私の能力を知りたがっていたというのに。

「――そうね。それとも、そういうことなのかしら?」

「? なにがですか?」

 先ほどの優しい微笑とは変わって、今は不敵な笑みを浮かべている。はて、なにかピンと来たのでしょうか。

「“時を止める”という過程は、能力の“一部”ということなのかしら?」

「いいえ、そんなものではありません」

 なにせ、時を操るなど関係ないのですから。それはあくまで眼鏡にある効果。私の能力ではないのですから。

「……嘘をついているようには見えないけれど。それはあり得ないわ」

「あり得る。と言ったらどうでしょう?」

「冗談はやめてくれる? 万里の能力は一切の能力を受けない。時を止める能力を彼女はしっかりと見ているし、その時、詩織だけ動けていたことも見ているのよ」

「…………すみません。すこし悪ふざけすぎました」

 私は、軽くお辞儀をする。

 もう、このくらいでよいでしょう。十分、彼女たちにある世界観をかき乱しました。一歩間違えれば本の世界を崩壊させてしまう危険行為ですが、私の知りだかったことを確かめるにはこうするしかありませんでした。

 もう、私の存在が『異端者』だと認知されているということを。しかし、今私の目には、彼女たちには見えないセキュリティで『Danjer』と表示されている。これは、蒼井さんが一番最初のハッキングでインストールしてくれるウイルスの一つで、侵入者の私にしか見えないようになっています。

 これが見えたのなら安心です。私はまだ、物語の一部として認められている。

「あなたも悪ふざけなんてお茶目なことするのね」

「ふふ、気まぐれですよ。私だって、そういう気分になったりします」

「そう。…………まぁ、私の用はこれだけだから。もう戻っていいわよ」

「ふむ……。そうですか。では、失礼します」

 なんともさっぱりした別れの告げに、私は彼女らしさを感じた。彼女は好奇心の前では狂気にも近い心の躍動を見せるが、他のことにはかなり淡白です。きっと、彼女には私は口喧嘩は勝てないでしょう。

「………………………………」

 あ、いえいえ。私はそもそも口喧嘩などという下品なことはしませんから、勝ち負け以前の問題ですね。ええ、嘘などついておりません。

「――ねぇ、詩織」

 私の手がドアノブに手をかけたと同時に、背中から声が聞こえた。それは例えるなら、まるで妹がお姉ちゃんに悪戯(いたずら)をして喜んでいるような声だと、私は感じます。

「はい、なんでしょうか」

「またいつか、会いましょう?」

「ええ、もちろんです。退院したら、またお会いしましょう」

 そう言って私は、すぐに扉を閉めた。


 ――……………………。


 何故でしょう。今の私は、喪失感に近い感情が精神に重くのしかかっています。まるで、大切な何かを失ってしまうことを分かっていながら、平静を装っているかのような。でも、私には大切なものなどありませんし、歌煉さんとの会話でそんなことを感じる覚えもありません。

「精神が、物語の雰囲気に飲み込まれているのかもしれませんね」

 宇宙飛行士がどれだけ訓練を積んでも、帰還後に感じる重力の重たさに体がついていけないのと同じで、私も平常心を保ち、強い精神力で物語の中にいても『物語そのもの』にある雰囲気やオーラには徐々に蝕まれていくわけです。

「これだけ(いびつ)な世界観ですから、毒されても仕方ありませんね。長期滞在は浅はかだったでしょうか」

 現実へと帰ったら、ヒーリングしなくてはいけませんね。

 さて、今日と明日で最後です。明後日は肝心のネックレスの紛失を阻止し、無事にまほさんの手元へ返さなくてはなりません。もしかすると、怪我をする化膿性だってあります。そうならないように、対策をしておかなければなりません。

「…………ふむ」

 といっても、シンプルです。まほさんの断罪を阻止すればいいだけの話ですから。

都合のいいことに、まほさんはこの物語ではキーキャラクター、所謂重要人物ではなく、二回ほどしか出てこない脇役の脇役。その彼女の結末がどう改変されようと、この物語は崩壊しません。【LOST BLUE】は何事もなくエンディングまでの系譜が紡がれることでしょう。ご安心ください。いくら話の舞台が同じで時系列もほぼ同じだったとしても、一つの物語はどう数えても一つです。【奏明のアカツキ】へ干渉することはありません。

「ですが、私に問題があります」

 そう、私はこの世界では実に無力なのです。無能力の上に身体能力も女子高生の平均値に合わせています。つまり、異能力を使いこなす彼女たちの争いに加わるのは不可能に近いです。こんなことなら、身体能力はオリジナルで来ればよかったです。

 それこそ、私の能力と言ってもいいでしょう。私の運動神経の良さは、人間離れしていますので。例えるならば、アニメである人間同士の戦闘シーンは、CGもワイヤーもなしで実演できる自信はあります。

「昔の私は、この体をどう思っていたのでしょう」

 私は、二十歳より前の記憶が全くありません。なので、学生時代の私がどのような生活をしていたのか分かりませんし、青春というのもどういうものなのか分かりません。もちろん知識的には認知していますが。

「私も、まほさんのように恋をし、紗江さんのようにオシャレをして、キラキラした毎日を送っていたのでしょうか」

 分かりません。そもそも、私がそういうものに興味を示すとも思えません。せいぜい、教材と見つめ合うだけの窮屈な日々を過ごすだけでしょう。

「それにしても、皆と接触できない授業時間が一番もどかしいですね」

 まぁ、私はサボっていますが。もちろん、毎回サボっていてはさすがにまずいと思いますのでたまにタブレットを開いて授業を受けてはいますが、はっきり言うと、別に大したことは言っていなくて、皆さんが学校に行って学ぶものと相違ありません。


