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「はぁ…」


翳り始めた西陽に差されながら眺めるのは書類の山でも溢れるように届くディスプレイのメールでもなく、余り使う事の無い私用のスマートフォン携帯の画面だ。


開かれたままのメッセージアプリの画面には何処ぞの企業とコラボしたらしい無料スタンプが可愛らしく踊っている。



何故無料スタンプなんだ?小遣いが足りていないのだろうか、来月分は増やすべきかもしれない。


「……社長、そろそろ仕事に戻られて下さい。画面と睨めっこ始めてもう10分経ちました」


痺れを切らしたように秘書の大山が声を掛けてきた。

共に差し出されたコーヒーを1口飲んでから頭を振ってスマホを置いた。


「いつもは休憩を取れと煩いくせに何だ」

「いつもはいつも、今は今です。それにこの状態は休憩になっておりません、私の申し上げております休憩は脳を休ませる事です」

「手厳しいな」

「一体何を悩んでらっしゃるんですか、どうせまた深雪さんの事だとは思いますが…」

「またとはなんだ、…まぁいいこれだ」


そういって消したばかりのスマホを渡してやれば澄ました大山の顔がみるみる間に顰められた。



「なんですかこの業務連絡よりも酷い内容は!今時企業の自動返信だってこんな酷い履歴じゃないですよ」

「…煩い」

「深雪さんは今年16歳でしたよね、もう少し砕けて話されたら如何ですか?ましてや社長は義理の父親、彼女からしたら気不味くてしょうがないですよ。それに何ですか小遣いを振込って、そういうものは普通手渡しですよ週末戻られた時にでも渡したら良いじゃありませんか」


長々と説教をする大山の声に辟易しつつ返されたスマホの画面を見遣る。

そんなに不味い内容だったか…?


「そうしたいのは山々だが彼女は戻ってこない、アレが何か言ったようだ」

「アレって…貴方の奥様でしょう、もう少し何か無いんですか」

「腹の中身に心当たりがなければこうはなっていなかった」

「そういう割には深雪さんにはご執心のようですが、もしや深雪さんの事を―――」

「大山、お前の下世話な想像のような類ではない。だだ少し、な」





自分でも不思議に思う、なぜあの時あんな事を言ったのか。



慌ただしく挙式を済ませて面倒事が終わったと一息ついていたその時、久世に言われて初めて妻になる女に娘がいた事を思い出した。


穂波の方は折をみて何処かに養子に出しますと言っていたが、興味が湧いて顔をみてやろうと思ったのが今思えば分かれ道だった。

あの子は実子にも関わらず結婚に瑕疵を付ける訳にはいかないからと参列もせず、新婦控え室の端であろうことかコンビニ弁当を食べていた。五辻の結婚式をするような高級ホテルで、だ。

私の顔を見ても母は此方には戻っておりません。と自分を見に来たとは露ほども思っていない態度で返すとさっさと食事を済ませ部屋の片付けなんかを始めた。


正直、使用人の間違いじゃないのかと誰かに問い質したかった。


15の娘がする表情ではない。

穂波の家の孫で五辻に嫁ぐ女の娘がされる扱いではない。

自分が少しでも良い暮らしを出来るかもしれない可能性を握る私の前で言わなくてはいけないのは母親の行方の話ではない筈だ!


媚を売ってくれば温情で引き取ってやろう。などと舐めた考えをせせら笑われたような、自分の醜さを突き付けられたような苦い感情が広がった。

それと同時にこの全てを諦め切った顔をして心底つまらないオペラでも観劇している様な目をしたこの子を、自分でも分からないがなんとかしたいとおもった。



結局その感情に任せて引き取ると明言してしまった。


父母はなにやら言っていたようだが本家の使用人頭から可愛らしい娘さんですから内心色々して差し上げたくてしょうがないようですよ。と耳打ちされたので大丈夫であろう。

引き取るという自分の言葉に恥じぬよう彼女を幸せにしてやろう、あんな扱いを受けないように守ってやろう。

私の庇護下に入れたからには二度とあんな顔はさせない。





そうは思うのだが年頃の娘への接し方なんて分かる筈も無かった。

毎回メッセージを送るにも数分悩んだ挙句、結局毎回同じ文書。大山には業務連絡とまで言われるざまだ、そのうち大山には娘への正しい接し方のHowTo本でも買いに行かせるべきか……

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