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唯結はあの後宣言通り桃歌もちゃんと誘った様で教室に入るなり桃歌から土曜日楽しみね!と声を掛けられた。
学園に入ってから友達と遊ぶのなんて初めてで、それから今日までずっと緊張して過ごしてしまった。昨日の夜には香重さんに相談してお洋服は相談済みだ、お化粧も少し教えて貰ったのできっと大丈夫だろう。
あと、何処から聞きつけたのか父から今回は間に合わなかったが次回までにはカードを持たせよう。楽しんできなさい。と恐ろしいメッセージが来ていたような気がしたがカード云々はスルーしてありがとうございます。とだけ返信しておいた。
ピンポーン、と、軽快な音のチャイムが鳴りドキドキしながら開けるとそこには久々に見る私服姿の結唯と桃歌が待っていた。
「お待たせ今日は宜しくね」
「宜しくね深雪、ってあら?珍しくお化粧してる!」
目敏く頑張った箇所を見つけて貰えて嬉しくて顔がぱあっと熱くなる。
二人は可愛い、綺麗、なんて口々に褒めてくれて頑張った甲斐があったものだと胸が暖かくなるような感覚がじわじわと広がっていく。
「下にうちの車待たせてるから行こう。あっ猫ちゃん可愛いね、バイバーイ!」
部屋の奥の方でひょこりと顔を出し様子を伺っていたカヌレは、気付いて手を振る結唯に驚いたのかさっと引っ込んでしまった。
結唯はそれを見てがっくりと凹んでいる 。
桃歌と私はあまりの凹み具合に二人でくすくす笑いながら車まで向かい、そこからはもうおしゃべりおしゃべりおしゃべりであっという間に時間は経ち気付いた時には都心のど真ん中、新宿に到着していた。
「うーん娑婆の空気〜」
「何言ってるの結唯ったら。でも新宿は久々かも、深雪は?」
「うーん…半年振りくらいかも」
「「えっ」」
綺麗にハモった二人を見てまた笑いそこからはもう楽しいお買い物タイムの始まりだった。
よくよく聞いてみると二人とも百貨店でのお買い物が多いということらしく、私のいつもの遊び方が知りたい!とせがまれたのでまずは流行りのドリンクを並んで買い、それを片手に路地を歩いて若者向けファッションビルへと向かった。
見るもの全てが初めてらしく、二人は終始凄い!安い!ありえない!を連呼しながらショッピングを楽しんだ。
「一般の人ってどこで遊ぶんだろうって思ってたけどこんな感じなのね!」
「一般の人っていう言葉がもう面白いよ桃ちゃん、でも二人とも楽しんでくれてるみたいで良かった」
「もうめちゃくちゃ楽しいよ、ねっ桃歌」
「本当に!こうやって自分の足で見て歩いてお買い物するのってこんなに楽しいのね」
うんうんと頷き合っている二人の手には山のような買い物袋、私の方はというといつもの癖でついウィンドウショッピングで満足してしまい買ったのはそろそろ切らしそうだったノート一冊だけだ。
「そういえば、二人とも荷物増えてきたけどどうする?コインロッカーとか入れる?」
「え?コインロッカーだと取りに戻る手間があるじゃん、そろそろお昼だしお店移動したいから車呼ぶよ」
お、お金持ち…!
コインロッカーは手間だから荷物を置く為にも車を呼ぶなんてこの都心のど真ん中でなんて贅沢な車の使い道だろうか。
お安い分配送してくれないのは玉に瑕ね、とサラリと返す桃歌を見る限り富裕層では配送が当然のような口振りだ。
やはり恐ろしい、お金持ち―――
少し大きな通りまで三人揃って歩くと直ぐに朝と同じ車がやって来くる、そして私達を乗せるとまた滑るように発車した。
唯結はどこに向かっているかを教えてくれないが一体どこに向うのだろうか。




