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「あれー!おはよう深雪!珍しいね送迎なんて、どしたの!?」




お爺様にお祖母様、お父様にまで勧められ出して頂いた送迎の車を降り、運転手の方に出来るだけ丁寧に頭を下げてから構内に入ると、朝練終わりなのか道着を片手に教室へ向かう途中の結唯に驚いた様子で声を掛けられた。


「おはよう結唯。昨日は本邸の方に泊めて貰ったから」

「そうだったんだー!良かった、五辻夫妻は公正な人で有名だし虐められたりとか無いとは思ってたけど、仲良さそうで安心した」

「心配してくれてありがとう、結唯は本当に優しいよね」

「やめてよ恥ずかしい〜!そういうのは桃歌とか深雪に言う言葉だよ〜!!」


ほら早く教室行こっ!と、照れ隠しのように言って笑う結唯の後を追い掛け、私も教室へと向かった。





「体育祭、楽しみだね」


今日の午後は全て«学園行事準備»となっていたので何のことだろうと思っていたのだが、どうやらこの学園にも体育祭なるものが存在していたらしい。

午後の授業の一コマ目で種目と委員決めをし、今は私の担当になった来賓受付委員会の準備を進めているところだ。



そして、何故か委員会まで一緒に行こう。と、私を迎えに来た久世先輩も同じ来賓受付委員に所属することになったらしい。これも久世家クオリティということなのだろうか…


久世先輩と会うのはあの時以来だが元気そうで良かった、久世家はあれから当主が交代になり随分とバタバタしていたみたいだったからお世話になった手前少し心配はしていた。

この間もその余波なのか、弟の久世昌輝君が突然留学の為学園を長期休学すると担任がホームルームで告げた時には本当に驚いた。




「こんなお金持ちの学園にも体育祭とか委員会ってあるんですね、驚きました」

「逆にこうでもしないと一般的な知識や経験が身につかないような人間ばかりだからね。特にこの国は国民総中流階級社会と言っても過言ではない、社会に出るにしても余りに一般と掛け離れた思想では、他の人の上には立てないって事だよ。…はい、次はこっちをお願いね」


私にも納得のいく分かり易い説明をしながらも彼の手は一向に止まらず、次から次に仕事をこなしていく。

段々と私に回される量がキャパを超えそうになってきたのでそろそろ本気でやらないと終わらなそうだ。



来賓受付といっても入校証のようなものに判子でも押すだけだろうと高を括っていたのだが、そこは流石名門お金持ち学園、どうやら招待状と名簿を照会し予め決められたお席まで一組ずつご案内するまでが仕事になるらしい。

しかも去年も同じ委員をしていた先輩曰く毎年結構な参加者がいるらしくかなり忙しいそうだ。


完全に選択をミスした気がする―――



「そのリストが終わったら次はこっちも宜しくね」


そうやって笑う久世先輩の笑顔が、どうしてだろう、鬼のように見えた1日だった。




結局日が暮れるギリギリまで校舎に居残っていた私は、どうにか全ての仕事を終らせて開放された。

一年生は私のみで、全十名いる委員の内六名は三年生で構成されている。それだけでは手が足りないので当日は教師も数名参加して対応に当たるらしい。


凝り固まった肩をグルグルと回しながら帰路を急いでいると、後ろからゆるりと追い越して行った車が、私の少し先で慌てた様子で停車する。


「ちょッ、み、深雪ちゃん!」


中から降りてきたのは先程別れたばかりの久世先輩で、どうにも顔を青くして慌てている様子だ。


「あれ、先輩お疲れ様です。何か忘れ物ですか?」

「そうじゃないよ!なんで君はまだ徒歩で通学してるの!?」

「え?」

「あー!もういいや、とりあえず乗って!」



微妙に抵抗の意思を見せる私を、押し込むように車に乗せ、運転手にとりあえず女子寮へ頼む。と声を掛け車はまた滑り出した。

彼は青白い顔で大きく溜息を吐いている。

どうやら彼にも色々と心労があるらしい、心の中でそっと合掌しておいた。

本日よりまた推敲期間に入ります。

ただ今回はちょっと仕事の方が立て込んでまして時間が掛かってしまうかもしれません、申し訳ありません。

その代わり再開した後は一時的に毎日投稿します。

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