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「ようこそいらっしゃいませリーデンス様、花園様。またそちらのお嬢様とはお初にお目にかかります、わたくし外商部の君崎と申します」
そう丁寧にお辞儀をして頂き慌てて私もお辞儀をする。
外商部、ってなんだろう?
よく分からないけれど凄いということだけは雰囲気で伝わってきてとりあえず帰ったら必ず調べようと心のメモ帳に書き留める。
「初めまして五辻深雪と申します、お二人とはお友達をさせて頂いております、宜しくお願いします…」
「ぶふっ深雪緊張しすぎ、何の挨拶それ!」
「ふふふ、ご丁寧にありがとうございます。五辻様のご関係者の方でいらっしゃったのですね、大変失礼致しました。宜しければ後ほど五辻の担当の者をお付け致しましょうか?」
「えっ!五辻担当…!?」
思ってもいなかった提案にど、どうしようと慌てて桃歌と結唯を見遣るとやれやれと首を振って桃歌が対応を変わってくれた。
「今日は三人でゆっくりしたいから申し訳ないけど君崎さんだけでお願いしてもいいかしら?うちの担当もいいわ」
「畏まりました。それではサロンの方にご案内させて頂きますね」
案内されるままにエレベーターに乗り込むと、桃歌が小声で話しかけてきた。
「全く何をそんなに緊張してるのよ」
「ごめんね、百貨店なんて来るの初めてだから…」
「初めて!?」
「どうかなさいましたか?」
「ごめんなさい何でもないわ」
思わず声を荒らげてしまった様子の桃歌に君崎さんが声を掛けるが、は慌ててそれを誤魔化している。
桃歌はこほん。と呼吸を整えるふりをすると小声で話を続けた。
「他所様の生活に口出しするものじゃ無いかもしれないけど…深雪は元々穂波の人間じゃない?」
「うん」
「充分百貨店に買い物くらい来られる家だったと思ったけど、違ったの?」
「うーん、お母さんとか叔母さんと従姉妹とかはよく来てたみたい。あ、おばあちゃんも来てたのかなぁ?」
「それなら深雪だって、それともお母様の方針で子供は〜みたいなこと?」
「ううん。私は穂波の面汚しだから、一緒に歩くのはって」
そう返すと桃歌は言葉を失い絶句していた。
何かを言おうと口を開いてみるが言葉選びに迷っている様子だった。
そうしているうちにエレベーターは目的の階に到着したようで、ポーンという高い音の後に扉が開きフロアへと降り立った。そこからまた案内され、少し端の方にあるお高そうな扉を潜るとそこには品のある雰囲気漂うサロンが広がっていた。
受付のお姉様方はこちらをみて頭を下げる、中にはちらほらと他のお客さんが座って寛いでいて子供だけの私達をちらちらと見ている人も居た。
「こちらの者が奥へとご案内致します、わたくしは新作コレクションとカタログの方をお持ち致しますので少々お待ち下さいませ」
そういって君崎さんは一旦下がると受付に居た綺麗なお姉様が案内を変わった。
ちらちらと見られる目線に居心地の悪さを感じつつ部屋を横切って案内されたのはさらに奥の個室だった。部屋はルームキー式になっていて案内してくれたお姉様がそれを解除し中へと迎え入れられる、中はサロンよりも高級そうな革のソファとテーブルがお出迎えする優雅な空間となっていた。
「早速お飲み物をお伺いしても宜しいでしょうか」
座ってソファのふかふか具合を確かめているとメニューを差し出されて飲み物の確認をされた。
なんと、ここは飲み物まで出るのか。
「私コーラ!」
「じゃあ私はコーヒーホットで」
二人が滑らかに注文を終えてしまうので慌ててメニューを見るとまるでカフェのような品揃えの豊富さに驚く。
紅茶一つとっても五種類からの品揃え、桃歌の頼んだコーヒーも同じくらい種類が揃っているようだった。迷ってから下の方に合ったフルーツジュースを注文するとお姉様はさっと下がっていった。
「はー快適、それより二人ともさっき何の話してたの?」
「え、えぇ…」
「私が百貨店初めてで緊張しちゃってる話だよ」
「初めて!?」
「お恥ずかしながら」
「それが普通の反応よね…」
「深雪前だって穂波でしょ?何で??教育方針とか?」
「うーん、色々、ね」
「ふーん、そっか!それより初めてなら折角だしお店見て回る?」
「あらいいわねそれ」
「えぇ〜!お店って言われてもどういうの見たら良いかわかんないよっ」
先程の桃歌の反応をみて余り話すべきじゃないような気がして今度は言葉を濁してみたが結唯は何かを察したように話を逸らしてくれた。桃歌もそれに乗って笑ってくれている。
私はつくづく友人に恵まれているのだと今日何度目か分からない痛感をした。
悩んでいた間の書き溜め分を纏めて投稿しました。
明日からまた推敲期間です。




