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結局週末も寝て過ごした私は、月曜になってやっとまだ慣れない教室へと足を向けることが出来た。
この私立華房学園は都心から程よく離れた田舎に建つ所謂お金持ち学園だ。
敷地面積はドーム5個分…などと入学前にパンフレットで見たような覚えがある。
全寮制の中高一貫校で男女別の寮棟の他に図書館、食品や書店・クリーニング等の店舗が数店まとめて入った購買棟や礼拝堂まで揃っていて正直この中だけで生活出来てしまう規模だ。
それでもやはりお金持ちの子供達からは不満の声も多いらしく、人によっては休みの度に運転手を伴って買い物に行っている子も居るらしい。
まだ少し早い朝のこの時間を校舎までのんびり歩いて登校しているとちらほらと同じ寮からいらしたお嬢様方の送迎車に追い抜かれていく。
今日も皆様優雅だなぁ、なんて呑気に横目で眺めている私の前で1台の車が目の前で止まった。
「ちょっと!深雪!!貴方また徒歩で登校してるの!?ちゃんと昨日連絡頂戴ってメッセージ送ったじゃないの!」
開けられた窓の中から鋭い声を飛ばしてくる彼女は花園桃歌、同級生で入学早々に仲良くなってくれたゆるふわの長い髪が可愛い女の子だ。
「穂波様、宜しければどうぞ。お嬢様もご一緒に登校出来ると朝から楽しみにされていらしたんですよ」
顔見知りとなった彼女の専属運転手に促され、私は結局高級車へとお邪魔させて貰うことにした。
中ではむすっと拗ねた彼女が沢山のクッションに埋もれるようにして座っていた。その姿すら品良く感じてしまう。
「桃ちゃんごめんね、校舎すぐそこだし迷惑かなって思って」
「ほんっっっとに!私が深雪の事を迷惑なんて言うと思う!?いつでも一緒に行きましょうって言ってるのに…!」
顔をほんのり蒸気させて怒る彼女はとっても可愛らしくて見ている私はうんうん、とだらしない顔をして頷いてしまう。
が、何かを察した様に桃歌には聞いてるの?と睨まれてしまった。
桃歌の父はスターピーチダクション通称スタピなどと呼ばれる大手芸能プロダクションの社長さんで、桃歌は所謂社長令嬢という訳だ。
華房学園には大体三通りの人種が居る。
私のように厄介祓いで通わせられる子、彼女のように有名人の縁者でセキュリティレベルの高さから通っている子、そして……
「おはよー!!」
車から降り運転手さんに頭を下げているところに後ろから元気一杯に声をかけてくる人物、彼女も同級生でこの学校で友達になった結唯だ。
「おはよう結唯、朝から元気ねぇ」
「もっちろん!今日も朝練だったからね、深雪は体調もう平気?」
「うんもう大丈夫だよ」
そっか、よかった!と笑顔の眩しい結唯は残りの一通り、この華房学園の独自性を求めて入学してきたタイプの子だ。
結唯の特技は格闘技。
ハーフである利点の高い身長と長い手足を使った迫力満点の技さばきをVRと融合させたパフォーマンスがやりたくて日本に留学してきたらしい、1度見せてもらったが惹き込まれる素晴らしさがあった。
「深雪は重い方って言ってたもんね、しょうがないよ。それより久世先輩また深雪の部屋行ったんだって?夜の食堂で噂になってたよ」
事情を知らない結唯の言葉に歯切れ悪くうん、と返事をして苦笑いで返しそのまま三人連れ立って教室へと向かった。