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明日から一旦推敲期間です。

誤字脱字報告ありがとうございます、自分一人ですと見逃しも多いので助かります。

久々に夢を見た。


まだ穂波の家の離れに、母と二人、慎ましく暮らして居た頃の夢だった。


夕暮れ時の薄紫の空にじわりと分厚い雲が掛かり始め、遠くの方でぴかりと光って雷の鳴る音が響き始めている、そんな日だった。



暫くして、ぽつ、ぽつ、と雨が落ち始め、五分もする頃には外はバケツをひっくり返したような。という言葉が良く似合う、そんな土砂降りになってしまっていた。

母は今日も男と出掛けていて家には居ない。


お母さん、濡れてないと良いなぁ……



薄っぺらい古ぼけたカーテンに包まりながらじっと眺めていた窓から、叔母の子供達が祖母に手を引かれきゃあきゃあと、はしゃいだような声を上げながら叔母に急かされつつ本邸に入っていくのが見えてしまった。

その頭には可愛らしい玩具のティアラが乗り、お姫様ごっこでもしていたのか可愛らしいお姫様のドレスで身を飾っている。


祖母はいつも私には困ったような顔しか見せないのに、なんで。

私は使い古し、くたびれたプリントTシャツなのに、なんで。

母はがあんなふうに私を見てくれたことなんて、もうずっと、ずっと無いのに…なんで、なんでなんで、どうして。




悔しさと悲しさと憎しみと、怒り。凡そ少女と呼ばれる年頃の娘が抱くには余りにも卑しい、浅ましい感情の全てをあの時私は胸に抱いた。

どんなに母に褒められようとして家政婦すら寄り付かないこの家の家事をしようと、全てのテストで満点を取ろうと、泣きもせず喚きもせず自分の境遇に不満も漏らさず奥歯を噛み締め耐えても、そう、最初から持って生まれた者には勝てない。


それならばいっそ…



そう、拳を握り締め窓の外を睨み付けていると、ふと、叔母がこちらを振り返り見たことも無い嘲るような背筋の凍る笑みで私を見た。

雨音だけが響く空間―――

その表情のまま叔母は口を開くと一文字ずつ、区切りりながら

ゆっくりと、それでも確実に私に言葉を伝えてくる。




« ま け い ぬ の こ »





それが母を、私を、揶揄しているのは明白だった。

窓を明け裸足なのも気にせず飛び出して行く私の前で叔母は悠々と本邸の扉を締めガチャリ、と鍵を掛けた。


鍵の音を聞き雨に降られるうち、わたしの頭はさぁっと急速に冷やされていく。

そう、馬鹿みたいに反応するからきっとこうやって疲れてしまうんだ。もうやめよう。



もう、全部疲れた…




 



がばっ、と起き上がり周りを見回せば、障子から見覚えのある五辻本邸の美しい日本庭園が見えた。

なぜ本家に居るのかは分からないがとりあえず見ず知らずの場所ではないことに胸を撫で下ろし、なんだ夢か。と、霞む目元を擦る手にぽたり、雫が一粒零れて落ちる。そこからは堰を切ったように溢れ出しみるみるうちに夢で見たあの日の雨のように涙が止まらなくなってしまった。



暫く泣いて落ち着いた私は、何故ここに居るのかを聞くついでにお水を貰おうと障子を開ける。すると、すぐの廊下にお盆に乗った氷の入った冷たいお水とおしぼりが置かれているのに気付いた。

おぼんにはもう一つ、ちいさなお皿に乗った色とりどりの金平糖も添えられている。


「こんぺいとう…?」



一粒躊躇いがちに口に運ぶと、優しい甘さの中に仄かな花の香りが広がりつられて笑顔になる。

一体誰がこんな気遣いをしてくれたんだろうか?庄屋さんかな、と慌てて着替えてお礼を言う為厨房へ向かうと、そこにはまだ誰も居らず、しんと静まり返っていた。


「あれ…」




しょうがない、日が昇ってから改めてこよう。と、部屋に戻ろうとした時、厨房のさらに奥、掛けられた暖簾の隙間から明かりが漏れているのに気付き誘われるようにそこを潜った。

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