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「ご無沙汰しております、美沙子様。本日はお越し頂き誠にありがとうございます」



折り目正しく頭を下げる壮年の男性に、にこやかな笑顔で答える美沙子さんと隣に座り身を小さくする私。

男性は我が家の担当外商の形で瀬川さんと言うらしい。先程挨拶をしたのだが、眉を顰められた後目礼で済まされちょっと怖かった。前回お会いした桃ちゃんの家の担当だという君崎さんの時は感じなかった威圧感で、少し嫌な感じ…



「お呼び頂けましたら私の方から参りましたのに…」


そう言いながら明らかな作り笑いを浮かべている瀬川さん。

私もあの後調べて初めて知ったのだが、彼の言うように外商部というのは元々直接家に伺って商品を販売するから外商と言うらしく、こうやってお店に来るのも問題はないけれど本来余り無いことらしい。


しかも、外商部の担当さんが付くのはその百貨店さんで沢山お買い物をする所謂お得意様、というやつだそうで、家柄や職業などがしっかりした人でないとなれないVIPの証であるそうだ。



「今日は孫と遊びに行きたかったから良いのよ。たまにはお店の方にも顔を出したかったし」

「左様ですか。それで、本日は何をお探しですか?」

「この子のパーティドレスとお化粧品をお願いしたいの。あと…出来れば女性の若い方をお一人付けて頂けるかしら?貴方にお任せしても良いのだけど折角だし次の世代の長い付き合いを考えて、ね」

「畏まりました。それでは、私の部下の緒方をお付け致しますので少々お待ち下さい」





ぱたり、と閉まった扉に思わずはぁ。と張り詰めていた息が抜けた。

どうやら思っていた以上に息苦しさを感じていたようだ。ふと、視線を感じて目を上げると目が合った美沙子さんに困ったように微笑まれてしまい慌てて頭を下げる。


「す、すみません!」

「良いのよ。こちらこそ不快な思いをさせてしまったみたいでごめんなさいね、あの人はちょっと…自分の仕事にプライドを持ち過ぎだわ。場馴れしていないと思って販売員が客を選ぶなんてプロ失格よ」


どうやらあの一瞬の眉の顰めでも美沙子さんの目には止まっていたらしい。それをまるで自分の事のように憤慨して下さる姿に、じんわりと胸が温かくなるのを感じた。



「でも、私が慣れていないのが悪いですから…」

「深雪さんは初めてやった事が上手く出来ない方を責めるのかしら?」

「…いいえ」

「それと同じ事よ、誰だって最初は慣れないものだわ。だから深雪さんは開き直って胸を張っていれば良いの。ましてやウチは五辻、でさえケチをつけたがる人間が多いんですから」


その言葉からは深い経験と自信がもたらす重みのようなものが滲み出ていて、今でこそ大奥様と呼ばれる美沙子さんにもお嫁にいらっしゃってすぐの頃には苦労があったのかな?なんて考えさせられる。

若い方が合わなければ他所に移りましょ。と珈琲を嗜むその姿にはとても頼もしさも感じられやっと私ははい。と笑顔で答えることが出来た。





「大変お待たせ致しました。こちらが本日担当させます緒方です」

「お初にお目にかかります五辻様、本日ご案内させて頂くことになりました緒方智恵と申します」


瀬川さんに紹介された緒方さんは優雅に頭を下げて下さった。

私にも目を合わせてニコッと笑って下さり、この方となら問題なくお話出来そうだとほっと胸を撫で下ろす。

それでは。と、瀬川さんが下がったのを見計らって美沙子さんが緒方さんにどうぞお掛けになって。と着席を促す。


「それじゃあ緒方さん、今日は宜しくお願いしますね。話は瀬川さんから聞いてるかしら?」

「はい大奥様。深雪様のパーティドレスとお化粧品をお探しとのことでしたね」


それを聞いて鷹揚に頷いた美沙子さんは、隣に座った私を見ると困ったように微笑んで頭をそっと撫でて始めた。

初めてのことに驚いて固まっているうちに掌は離れていく。こんなふうに、誰かに頭を撫でられたのなんて、一体何時ぶりだろうか…



「ご覧の通り、折角の可愛い自慢の孫娘だから、もっとうんと可愛くしてあげたいの。だけど今の若い方の流行なんかは私には分からないから同じくお若い貴方にお願いね?」

「なるほど…、畏まりました!お二人にご満足頂ける提案が出来るよう精一杯頑張らせて頂きます」

本日よりまた投稿していきます。

自分で思っていたより長くなりそうな気配がして参りました、どうぞよろしくお願いします。

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