「――詩織。こっちこっち」


 階段の下ほうから、誰かが呼んでいます。いえ、『誰か』ではなく私の大親友、紗江さんが呼んでいます。

「紗江さん、どうしたのですか。今朝別れたばかりじゃないですか」

「うっさいわね。そんなこと今はどうでもいいんだって」

 どこか人目を気にしている様子で、周囲を目線だけで確認している紗江さん。その表情は少しだけ焦っているようにも見える。

「アンタさ。最近E組の連中に話しかけられたことある?」

「いえ、郁美さん以外話したこともないでですが、E組がどうかしたのですか?」

 まさか、政治委員である彼女が、E組に話しかけられるなんてA組の恥だ。とは言わないでしょう。ですが、何でしょうか。この違和感は。

「――最近さ、C組の連中が黒いパーカーを来た集団に暴行されるってゆーことがチラホラあってね。その話しをE組の奴らが面白おかしく話してたっていうのよ」

「ふむ。それは不思議ですね」 

「そうね。今までやられっぱなしだったのに、いきなり反抗だなんて」


 ――ああ、違和感の正体は、こっちでしたか。


「いいえ。なぜ無能力のE組が科学因子を駆使するC組に対し対抗できているのか、ですよ」

「ああ、ごめん。そっちね」

 そういって、またも周囲を視線だけで見渡す彼女に、私は呆れた。

「……………………不愉快ですね。あなた、だれですか?」

「え、なにいってんの? 密島紗江よ。見ればわかるでしょ?」

「おやおや、変装の出来も悪ければ往生際も悪いのですね」

「はぁ!? あんたなにいってんの?」

「やれやれ」

 私はゆっくりと間合いを詰める。敵意を殺し、私の空間に誘惑するような足取りで。

「私の友人の顔を汚さないでくれますか?」

 手をピースの形にして、相手の目に指を突き付ける。

「ぎゃっ!」

「おや、おかしいですね。紗江さんともあろう方が、こんな技も回避できないとは」 

 目を押さえながら廊下に蹲る彼女の体からは、白い煙が上がっている。徐々に紗江さんにそっくりだった見た目から、本当の姿が露わになっていく。

「なんの悪戯ですか?」

「っ!」

 彼女は、私に顔を見られないように手で押さえながら全力で逃げる。

「…………ふむ」

 今の私で追いかけても、身体能力を一般人レベルにあわせてこの物語に来ているので追いつけないでしょう。深追いはしません。

「さて、授業に戻りますか」

 タブレットさえあれば、電波が届くところならばどこでも授業に参加できるのですが、出席数は教室にあるタッチパネルに授業開始ごとにチェックをつけなければカウントされないので、まぁ言ってみれば欠席扱いで授業を受けているようなものでしょうか。なので、みんな律義に学校に登校して、教室で授業を受けるのです。

「たまに思いますが、この学校、誰かに監視されているように感じます」



 私はそれから放課後に至るまで、何もなく普通の学校生活を演じた。

 そして、放課後。私は屋上の前にいた。今日一日ここにいるのか疑問なところですが、もしいるのだとしたら放っておけません。私は誰もいないことを願いながら、扉をゆっくりと開く。

「誰かいますか?」

 万が一、まほさんではない他の誰かがいた場合を考慮して名前を伏せる。まほさんは、今誰かに見られるとまずい。

「誰も、いないようですね」

 一応、まほさんの家にでも向かってみましょう。彼女の連絡先は知りませんが、家の場所は知っています。彼女の家ならば、誰に見つかるという心配もありません。

「あら、しおりさんじゃない」

「おや、ルティアさん。いたんですか」

「ええ。私、放課後のここから見える景色が好きなの」

「ふむ。なるほど」 

 ただの夕暮れ。特別見晴らしがよくて、景観がいいわけではない。なのにここが好きとは変わっています。

「ねぇ。貴女って、本当不思議よね」

「む? 何故そう思ったのですか?」

「不思議よ。まるで夢の中にオモチャを持ってきたアリスみたいだわ」

「…………そうですか」

 彼女と話すのは、少しだけ疲れます。言っていることがメルヘンすぎて、解読不能なときが多々あるからです。

「あの人見知りなまほが、すぐ貴女に懐いたのも、きっとそうだからなんでしょうね。魔女は魔女を好むもの」

 類は友を呼ぶ。とでも言いたいのでしょう。それを魔女と例えたり、あえて難読な言い方に変えてくる。そう、彼女は厨二病というやつです。

「そして魔女は、不老不死の吸血鬼をひどく嫌うわ」

 なにか、語りだしてしまいました。困りましたね。

「でも、ここの人は魔女も嫌う魔法使いと農民の集い。魔女も恨まれる対象」

 ああ、もう何を言っているのか分かりません。

 いえ、文にしてくれれば私も解読しつつゆっくりと読むのですが、声として伝えられると脳が理解する前に話が進んでいくので、思考が考えることを放棄します。

「だから私、しおりさんを讃えることにしたの。まほの唯一無二の友人として、一握りの魔女になれて」

「…………」

 そういえば今朝、郁美さんにも【魔女のポルカ】が私の存在に似ていると言ってきましたね。そんなに私は、リンゴを片手に美女を(そそのか)しそうな見た目をしているでしょうか。 

6月の賞にも向けて更新頑張るので、これからも応援よろしくお願いします。

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