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「まぁ…」

「ええ…決まり、でしょうかね」



フィッティングルームから出た私を見て二人は納得したように頷いている。

どうやらこのドレスを気に入って頂けたようだ。


自分の気に入った服を着ると背筋がぴん、と伸びるのだと初めて知った。

綺麗な服に負けないくらい綺麗になりたい。と、そう自然に感じるのだとこのドレスは教えてくれる。




「それではこちらのドレスと化粧品一式ですね、ありがとう御座います。配送の方は本邸の方で宜しかったでしょうか?」

「お化粧品は寮のお部屋の方にお願いしても良いかしら、ドレスは本邸の方で管理しておくわね。それで良かったかしら?深雪さん」

「はい、よろしくお願いします」


いいのよ、と笑う美沙子様はとても満足そうな様子だ。

一目惚れしたあのドレスと他に試着したドレスの中から雰囲気の違うものを三枚ほど選んで頂きそれも一緒に購入するに至った。

私は一枚でいいと言ったのだが毎回同じドレスを着るわけにはいかないわ。と説得されてしまい購入するのは私自身でもないので美沙子様のご好意に甘えさせて貰うことにした。




「それでは、本日は本当にありがとう御座いました。お出口までお見送りさせて頂きますね」


終わってみればとても楽しい時間を過ごせたと心の底から思える。

最初はあんなに申し訳なさと居心地の悪さで気疲れしそうな思いだったが、あのドレスと出会い必要性も感じなかった化粧品も頑張ろうと思えているから不思議だ。


「こちらこそありがとう、次回からも是非貴方にお願いしたいわ」


美沙子様は個室から出てラウンジの端に控えている瀬川さんを目に留めながら緒方さんに声を掛けている。

そこまで狭いラウンジではないのできっと彼の耳にも届いたであろう、私は慌てて美沙子様を見るが可愛らしいウィンクで返されてしまった。


「あの、私からも本当にありがとうございました。凄く素敵なドレスにも出会えたし、お化粧も頑張ってみます!」


緒方さんにそう宣言すると、少し驚いた後に是非!と笑顔で答えずっと手に持っていたメモ用紙に何かを書き留めた後破ると私に手渡して下さった。

開いて確認すると、中には電話番号とメールアドレス、メッセージアプリのIDが書かれている。


「これは…?」

「僭越ながら私の連絡先です。一応パンフレットにも書きましたが、もし購入品のことで疑問点などがありましたら是非お気軽に連絡してください。勿論他に必要なものが出来た時や学校のことで相談かある、なんて時でもどんどん!」


そういいがら胸をとん!と叩く緒方さんがとても頼もしくてぷ、と笑ってしまいありがとうございます。と笑顔で答える。






そうして綺麗な礼をとる彼女に見送られながら車は緩やかに発進した。


「今日は私のわがままでお買い物に付き合って下さってありがとう」

「とんでもないです。私こそ凄く楽しかったですし色々気を回して頂いてしまって、美沙子様本当にありがとうございました」

「うふふ、良いのよ。それよりまた一緒にお買い物してくれるかしら?」

「はい、勿論です!」



まぁ嬉しい!と両手を合わせて微笑む美沙子様は少女のように可憐な美しさだ。

あまりの美しさに気圧されて、それじゃあもう少しお願いしてもいいかしら?と言われて思わず私に出来ることならと答えてしまう。


「私のことも秀政みたいにお祖母様って呼んでくださらない?あ、おばあちゃまでも良いわ」

「えっ、そんな、失礼じゃありませんか?」

「なーんにも失礼なことなんてないわ、だって私は貴方の祖母なのよ?」

「それじゃあ…今度から、お祖母様って呼ばせて下さい」

「えぇ!改めて宜しくね、深雪さん。あともう一つお願いがあってね、それは勿論駄目だったら良いのだけど…本邸の方にね、良ければ貴方のお部屋を作っても良いかしら?」


思わぬ提案に思わず目を丸くする。

本邸というのはこの間お邪魔したあの日本邸宅のことだろうけど、そこに…私の部屋を。


「それは、私は全く問題ないのですが、私の、部屋ですか?」


「えぇ。深雪さんお休みも秀政の所のマンションには帰ってらっしゃらないでしょ?花絵さんとのことは私が口を出すことじゃないとは思うんだけど、寮はあくまで寮であって家じゃないわ。深雪さんにもちゃんと帰れる場所がないと駄目だわ」


気が向いた時に遊びに帰ってらっしゃい。

そう笑って下さるお祖母様の言葉が本当に嬉しくて、母と仲良くないことなんかをきっと色々言いたくなるはずなのにそれには触れず私の居場所を別に作ってくださって。

寮に篭もりきりの私を諌めるでもなく遊びに帰ってらっしゃい。なんて、帰る場所なんて、その言葉か嬉しくて、じわじわと目が熱くなってくる。


「あ、…ありが、とっ…ござい、ます……っ」



勝手に溢れる涙を拭いながらどうにかお礼だけを詰まりながらも言って、一生懸命笑おうとする私の頭をお祖母様は優しく撫でてくれて…綺麗なハンカチで目元を拭って背中をとん、とん、と優しいリズムで叩かれる。


車内はお祖母様の好みなのが穏やかなクラシック音楽が流れていて、涙が引く頃には私の意識は深い眠りの海を漂うことになっていた―――

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