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綺麗な磨りガラスの器にカリカリに焼かれた小さなおにぎりとネギ、綺麗な白身のお魚の解し身が乗っている。
一緒に添えられた小さな小皿には合わせ味噌と一緒に細かく刻まれたとうもろこしが合えてある、1粒摘んで口に運ぶと焦がし醤油の風味ととうもろこしの甘みのたっぷり詰まった屋台の焼きとうもろこしと同じ味がした。
焼きもろこしが混ぜてあるんだ…
冷茶を回し掛け解して食べるとほっと体の力が抜けるようなお味だった。
味噌を合わせるとまた雰囲気が変わり甘みと旨味を同時に感じるようなしっかりとしたお味に変わる。
このお茶漬けだけで5杯は食べられそうなお味だ。
ふと、お茶漬けに夢中になっている横から新しいお皿を差し出されそちらに目線を向けると、氷のような形の半透明なゼリーに包まれた枇杷のお菓子が乗せられていた。
「最後の生菓子です」
ゼリーもよく味わって食べ終えると、お腹は充分脹れた筈なのに何故か物足りないような寂しさを感じた。
「ご馳走様でした」
三人ともが手を合わせて食事を終えると奈々さんがにこにことこちらを見ていて目が合った。
「ほんまに美味しそうに食べよるねぇ、深雪さんは」
それはそれは嬉しそうな笑顔で言われてしまい今更ながら夢中で食べてしまったな、と恥ずかしくなってきて顔が火照るのを感じた。
「お母さんご飯美味しそうに食べる人大好きだもんね、パパともそれで結婚したんでしょ?」
「ええそうよ、ほんまに美味しそうやったからつい結婚しちゃったのよぉ」
「その話何度も聞いたけどついで結婚するって本当に凄いですよ、運命ってそういうことなのかしら?」
奈々さんは意味有りげにうふふ、と嬉しそうに笑って返していた。
「本当にご馳走様でした、美味しかったです」
「お口に合ったならよかったです。またいらして下さいね、桃歌さんも」
「はいおば様、是非また」
「じゃあお母さんまた夜にね」
「分かったわ楽しんできなさい」
まるで夢のような食事の時間を終え奈々さんに見送られながらまた私達は車に乗り込んだ。
結唯が笑顔で手を振る中緩やかに車は遠ざかっていく。
「結唯、本当にありがとね」
きっと私の話をきいたあの時セッティングしてくれたのであろう結唯に感謝の言葉を告げると、結唯はむず痒そうに手をそわそわと動かした後に明後日な方向を向きながら返事をしてくれた。
「ん?ん〜〜、気にしないで!深雪最近ちょっとお疲れ気味だったみたいだし元気になってくれればそれで良いよ」
「結唯…」
嬉しくて温かくて涙腺が緩みそうな私の頭を今度は桃ちゃんが笑いながらぽんぽんしてくれる。
「そうね。深雪の所…というか久世の方では色々あったみたいだし、今日は深雪にご褒美の日っていうことにしましょ」
「桃ちゃんまで…なにそれみんな天使じゃん…」
「あはは、天使だって!深雪たまにめちゃくちゃ面白いよね!」
「全く深雪は気を使い過ぎなのよ。さぁ気を取り直して、次は深雪に私達のいつものコースを教えてあげるわ」
一体どこに連れていかれるのかと思っていると、向かった先は日本橋からほど近い百貨店のひしめき合う地、銀座だった。
その中でもあろう事か1番大きい有名百貨店の駐車場へと車は滑り込み地下入口へと付けると、ビシッとパンツスーツを着こなした控え目な美しさと芯の強さが伺える女性が私達を出迎えて下さった。




