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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
LOST BLUE
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私としましては、どうでもいいことです。

ここまで読んでくれた方の中で、まだ名前だけ出てきて登場してないキャラいるけど。って思ってる方がいるかもしれませんね。安心してください。後々みんな出します。

ですが、それならば何故、まほさんはこの物語の人間として私に会いに来たのでしょう。


「…………」

 一つの可能性を、私は思い至る。

ですが、今私が思い描いている結末が正解なのだとすれば、残酷ですね。

「……まぁ、私の依頼はイヤリングの紛失を阻止すること。そしてそれは、宇田川という男の計画を阻止すればいいだけの事。とっても簡単です」

 さて、そろそろ歌煉さんの所へ戻りますか。もう調べる必要はありませんから。まほさんが一人待つ部屋をそっと出て、私は歌煉さんと万里さんの居る教室へと戻る。

「…………お待たせいたしました。お話の続きを、いたしましょう」

 私は、ゆっくりと眼鏡を外す。そして、瞬きを三回。それを合図に、止まっていた世界が徐々に動き出す。教室の埃っぽい匂い、窓から差す日の温もり、髪がそよ風で揺れる。

「――まほのことをそんなに気にかけて、貴女はまほの何なのかしら?」

 時が動き出した途端に、優しいような冷たいような笑みと共に聞いてきた。そこには、嫉妬や警戒心はない。むしろ、楽しんでいるようにも見える。

「何故でしょう。彼女には“悪霊”が付いている気がしたのです」

「ふーん? ……悪霊ね。それじゃあ、私から貴女への質問もしていいかしら?」

「ええ。なんなりと」

 その瞬間彼女の顔が、恍惚そうで、猟奇的で、妖艶な笑みへと変わった。発情した蛇。とでも比喩すれば伝わりやすいでしょうか。








「――あなたの能力はなんなのかしら?」








「………………………………………………」

 私は屋上に一人、立ち尽くしていた。歌煉さんからの質問に、情けないことに私は答えられなかった。それとなく誤魔化しましたが、きっと上手く行っていないでしょう。なにせ、相手が相手です。

「…………なぜ、私は彼女の事を恐れているのでしょう」

「――なにを怖がってんですか?」

 突如として聞こえた声。気配はなかった。それはもう、全くと言っていい程に。でも、驚きはしません。既に、私はここの生徒達を普通の人間として見ていない。異能の力を持っている様な世界観の人間たちならば、気配を殺すことなど呼吸をする様にできてしまうでしょうから。

「まほさん。……いえ、なんでもありません」

「えー? ほんとうですかねぇ? 怪しいですけどー。……っていうかあの後、私に何の報告もせずに帰っていっちゃってさー。歌煉さんが声かけてくれなかったら、私ずっとあの教室で待ちぼうけ喰らってたんですからねーっ!」

「ああ、すみません。うっかり忘れていました」

 確かに『終わったらお知らせします』と、そんな約束をしたような気がします。いまさら思い出しました。

「うっかりじゃないですよ。ほんとにー。……で? 歌煉さんとなんの話をしてきたんですか?」

「おや? 歌煉さんからは、何も聞いてないのですか?」

「貴女に、『時を操る』能力があるということは教えてもらいました」

「………………………………………………………………」

 私は今、とても驚いています。表情こそ、何も変わっていないでしょう。ですが、背筋の毛は逆立ち、心臓の鼓動は早鐘を打ち、喉も急速に渇きを訴えてきた。

 時を止める。それは確かにできます。でもそれは、眼鏡の形をした道具の効果で『私』の能力ではありませんが。でも、今問題なのはそこではない。

 私が、歌煉さんと万里さんの前で使った効果は、私以外の万物の全てを停止させるもの。その間は、誰の記憶にも残りません。そもそも、効果発動中は私以外の意思は死に、脳神経よりも前のもの、視神経、聴神経、嗅神経、痛神経、ありとあらゆるものが停止します。だから、私が時を操る姿は誰も知らないはず。

