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「……調査結果が出たか」
「はい、こちらになります」
恭しく手渡されるファイルを捲り、目を滑らせて確認した内容に大きく溜め息を吐く。
使用人の名前は日笠陽菜。
父は新興宗教の教祖で、母は信者の一人だったようだが既に他界しているらしい。
十六の時から働きに出ていて、少し前に人材紹介会社から久世に臨時の使用人として入り、働きを認められ直接雇用に変更されている。
「成程な、良くある話と切って捨てるには現実は厳しかった。という訳か――」
日笠陽菜の母方の親戚からは母親の所業により縁を切られていて父親は天涯孤独の上高校へ入学直前に逮捕。
元信者達からの詐欺の訴えや誹謗中傷から逃れる為各地を転々としている間に母親も死亡、その後父親とは縁を切ったようで一人働き細々と暮らしていたようだ。
向上心も高く、見た目も中々に美しい、調査報告には久世に保管されていた履歴書には載せられていなかった高級クラブの名前なども並んでいる。
どうやら紹介してきた会社でも、数年前に働いていたクラブで知り合った社長の伝手で入ってきたらしい。何処で嗅ぎ付けてきたのか、私は一番の金持ちを手に入れてやる。との発言があったとも書かれている。
「大山、どう見る」
「十中八九社長狙いだったのではないでしょうか。その会社には、過去に久世経由で五辻本家に移動になった使用人がおりました。どこからか話が漏れたのを都合良く解釈したのでしょう」
はぁ、と静まり返った社長室に思った以上に大きな声で響く溜め息。
調査報告のどれを見ても結局久世の暴挙の全てはこの使用人一人によって引き起こされていたということに収束していく、流石は詐欺師の娘と言ったところか…血は争えんな。
まずは久世の女主人に取り入り、打ち解けたところで身の上話で同情を引く、親身になって可愛がられるようになったら次は久世当主、そうやって一人一人陥落させていき最後には次男の昌輝を手玉に取った。
金持ちの次男坊、オマケに頭の作りも宜しくないといえばこの女にとっては赤子の手を捻るより容易い事だったであろう。
結果、メイドに色々と吹き込まれた久世家は深雪に辛く当たり、昌輝は誤った義憤から深雪を糾弾した。と…
深雪の身の回りの世話を久世に任せたのは完全に私のミスだな。
歳の近い娘が使用人に居るからきっと力になれるだろう。なぞと言う言葉を鵜呑みにしたのは間違いだったと認めざるを得ない。
「それで、どうされますか社長」
大山の問に思考の海から浮上する。
いくら久世と五辻の長い付き合いとはいえ、深雪は既に正式な五辻の一員、そして久世はあくまで五辻の分家であり本家に逆らえるような立場にない。
このまま舐めた真似をされたまま黙っている訳にはいかない。
「―――消せ」
そう言って報告書類をゴミ箱に捨てれば大山は深々と頭を下げ部屋を出ていった。
明日には何事も無かったように片付いているだろう。
そう、深雪には知らせなくていい、跡形もなく、何事も無かったかのように…
次回登場人物紹介を投稿しまして遂行期間に入ります、どうぞよろしくお願いします。




