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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
16/32

私としましては、訪問することは嫌いではありません。

歌煉が入院するまであと二日と迫った日、まほと歌煉に別々の場所に呼び出される。詩織はまずまほの話を聞きにいくが、そこできいたものとは。

私は、内心驚いた。いえ、まほさんの根性に敬意に近いものを覚えた、と言うべきでしょうか。確かに私にはアブノーマル状態がいかなるものか分かりませんが、学校に来れるような状態まで回復しているとは到底思えません。

「……今すぐ行きましょう」

 教室を通過し、私はあえて屋上までの道のりとは少し外れた場所を選ぶ。まぁ、なんといいますか。念のため、尾行が居ないことの確認です。

「――詩織さん」

「…………郁美さん」

 まさか、呼び止められるとは思いませんでした。しかし、これでわかりました。後ろを向いたとき、郁美さん以外の人間は私のことなど気にも留めていない。尾行は考えすぎでしたか。いくら視線をうまくごまかせても、尾行している人間から放たれる独特の緊張感はわかります。見たところそれはない。安心しました。

「何か用でしょうか?」

「詩織さんにぴったりの歌があるの。聞いてくれる?」


 ――歌? 何を唐突に言っているのでしょう。


「すみませんが、私今から用事が……」

「一分くらいで終わるからさ、お願い!」

 郁美さんのクラスの授業も始まるでしょうに、何をここまで食い下がってまで聞かせたいのか分かりません。ですが、とにかく彼女は私に歌を聴かせたいようです。仕方ありません、このようなところで時間を潰すわけにはいきませんから。

「仕方ありませんね。少しだけですよ」

「やった! じゃあ、さっそく歌うね?」

 彼女は、すぅっと息を深く吸い込む。そして静かに祈るように、それでいて楽しく踊るように歌いだした。


「シミだらけの貴女に捧げるわ。此れは魔法、決して消えない魔法。喩え、私の全てが呪われても構わない。だからアナタだけは、壊れないで永遠に。そう祈り、魔法を唱えた。私はこの歌と共にきっと死ぬ。……厭、死ななければならない。ポルカ、ポルカ、魔女のポルカで私と踊りましょう。そして……えへへ、この続きはまだ内緒だよ。祈りましょう。だって此れは魔法、決して消えない魔法なの。喩え、私の全てが呪われても止めないわ。みんなは私に言う、『生きてほしい』と。でも、それでは楽しくないじゃない。だって私はあの子で、あの子は私。そうじゃないと、私は溶けて消えてしまいそう。そう、あの時の真っ赤なリンゴのように。嗚呼。ポルカ、ポルカ、魔女のポルカで私と踊りましょう。…………どう? 詩織さんにぴったりでしょ?」


「……………………」

 何故でしょう。うまく言葉にできませんが、不愉快です。普段、感情的にならないのですが、この歌を聞いた途端に、私はなにか焦りにも似た苛立ちを感じた。

「どうしたの? そんなに渋い顔して。……あっ。歌って言うから、何かの曲だと思った? ごめんごめん」

「いえ、誤らないでください。それにしても、なぜこの詩が私にぴったりだと思ったのですか?」

「これね、不死身の魔女と契約した少女のお話なんだけどさ。その子がね、死ぬ前に見た夢を言葉にしたらしいんだけど、その子はずっと孤独を抱えたような切ない気持ちを持ってたんだってさ。周りにはたくさんの友達がいたのに」

「……はぁ?」

「あれ、自覚ないの? 詩織さん、いつも寂しそうな表情してるよ」

「ああ、それは……よく言われますね」

 当たり前でしょう。『寂しい』かどうかは置いておいて、皆との関係にたいして希薄なのは、当然と言えます。なぜなら、彼ら彼女らとは本の中でしか会えません。その上、私が任務を終えて本を閉ざせば私の痕跡はすべて抹消されます。だから、私が彼ら彼女らとの関係に固執する理由はないのです。それに、万が一のとき『友達だから』という理由で同情をしてしまえば、仕事に影響が出てしまいますので。

