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「あっ、穂波様!丁度良かった、穂波様宛にお荷物が届いております」
5月も頭に入りすっかりと新緑の季節がやって来た頃、世間ではGWを迎え私も高校生になって迎える初めての長期休暇に入っていた。
勿論だが家に帰る訳にもいかないので私は学園に残り、図書館の本の読破を目指して部屋と図書館の往復を繰り返す日々を中々に満喫中だ。
そうして今日も本の世界をたっぷり楽しんでから夕日の差し込む寮へと戻ると、1F受付のコンシェルジュさんに声を掛けられ引き留められた。
「え…宛先間違えとか、じゃないですよね?」
「はい、129号室の穂波様へと承っておりますよ」
想像以上に大きなダンボールが出てきたが手伝いを断り、見た目よりも軽いが随分と大きなその箱をやっとの思いで部屋へと運びこんだ。
一息吐いて考えてみるけれど差出人に全く心当たりが無い。
宛名書きも無しという事は直接下の受付に預けたという事かもしれない。
もっと詳しく聞いておけば良かったかな
ええい侭よとばかりにベリベリとガムテープを剥がし、豪快に箱を開けると中からはふわふわ、キラキラ、フリフリ、の濁流が溢れてきた。
「な、何これ…」
柔らかく輝く布が重ねられた繊細な作りの高そうなチュールのドレスに淡い色合いが可愛らしいスカート、肌触りがしっとりとした上品なブラウス、リボン使いが素敵な年頃の娘さんの好きそうな可愛らしいワンピースとまるでおとぎ話のお嬢様のような可愛いレースのケープまである。
その他にも一体何着出てくるんだという服の海を掻き分けると下の方から今度はパンプスにブーツなどの靴やアクセサリー等の小物が出てくる。
しかもどれもこれもが疎い私でも聞いた事のあるハイブランドのタグや箱に入っている、一体誰がこんな物を―――
その後も幾つかの細々としたものを取り出すとやっとダンボールの一番底に到達し、最後に封筒のようなものが手に触れたのに気付いた。
『深雪さんへ
こんにちは、突然のお手紙とお荷物で驚かせてしまったかしら。
秀政の母の美沙子です。
そろそろ夏になる頃なのでもう準備されているとは思いますが私の方からもお洋服を贈らせて頂きました、不愉快だったごめんなさいね。
お勉強も大切な事ですが良かったら今度花絵さんと一緒に本家に顔を見せに来て下さいな。
美沙子』
上品な文字で綴られたお手紙を読んで、私は思わず惚けてしまった。
「そっか、これ夏服、あぁ…そっか、準備か……」
母からは何の音沙汰も無い、手元の衣服は穂波の祖父母の所にいた時のものが数着あるだけだ。
買い出しに行く為には山奥にある学園から駅まで一時間以上歩かねばならない。言われてみれば正直今とても助かる荷物だった。
休みだというのに学園から出ないせいで制服と五辻の方が用意してくれたらしい着心地の良い部屋着で事が足りてしまっていた私の頭にも夏服が必要になるなんて考えはすっかり無かった。
でもこれを勝手に受け取るのは母の逆鱗に触れてしまうであろう。
数秒の躊躇いの後、母への発信ボタンを押すとプルルル…と数秒コール音がして応答があった。
『…何の用』
「突然ごめんなさい、あの、五辻のお義祖母様からお荷物が届いて…えっと、中身は服とかだったんですが、勝手に受け取っていいか分からなくて……ごめんなさい」
はぁ〜〜、とおおきな溜息が電話先から漏れ聞こえる。
『何で勝手に開けたの?開けちゃったら送り返せないじゃない、本当に鈍臭い子ね』
「宛名が無くて分からないから何か入っていればと思って、本当にごめんなさい」
『もういいわ、お礼の電話は私がしておくからあんたは何もしないで頂戴。全く唯でさえ肩身が狭いんだから大人しくしておいてよね、コブ付きで引き取って貰えるなんて奇跡なんだから』
じゃあね、と、言い残されてぶつりと電話は切られた。
母はやはりいつも通りだ、でもこれで夏服のことは心配しなくて済むようだ。
「あっ、どうしよう顔だしてって書いてあったこと伝えてない」
慌てて掛け直すが電話は無機質な音声で電源が切られている、と告げてくる。
どうしよう、どうしよう、と迷った末、私は義父である秀政へのメッセージ画面を呼び出すことにした。
前話の6話までを少し手直ししました。
ニュアンス等が変わっている箇所がありますが話の筋はほとんど変わっておりません、暇な時に少し読み返してみると面白いかもです。