それだというのに、まるで見たかのように鋭い推理ですね。


――……………いえ、まさか。


もしかして、東郷万里の仕業でしょうか。

歌煉さんは確かに明言しました。私へ気になることがあるけれど、それを確かめる術を自分では持ってないから万里さんを連れてきた、と。そして、歌煉さんが私に聞いてきた質問はたったの一つ。『あなたの能力はなに?』というもの。ただ、私はそれを答えていません。何故なら、私自身に能力などありはしませんから。もしかすると、万里さんの能力は『能力の可視化』とかでしょうか。それだとすれば、私の眼鏡に万里さんの能力が反応して、眼鏡の持つ能力を私の能力だと勘違いしたということで辻褄が合いますね。

「――ちょっと、黙ってないで教えてくださいよ。どんな話をしてきたのかー!」

 ぷっくりと膨らんだ頬。腕をピンと下方向に力ませ、手首をきゅっと曲げている立ち姿は、とても一つ下には見えない。もっと子供じみています。

「歌煉さんとあなたの恋事情を深くまで聞きましたよ」

「えっ!? やだやだ、えっ。まじですかっ!?」

「安心してください。なんとなくは知っていましたから、貴女が同性愛者だということは」

 最初は分かりませんでした。同姓の先輩からの贈り物を大切にしている可愛い後輩。そんな健気なものだと思っていたのですが。まさか、私の嫌いな恋愛事情でした。でもまぁ、この世界では甘酸っぱい恋模様という雰囲気は一切無いようです。それなら、私も大して嫌とも思いません。私は恋愛もの特有の桃色の(もや)がかかった世界観が大嫌いですから。

「なーんだ、知ってたんですね。知った人の大体は気持ち悪がって避けるのに、詩織さん優しいなー」

「いえ、そんなことないですよ。私は、恋愛観が薄すぎてリアクションがないだけです」

「あー…………、確かに詩織さんって無機質な感じしますしねー」

 ふむ、なるほど。これが『自分で認めていても他人に言われるとムカつく』というやつでしょうか。まほさん、既に私の事を少しだけ舐めてますね。ほっぺを抓ってあげたいです。はい、冗談ですよ。

「あとは、貴女の事を聞きました。男に狙われていると」

「あー、兵吾の事ですか。あいつは良いですよ、ほっとけば。今日も旧校舎で犬の真似させられてましたし。最近は関わってもいないですから、いつかあいつも冷めますから」

 なるほど。まぁ彼女の立場で見てみれば、こう楽観視してしまうのも分かる気がします。自分はこの学園で必要とされている人間。片や彼は無能力の下等な人間。この学園のシステムと実態を知れば、彼も無理だと察する。私でも、そう思ってしまうかもしれません。

「そんなことよりも、私は歌煉さんの身体が心配です。治らないっていうのは分かってますけど、辛いです」

 ふむ、さすがに歌煉さんの病気の事は知っているようですね。

さて、今私には二通りのエンディングがあります。一つは、イヤリングだけを守り抜く選択。もう一つは、イヤリングはもちろん、まほさん自身も助けるというもの。

 篠崎歌煉、五十嵐まほ、まほさんの親友ルティア、元凶の兵吾。この四人の情報を見て分かったのは、恐らくイヤリングを渡す日よりも前にまほさんは兵吾に捕まり、アブノーマル状態というものにされているということ。それでも、ぎりぎり正気を持ち直し元の姿に戻って歌煉さんの事を見送りイヤリングを受け取るのですが、教員が偶然その日に断罪を決行。ルティアは約目を果たすために、心を殺して遂行した。という流れでしょう。

 まほさんは、恐らくこう見えて強い心の持ち主なのでしょう。何せ、イヤリングを受け取った時は元気だったらしいので。依頼を受ける前に聞いた話では、歌煉さんが入院する病院まで付いて行き、別れる際に受け取っているようなので。そして、帰っている途中に失くしたと。


 ――おや? 何か変ですね。


 ルティアさんが断罪を決行したのは、恐らくこのとき。ならば、イヤリング喪失の犯人はすぐに分かる。ルティアさんだ。しかし、彼女は、分からないと言っていた。気を失った、とは言っていましたが。


 ――では、いったい誰が?



今回も読んでくださりありがとうございます。私事ですが、ルティアと東郷万里は昔に自己満足で書いた小説のキャラなので愛着があります。この作品でも目立っていくと思いますので、まぁ注目してやってください。

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