「あ、引き留めてごめんね。なにか用事があるんでしょ?」

「……授業をサボっていることには何も思わないのですか」

「いやだなぁ。私みたいな人間が、A組のあなたに文句言えるわけないじゃん」

「………………そうですか。それでは失礼します」

 私は、彼女をニックネームで呼んでいない。それはつまり、彼女の味方ではないということになる。しかし、彼女にはこう伝えている。


 ――私は、貴女の味方でも敵でもない。“普通”の関係です。と


 遠回しに、興味がないと伝えた。しかし、彼女はそれでも喜んだ。虐められないだけ、彼女には良いのでしょう。話があるときは、いつも郁美さんから近寄ってくる。

 ですが、先ほどのように深入りはしてこない。なぜなら、私はA組の人間。それだけで彼女の中ではご機嫌を窺わなければならない存在ですから。私は敵でもないが味方でもない。それは逆に彼女の中では、『敵になるかもしれない存在』なのです。


「…………さて、やっと着きましたね。屋上」

 私はそっと扉を開ける。そして、警戒も敵意も、好奇心も。刺激となる読み取られやすい感情は全て消す。誤解をされてしまうと面倒くさいですからね。

「あの、まほさん。いるんですか? 東郷万里さんからの伝言できました」

「……詩織さんですかぁ?」

「ええ、篠崎詩織です」

 そういうと、ひょっこりと屋上小屋の壁から顔が覗いた。その仕草と表情は、元気そうに見える。

「よかったです。居ないのかと思いました」

「えへへ、すみません。ちょっと、誰かに見られちゃまずい状態なんで。ごめんなさーい」

 ええ、目の前の彼女は、いつも通り元気に見えます。いつものような声に、いつものようなテンション。まさに復帰したという雰囲気です。ただ、瞳は疲れ切ったような光のない目に、そして、髪の毛は少しぼさっとしています。まさに、カラ元気だ。

「どうしたのですか。私なんて呼び出して。恋人である歌煉さんを呼ぶものだと、私は思いますが」

「今は、歌煉さんには会えません」

 そう呟いたまほさんの体は、小さく震えている。抱えているもの全てを吐き出したい、けど言えない。勇気が出ない彼女の口は、言葉を出すことなくモゴモゴと動くだけ。

「――なにか、あったのですか?」

「……詩織さん。あなたは、私のなんとなくの予想ですけど。優しいですよね。頼み事は断らないですし」

「ふふ、突然ですね。まぁ、優しいかどうかは分かりませんが頼み事は断ったことがないですよ」

「じゃあ、頼みごとがあるんですけど、いいですか?」

「ええ。何なりと」

 私は、もう幾度と作ってきた微笑を彼女に向ける。人は、筋肉の緩和で安心や不安を感じ取ります。たとえそれが、偽りの笑みでも。


「私、アブノーマル化してしまったんです。つい最近」

「……」

 先ほどまほさんが、日頃の私を見て“優しい”という評価を付けた。それは大いに謎です。そして今も、なぜ私にアブノーマルになってしまったという告白をしてきたのかも、わかりません。優しいだけでは、信頼にはならないですから。


