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昼間の慣れない事務仕事の疲れでぐったりとした体をふかふかのソファに投げ出しながらしょうもないバラエティ番組を垂れ流しにしつつ天井を見上げていた。


送って貰ったあとはなんとも言えない気持ちで部屋に戻った。

着替えて食堂室に行く気にもなれないので香重さんの作り置きを適当に摘んで食事をし、一晩外泊したせいか機嫌の悪いカヌレのご機嫌を取り、入浴を終えて今日の復習をして、と、まぁそこそこやる事をこなしてしまったら直ぐに手持ち無沙汰になってしまった。

そうなると昼間のことをもう一度考え直さないといけない。



なんだ、あの先輩の悲痛そうな追い詰められたような顔は。

なにが、突然後継者になるかもしれないから身の振り方を考えろだ。

まるで私が悪いみたいじゃないか!


心底心外である。嫌々ながらも五辻の人間だし面倒を見なくてはいけない、みたいなそんな言い方をしなくていいじゃないか。

それは確かに私だって至らないところもあるし、五辻の一員として認められているからには恥じないだけの人間にならなくてはとは、それは、多少なりとも思ってはいる。


しかし母はきっと私がそうやって出しゃばるのを望んでいない。

むしろそんな事をすれば、可及的速やかに穂波のあの冷えきった離れに送り返されてしまうだろう。

あそこには帰りたくない、あんな暗くて辛くて苦しい場所にはもう二度と―――




そんな時高い電子音が部屋に鳴り響き、慌ててスマホを手に取った。

ディスプレイには父の名前、一体なんだろうなと電話に出るといつも通りの落ち着いた声が聞こえてきた。


『もしもし、深雪今大丈夫かな?』


「はい大丈夫です」

『先程、送迎の話を芳樹から聞いた。今まで気付いてやれなくて済まなかった、危ない思いはしなかったか?』

「あぁ…大丈夫ですお父さん、むしろお手数お掛けしてごめんなさい。久世先輩も心配性なんですよ、私なんかがそんな危ない思いするわけないのに」

『深雪……そうだ、君にもちゃんと説明をするべきだったんだな。これも私の落ち度だ』

「えっ、何の、…話ですか?」

『芳樹の話は概ね正しい。むしろ、実際はもう少し危険性は高いかもしれない』


「そんな、だって私は連れ子ですよ?血が繋がって無いんですよ?」



私の返事にそれでもだ。と、困ったように告げる父の声に私はどうしていいか分からず言葉を失う。


父は困惑している私の様子を察したのか、またゆっくり食事をしながら話そう。と言いお休みと電話を切った。

私はただ、おやすみなさい。と力無く返し電話の切れたスマホを握りしめて座り込むしか出来なかった。



私の不思議な様子にカヌレが無言で擦り寄り膝の傍で座り込んだ。

穂波に居た頃よりすっかりふわふわになった毛並みを撫でながら、私はぐるぐると渦巻く感情に押し潰されそうになって胸の奥がツン、と痛むのを感じていた。


なんで。

どうして。

私なんかが。


どうしてこんなことに。





考えても考えても、その晩答えが出ることは無かった。

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