私としましては、チェックメイトです。
最初に謝らせてください。政治委員を、ずっと前から政府委員と書いていました。完全に私の記憶ミスです。今回からしれっと政治委員に直してますけど、こっちが正解だから問題なしです。
それよりも、東郷万里さんが『聖人』と呼ばれるようになったのには、歌煉さんの力もあったのですね。ということは、二人は常に一緒だったという事ですか。まほさんがこの事実を知ったら、とても面白い……いえ、大変なことになりますね。
いえいえ、私は密告などという無粋なことはしませんよ。ばれたら修羅場でしょうねという妄想だけで留めておくことにします。
「さて、まほさんのデータも見に行くことにしましょうか」
歌煉さんが私に隠していたのは、恐らくまほさんの持っている『能力』でしょう。それが恐らく、何かに対して不都合があった。
そしてもう一点。歌煉さんはイヤリング消失の犯人と面識はなく、犯行現場も見ていない。もし面識があったり、犯行現場を見ていたりしているのならば、その一連の流れがデータに書かれているはず。それが一切なかった。つまりは、まほさんにイヤリングを渡した後に犯行が行われたということになる。
「――ふて寝をしているところすみません。少しだけ見させていただきますね」
私は、そっとまほさんのファイルを開く。
【五十嵐 まほ(いがらし まほ)】
政治委員の中では、妹的な存在として愛されているが、相談事を解決するのが苦手な為に生産者の人間からはあまり支持が高くない。最初はそれでもなんとか生産者の悩みを解決しようと努力していたが、今では諦めてしまっている。その一方で、彼女が政府委員に選抜された決め手となった能力はとても優秀であった為、政府委員の仕事でもサポート面で中々の活躍を見せる。
しかし、その能力をよく思わない人間も……。その人物によって、まほはアブノーマル状態にされてしまう。なんとかノーマル状態に戻るが、極度の変化による精神崩壊を起こしてしまう。この日は不幸なことに、歌煉が病院へ行く日だった。その件が原因で、まほの親友であったルティアの手で能力を剥奪。無能力となったまほは政府委員から除名され、クラスもAからDクラスへと変更された。
能力について
まほの能力は『単純な直感』。一見にして無能力にも等しいが、自然とまほはそれをうまく使いこなしていた。時には簡単な未来予知までしてみせるほどだった。そして、能力は地味でも能力枠的には“知識因子”という最高位の部類にも当てはまったため、かなり扱いの難しい能力として登録された。
「……………………………………」
これで、本文は終了していた。
――……これだけなのでしょうか?
あまりにもあっけない。あろうことか、犯人の名前が書かれていません。たしかに初耳な情報も気になる言葉もありましたが、肝心の男の名前が書かれていませんね。
「……おや? よく見ればスクロール表示が小さいですね」
文は終わっている。だと言うのに、やたらと改行が繰り返され入力されている。ダメで元々です。とりあえず下まで動かしていきましょう。
すごい勢いで上へ流れていく改行マーク達。それを体感的に3分、眺めつづけた。
そして、一番下まで来たのですが
「今回は不用心にフォルダにも入っていないURLですか」
――いえ、それは少し違いますね。
URLということは、まほさんのフォルダから違うものへアクセスするという事です。前回の物語の時もそうでした。『湯賀レイ』という作者は、設定資料にも複雑なギミックを仕掛けていた。蒼木さんが最後までハッキング出来なかったファイルもその一つです。
「この先には、いったい何があるのでしょうか」
私は、ゆっくりとそのファイルを開く。そこに書かれていた内容に、私は驚きを隠せなかった。
本編である『奏明のアカツキ』では突如の精神崩壊として扱われているが、その真実には宇田川 兵吾という狂愛者の存在があった。
【宇田川 兵吾】 彼とまほは中学からの知り合いで、当時は保健委員の委員長と副委員長としてよく顔を合わせていた。その過程で兵吾はまほに好意を抱くが、結果は振られる形となる。そもそも興味が一つとしてなかったまほは、告白を断ったあとも変わらない態度で話し続けた。それが逆に、彼の恋心が冷めることなく心に留まってしまった。そして、純粋な気持ちが徐々に歪んでいく。『彼女と付き合いたい』ではなく、『何としてでも、彼女を自分のモノにしたい』次第にそう思うようになってしまった。
そんな中で、まほの進学先がここ石神学園だと知る。勉学ではない、人間の生まれ持つ潜在能力で優劣を決める特殊な学校。そこにまほが進学する気でいると知って、彼は一早くに調べた。あらゆる研究分野、学問を。そして、石神学園の校風を。
結果は、見事合格、ただクラスは最低。無能力の人間だけが収集されるE組だった。『入学したいという気持ちが強く伝わったから合格』ただそれだけの存在達。能力持ちだが、厳しい選考を掻い潜って合格したB組やC組の人間からすれば、『無能力のくせに楽をして入ってきた奴ら』でしかないE組の人間たちは、虐めに遭いやすい。その上に、彼はあろうことか政治委員の五十嵐まほに恋をしている。当然、周囲は蔑んだ。
彼の心が、さらに歪む。そして、追い打ちをかけるように知らされた、まほと歌煉という謎の女の関係。彼の精神は崩壊。能力持ちならば、アブノーマル状態になるが、彼は違う。知性を保ったままイカレ狂った。
彼は調べに調べた。この不思議な能力の動力源、そして核となる要素。そして知る。アブノーマル状態になった後の人間への副作用。
これなら、彼女を自分だけのモノにできると、確信した。もちろん、そこにまほの意思など尊重されてはいない。ただ、己の欲望のままに彼は動いたのだった。
その末路は、断罪班ルティアの手により追放。後に自殺している。
【ルティア=ティア=アンティーク】 管轄者からの命令で、D組の一員として学校に潜入する組織『断罪班』そのリーダーを務める彼女は能力者とも、無能力者とも距離を置き、全てを平等で眺めていた。役目を果たさなければならない時のために交友関係を嫌っていたからだ。だが、ふとした瞬間に心の寂しさが勝ってしまったのだ。まほの能力ならば、まずアブノーマル状態にはならないだろうと。まさか、その一回の浅はかな考えで出来た唯一の友人を、断罪しなければならないとは知らずに。
彼女は笑みを作りながら泣いた。友人を劣悪なクラスへと送り込むのは、思っていた数倍も苦痛だった。まほとルティアの仲の良さを知っていた万里からは、なんども励ましを貰った。歌煉は、複雑な顔をしたが、彼女の役割を知っていたため『仕方がないことよ』といって終わらせた。しかし、ルティアは立ち直れず帰還することに。後任は副リーダーに任せた。
「――これは、なんということでしょう」
最初から、恋愛をテーマにしている割にはいろいろマッチングしない設定や雰囲気があると思っていたのですが。『奏明のアカツキ』という物語の番外編だったのですね。それは、納得です。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございます。実は、詩織さんのイラストを作成中です。
近々(時期未定)そっちのほうも投稿しようかと思っておりますので、乞うご期待!!