 ――ですが…………。


 チャンスは今しかないでしょう。

「私が推測するに、それは人為的に行われたことではないですか?」

「え、なんでわかるんですか?」

「ふふ、言ったはずですよ。私は、読心術が使えます。これは能力でもなんでもなく、私自身の能力ですから」

「ああ、そっか。そんな当てっこゲームもしましたね」

「…………宇田川兵吾ではないですか?」

 一瞬の沈黙。時に人は言葉ではなく、空間や時間にある見えない圧で会話をします。それは意外にも会話において重要で、人が心を開く瞬間でもある。

「すごいですね。犯人まで分かるなんて」

 ほら、すごいでしょう。人物まで絞り込むなど、読心術だけではできない。

 ――いえ、そもそも私、読心術など使えません。


 人の仕草や声質でその時の感情や言葉の真偽は分かっても、それ以外のことは分かりません。

「ださいですよね。無能力者に負かされて、挙句に実験体にされて……」

 そういって少しだけ俯き、一筋の涙がまほさんのほほを伝う。怒り、悲しみ、悔み、そして恐怖が、彼女の涙から感じます。何をされたかは、だいたい予想がつきます。

「でも、なにかおかしかったんです。誰かの指示で動いていたような感じで」

「なるほど。黒幕を見つけてほしいということですね?」

「はい。私が見つけてぶっ殺してやりたいくらいなんですけど、私が学校にいることがばれたら言いふらすと、宇田川が。校内でばれたら、虐めとかの粋じゃなく、殺される勢いなので……」

 なんだか、物騒な言葉が聞こえてきましたね。

 『殺される勢い』ということは、過去に誰かが殺されている又は殺されかけたということですか。この学校、ますます狂ってますね。

「いいでしょう。まほさんはここで待っていてください。決して誰にも見つからないようにしてください。……それから、今日歌煉さんと会う約束をしています。何か伝えておきましょうか?」

「身体。お大事にしてください。って伝えてください」

「はい、分かりました。じゃあ、行ってきますね」

 私はいつも通りの笑顔を作り、屋上を後にした。

「…………あれは、予想外でしたね」

 大抵が、『会いたい』だとか聞いているこっちがのぼせてしまうような惚気た言葉を吐く人が多いのですが、『お大事に』とは。それも、自分の心身も疲弊している 時に。ですがそれは、逆に言えば自己犠牲です。

「利己的な彼女も、愛している人間には甘いようですね」

 さて、そのお相手である歌煉さんのところには何時行きましょうかね。時間は指定されていなかったので、放課後までの時間ならいつでもいいということでしょう。彼女らしいです。きっと今頃、一人で旧校舎の教室で寝ていることでしょう。

「もう、ほんの数日しかここに居ませんし、授業全部サボりますか」

 私はこのまま旧校舎へと行くことを選んだ。本音を言えば、授業を聞いていても理解できません。私はそもそも、この世界にいないのですから当然といえば当然のことです。

「滞在期間が長いと、つい優先順位というものを忘れてしまいます」

 蒼井さんには内緒ですが、たまに遊んだりしてしまいます。

「この世界では、たまたま見つけた小さなケーキ屋に行きましたが、若い女の子がたった一人でパティシエと接客をしていて、あれは驚きました」

 蒼井さんのカフェでもパティシエが三人います。カフェなので一度のオーダーの多さに違いはあるでしょう。それでも、たった一人で全てをまかなうことは容易ではありません。そしてなにより、その女の子は心からの笑顔で一人一人と向き合っていました。パティシエとしている自分が誇りで、パティシエとしていられることが楽しいというのが、話さなくてもわかるほどに。


 ――嫌々働かされているうちのメンバーとは大違いです。


「っと。そんなことを言っている間に、つきましたね旧校舎」

 きっと、待っている教室は初めて会った場所でしょう。彼女は特定の場所を好む。一種の愛着でしょうか。いいえ、違いますね。単純に『決まった場所』が好きなのでしょう。

「歌煉さん。いますか?」

皆さん。いかがお過ごしでしょうか。私は『ストレス発散をどこでどんな形でするか』そればかりを考えています。

あ、あと四回投稿で、【LOST BLUE】編は終わるかと予想しています。

それから、約束通りpixiv垢を開設しました。『綾峰はる人』と検索してくれれば出てくるかと思います。更新ペースは、決めてないのでゆっくりです。


それから、私事ですがYouTubeでゲーム実況も始めたので、気になる方は一声ください。


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